様々な会社から集いE Vを考える職場を豊田章男が訪問 その3

2019.12.25

ZEV B&D Labという部署をサプライズで訪れた豊田。そこで急遽はじまったQAセッションの続きを、紹介していきたい。

ZEV B&D Labという部署をサプライズで訪れた豊田。
そこで急遽はじまったQAセッション。その続きをここからは紹介していきたい。

質問者
私はZEVファクトリーの中でもある種、特異な三井物産から来てます。技術系ではありません、商社の人間ですから販売や事業化に向けた事をやっているのですが、事業戦略企画というチームをこのZEVファクトリーの中に持つという事を、社長は率直にどのようにお考えか教えていただきたいです。

豊田
ここのZEVファクトリーにそういう
B&D(business and development)があるのは、非常にいいなと素直に思っています。というのは、大企業になっちゃうと、それぞれ役割分担になるじゃないですか。だから事業を考える人は事業を考える人、開発する人は開発する人、そういうふうに分かれていく。しかもその開発ももっと細分化していって、あまり車というものを見なくなってしまう。それぞれの専門領域もいいんですけれども、ビジネスと開発というものを、少なくとも同じ部屋で同じ空気、空気感でやっていることは僕は素晴らしいと思う。

逆に私から質問ですが、車って好きですか?自分で買ったことあります?

質問者
はい。プリウスを買ってます。

豊田
ということは、自分で販売店に行って買った?

質問者
もちろんです。

豊田
そうすると、それは全体から見れば、たった1つの事例に過ぎないんだけど、そこに体験があったでしょ。買う時には、自分の中でいろいろ悩み事もあったでしょ。このスペックいいけどこれは高いなとかね。その感覚を、n数は1であったとしても、大切にしてください。
とかく事業を考えるというと、いろんなことを平均値で見たりします。ところがn1っていうのは、自分が感じたことなんですよ。自分の事実、真実なんですよ。それでいけば絶対にn数2、3、4の共感が出てくるはずなんです。だからぜひとも平均値で、統計学みたいなことで車の売り方を考えないようにして欲しい。

なんでこんなことを言ってるかっていうと、トヨタはそうやって(統計値、傾向値で)売ってるんですよ。だからそうじゃなくて、もっと自分がリテールに入っていく。所詮nの数が少ないよねと、社内で相手にされないかもしれないけど、だけどそのn1がスタートなんですよ。それは紛れもない事実なんです。自分が感じたことなんです。それをベースに考えていけば、高いなとなれば安くする方法を考えるし、高くても買うものあるじゃないですか。だからそれはなんなの?というのを、まず自分の感性で考えていく。それで共感者を生む。それをぜひ出発点にしてほしいなというふうに思います。

n数1の話を聞いて、次に手をあげたのは、トヨタのベテランの社員。豊田にお願いがあって手をあげた。

質問者
質問というかお願いがあるんですけれども、今、n数1っていうお話が出てきて、私、前々からずっと思っていることがありまして、トヨタ自動車の若い方を、ぜひ海外にたくさん出してほしいと思ってるんです。

豊田
僕もそう思ってる。

質問者
そうですか。私の話はそれだけです。

会場
(笑)。

豊田
どっちかというと本社に配属になるより、現場に近いところに配属になるほうがエリートだといわれるカルチャーにしたいんです。本当のことを知れるのは、やっぱり若い吸収力のあるときだと思うんですよ。だから僕もそれ(海外に行くこと)は言ってるんです、ずっと。でもなかなか出来ないでしょう。それが僕の実力不足。だけどそろそろ本当にやると思います。10年掛かった、これは。

質問者
私は、もうすぐ定年です。世界中いろんな国を旅行するのが大好きで、いろんなところで車を見たり使い方を見たりしていると、やっぱりトヨタで開発している方々に見てほしいなってすごく思うんですね。実際、今、1,000万台売ってる中で、海外でつくられているのは700万ぐらいです。じゃあトヨタの中にいる日本人ってどのぐらいだろうっていうと、その逆ぐらいで、8:2とか9:1ぐらい。日本の方が開発をして、それだけ海外で売っているので、もっともっと海外に出ていったらもっと売れるんじゃないかって僕はずっと思ってます。

豊田
もっと売れるんじゃなくて、もっといい車がつくれるなって。

質問者
はい、そうですね、もっといい車がつくれると。ニーズに合った、あるいは現地のお客様が本当に欲しい車を売っていけるようになれれば。

豊田
そうそう、だからやっているのが「5大陸走破プロジェクト」。

なんで5大陸走破をやり始めたか?というと、ニュルの24時間耐久レースをやっていた経験から思いついたんですよ。

ニュルってサーキットというよりも、厳しい公道のようなところなんです。

その厳しい道を24時間走り続けるレースを、僕自身もドライバーとしてやってきましたが、そこで一緒にやってくれている社員メカニックとか社員エンジニアって、本当にいい経験ができてるなと、ずっと私は思ってました。

そういう体験を、もっと多くの社員にもやってもらいたい…、
でも、これはニュルという道だからこそできる経験ですし、そこで行われる24時間レースは1年に1回しかない…。

それと同じ経験を多くの人にやってもらうのは、無理なんですが、(質問者の方が)おっしゃったように、世界中には、いろんな道がありますよね。
それで、思いついたのが5大陸走破なんです。

それでも、その道に行ける人(そこに参加できる人)は限られてしまいいます。
限られているけど、より多くの人が、世界の道を経験できるプロジェクトにはできた。

国内にもテストコースは、いくつもあります。そこには波状路(ガタガタしている路面)とかがありますよね。
それらは、世界のどこかの道を模した道なんですけど、国内のテスト走行で走るのは、せいぜい数百メートル走ることしかできません。

でも、現地の走破を体験した人は、延々と続く波状路のような道を、2日間とか走り続けるんです。
そういう経験をした人は、国内で数百メートルの波状路を走る時にも、そこを延々と走らないといけない現地の人の感覚を想像しながら走ることが出来るようになるんです。数百メートルの波状路しか走ったことのない人と、現地を走ったことある人では、評価走行の走り方が、絶対変わってくると思うんですよ。

だから、なにもサーキット走行とか、ラリーとかそういう経験をすることだけが「走れる」ということじゃなくて、普段の道からでも学べるようなことも僕は絶対必要だと思います。

ところで(質問者の方は)世界中、運転してるんですか?

質問者
運転はアメリカでしかしてなかったです。東南アジアでは(運転はしてないですが)、車の使われ方を見ていると「こんな使い方があるのか」と気づくことが多いです。

豊田
そうそう、向こうでは最大積載量なんて関係ないですよね。だからそういう実態というか事実というか、そういうのが必要。
例えばランドクルーザーというのは荒い使い方をしようが、命を運んで帰ってこれるということが大切。
だからあの車は1,000万人のお客さまに支持をされた車であるし、1つのトヨタの耐久性の価値を体現している商品であるというふうに思いますね。
だから若い社員も、現場に、どんどん出すつもりですので、たぶん来年からやっとなってくると思います。

質問者
ありがとうございます。

次に手を挙げたのは、地域と関わりながら仕事を進める社員。豊田の言う「日本を元気にするためなら何をしてもいい」その言葉を受けて質問をした。

質問者
私は、いろんな地域自治体の皆さんと地域実証のお手伝いをさせていただいています。震災を経験されたところとかも含めて、色んな方とお付き合いさせていただくことがあります。そうした経験の中で、地域の為に何かお手伝いできればと思っています。

そんなことを思っている中で、さっき社長が「日本を元気にするためだったら何をしてもいい」っておっしゃった言葉を聞いて、すごく嬉しく思いました。

私たちができるような地道なことも大事だけど、もっと大きい動きもあるといいなと思ってます。
社長が今後、日本を元気にするために仕掛けていこうと思っていらっしゃることがあれば、ぜひ教えていただきたいなと思います。

豊田
皆さんが思う「こういう世界があったらいいな」というのを実現していく努力を、ずっと続けてください。
努力を続ける中で、進めなくなって、どこかで止まったら、それを打ち破る手はずを、一緒に考えましょう。

「こういうものが欲しいな、こういう世界があったらいいな、これだったらいいな」がスタートだから、「大きなこと」も、やっぱりn数1からのスタートなんですよね。
今は、あらゆることが多様化していますから、個性もあります。
その個性が大切だから「それは一部の意見です」と言わずに、自分の思ったことを大切にして、まずはやっていくということが大事なんじゃないでしょうか。

繰り返しますが、この会社であれば最終責任者は、私"豊田章男"1人なんです。
そこがはっきりしている以上は、皆さんは、やっぱり何をやってもいいんですよ。
だけど、その代わり「日本のために」とか「他の誰かを元気にさせるために」っていう言い方を絶対にしてくださいね。

なぜ、そんなことを今、僕が皆さんに話をしたいかということ、先日、SUBARUに行ったときに、あるエピソードがあったからなんです。
なんで、明日ここにSUBARUの中村社長が来るか(質問者の方は)知ってます?

質問者
SUBARUからの出向者が、ここで頑張っているのをご覧になる…ということですか?

豊田
そう。でも、そのきっかけを作ったのは、SUBARUの労働組合の仕事をしている女性だったんです。
僕がSUBARUに行ったときに、中村社長も僕もいて、その職場でも、こういうQAセッションをしました。
そうしたら、その女性が「私は労働組合の仕事もしてるんですけど」と言って、私たち(中村社長と豊田社長)に質問をしたんですよ。

そんな切り出しだったから、僕は「自分たち(組合員)の要望を、ここで言うのかな?労使交渉が始まっちゃたかな…」っていう感じで思ってました。
そうしたら中村社長に対して「トヨタに出向で行ってる社員の現場に行ってあげて、話を聞いてあげてください」というお願いをされたんです。

自分以外の誰かのためにということを、大切にしてる社員がいる会社だな…素晴らしいな…って思いましたよ。

トヨタでは、春の労使交渉で「No」って言う回答したでしょ。
INSIDE TOYOTA #12 「家族の会話をしよう」~今回の回答に込めた想い~ トヨタ 春交渉2019

それは、トヨタの労働組合側が「あまりに自分のことばっかり言い過ぎじゃない?」というところがあったからなんです。

それで、秋の再交渉の前に、自分の目でいろんな職場を見て回りました。
INSIDE TOYOTA #40 衣浦工場を歩く~豊田章男の見た景色
INSIDE TOYOTA #42 田原工場を歩く~豊田章男の見た景色

そうしたらトヨタも、全員が、自分のことばかり考えてるわけじゃないなってことが分かった。

やっぱり自動車産業というのは多くの人の支えがないとできないんですよ。
周りから、「トヨタさんだけ、いいね」というふうに言われてるようじゃ、誰も一緒にやってくれない…。
だから、自分のやりたいことが、本当に誰のためなんだ?っていうところの軸が大切で、ここだけは本当にブラさないで欲しいと思ってます。
お願いしますね。

質問者
品質について少しお話をお聞かせ願いたいと思います。私、公聴会で豊田社長が米国に行かれたとき、アクセルを担当しておりました。そういう意味で、今回、EVを世に出すに当たってすごく責任を感じてますし、品質問題は絶対に出したくないという思いでいます。正直、あの問題が起こったときに、大げさではなく、トヨタがつぶれるかもしれないというふうに感じました。今回、トヨタ、SUBARU共同でEVの開発をするに当たりまして、世間は大変注目しているというふうに思っております。なので品質問題、それだけは出さないというつもりで開発をしております。品質に対する豊田社長の思いを、豊田社長の口からお聞かせ願いたいなと思いまして。

豊田
1つは、やっぱり車っていうのは危険なものなんです。1トン超えるものが100キロ以上で走る。それが急に曲がったり止まったり。これ自体が危険な行為ですよね。そもそも危険。それをFUN TO DRIVEとか、車って楽しいよねとかいう部分もあるけど、FUN TO DRIVEも、危険だって知ってるからFUN TO DRIVEなんですよね。だからそれがまず一番大事だよということをまず覚えておいてください。

車という商品は、数ある工業製品の中でも「愛車」と言われるように、愛をつけてもらっています。それともう1つは、車という商品は、命を預かっています。その中で、今、CASEとかいろんなものがあって、電気自動車がある。トヨタが安心って言うってことは、やっぱり100万台の安心値なんですよ。
トヨタが出す以上は、やっぱり100万台。100万台をベースにした安心・安全というものがベースにありますよということは、われわれ忘れちゃいけないことだと思います。

それで、電気自動車の不安は、電池って寿命があるよねと。そうなったときに、中古車になったとき、果たしてどのぐらいバリューが残ってるんだろうか。その電池代って自分が負担するのかなとか。だから今まで、例えば新車を買ってもらった。それから中古車を買ってもらった人も、中古車1世代から2世代に移っていくときに、もうずいぶん経年している車が、本当に電池の寿命を誰がアフターしてくれるんだろうと、嫌でも気になりますね。

不安な点を1つ1つ正しく理解をしてもらう努力は必要。だけどその中で、何も説明なくても、やっぱりトヨタが出したっていうことは100万の命を守るメッセージだということを分かった上で、ぜひ開発を進めてほしいなと。だけど、そんなこと言ったら慎重になりまくって全然出来ないでしょ、ね。だからそこはやってみてください。すぐ100万台になるわけじゃないの。

技術開発っていうのはリスクが伴うんですよ。だからこそ責任者がいるんじゃないですか、そこに。その責任者が「チャレンジしろ」と言ってるんだから、トヨタが出す以上は100万人の命を保証するって言ってる本人がチャレンジしろって言ってるんだからチャレンジはしてください。

それで、最終的に私が乗って、感じて、どうかという判断はしていきますから。だから自分の中で新しいチャレンジのスピードを止めるとかいうことは絶対やらないでください。新しいことにはリスクがあるの。じゃあリスクがあることはやらないかって、やるんですよ。それでやらなければ確実に、公聴会のときに死にかけたトヨタは、確実に死に向かいますから。そこでリスクを追わずに新しい技術開発をやめたら。
それは嫌でしょ。それならチャレンジはしなさいと。その代わり、その中に、「自分がやった」、という感じではなくて、100万の命を守ってるんだ、だけど新しいものにチャレンジしていくんだというところを、ぜひ、ぶらさない軸として、やっていただければ、あとは本当に安心してやってもらえばいいと思いますよ。

質問者
ありがとうございます。

豊田
やれる?

質問者
もう肝に銘じてやります。

豊田はこういった後、全員で集まって写真を撮影した。
カメラに収まりきらないほどの人数がいるZEV B&D Lab。厳しい言葉もあったが、豊田の言う、「責任はとるから世のために、とにかくチャレンジをし続けて欲しい」この言葉を受けた全員の顔にはどこか晴れやかな空気が漂っていた。

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