コラム
2021.12.27

【ニューイヤー駅伝応援企画】トヨタ自動車陸上長距離部の拠点、選手寮と田原工場に潜入。強さの秘密を探る!

2021.12.27

元日に行われるニューイヤー駅伝を控えた陸上長距離部。躍進の秘密を探るべく、選手寮では管理栄養士さんに、田原工場では後援会事務局に話を訊いた。

実業団チームの強豪、トヨタ自動車 陸上長距離部

2015年、16年と「全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)」を連覇するなど、トヨタ自動車「陸上長距離部」は実業団チームの強豪として知られる。2021年8月の「東京2020オリンピック」で、男子マラソン競技に出場した服部勇馬選手の力走も記憶に新しい。

2021年1月、「ニューイヤー駅伝2021」を2位でフィニッシュした陸上長距離部の19名の部員たちは、王座奪還を目指し、この1年間厳しい練習を重ねてきた。しかし、ここで紹介したいのは陸上長距離部を支える人々だ。個人の成績に注目が集まりがちな陸上競技であるけれど、彼らが競技に打ち込めるのは、多くの方々からのサポートがあるからなのだ。ここでは2022年1月1日に行われる「ニューイヤー駅伝2022」を前に強さの秘密を探ってみた。

陸上長距離部の拠点は三河湾に面した田原工場

トヨタ自動車の陸上長距離部の拠点は、愛知県田原市の田原工場。渥美半島に位置し、三河湾に面したこの工場は、SUVやレクサスの各モデルを生産している。陸上長距離部の選手たちは田原工場の各部署に配属され、業務を行いながら練習に励んでいる。

田原工場にほど近い住宅街の一角に、陸上長距離部の選手寮がある。選手寮の食堂で、選手たちの栄養を管理する藏薗めぐみさんに話をうかがった。

大学で栄養学を学んだ藏園さんは、病院や社員食堂の食事を提供するエームサービスジャパン株式会社に入社。いくつかの企業で管理栄養士としての業務を担当した後、3年前からトヨタ自動車陸上長距離部の選手寮に配属されている。藏園さんは、選手寮で仕事をすることが決まったときのことを、こう振り返る。
私は、高校時代に柔道部に所属していました。そこでスポーツと栄養の関係に興味が湧いて、大学に進んでこの分野を学びました。だから、まさに自分がやりたいと思う仕事です
管理栄養士の藏薗めぐみさん

美味しくて栄養管理も行き届いた選手寮の食堂

選手たちの朝は早い。まず朝6時から730分頃までの朝練習をこなし、そこから朝食を摂るために食堂に姿を現す。

朝はなかなか食が進まないという選手も多いので、なるべく食べやすいものを用意しています。朝食の時間は730分から830分までで、選手たちは9時の始業に向けて出発します。食事を提供するのは朝と夜で、昼は選手個人に任せています。でも、お昼はしっかりと食べているかな、と少し心配になりますね(笑)

選手たちは14時まで業務を行った後、午後の練習に向かう。練習は寮から5kmほど離れた白谷海浜公園内陸上競技場や、田原工場の敷地内に設けられたクロスカントリーコースで行われる。取材を終えてからクロスカントリーコースを訪ねたところ、ウッドチップで固められた11kmのコースはよく整備されていて、サポート体制が整っていることを実感する。

厚生センターと、その近くにあるクロスカントリーコース

午後の全体練習は15時から18時まで、そして練習を終えてから19時30分までが夕食の時間となる。陸上長距離部の食事を担当するようになって、藏薗さんが一番難しいと感じているのは必要とする栄養に個人差があることだったという。

ひとりひとり体質も体格も違いますし、1万メートルとフルマラソンでは理想の体重も変わってきます。そこは選手とコミュニケーションをしっかりととって、なるべくきめ細かく対応するようにしています。文献を引いて長距離選手に必要な食事を学ぶことも続けていますが、それ以上に、選手をよく見ることが大事だと感じています。最近、食べ残す量が増えているとか、以前と食事をする時間帯が変わってきたとか、常に気にかけています。3年間担当させていただき、

しっかりと食べることのできる選手は強くなるということがわかってきたので、食べてもらえるような食事づくりをしていきたいですね

藏薗さんが栄養管理とともに大事だと考えているのは、食事はリラックスしたりコミュニケーションを図るための時間でもあるということだ。

クリスマスやハロウィンなどのイベントは楽しく盛り上げるように工夫しています。また、週に一度はご当地メニューなどのイベントメニューを用意していて、たとえば今週だったら山形県の食材を使ったご当地メニューを提供します。選手からリクエストが来ることも多くて、そこでは鰻が一番人気ですね。

練習は厳しいですし、結果を出さなければいけないというプレッシャーもかなりあると思うので、食事の場では選手の気持ちを和ませたいと思っています

試合前の緊張感とファンの方々の熱意

陸上長距離部のスタッフによれば、寮の食事はおいしいと好評で、自宅で生活する妻帯者も朝食はここで摂るという人も多いという。

毎年、12月の声を聞くと、正月のニューイヤー駅伝に備えて選手寮で合宿に入る。合宿期間は、妻帯者を含めた選手全員が、昼食も選手寮で食べることになる。

緊張感も増し、初めてニューイヤー駅伝に出る選手は緊張で食が進まなくなることもあります。選手の表情や食事中の姿を見て、硬くなっているな、と感じたら、緊張をほぐすために甘いものやその選手の好物を出すことにしています

2位で終えた2021年のニューイヤー駅伝では、藏薗さんも本番が近づくとともに緊張感が増し、同時にわくわくもしたという。

私も柔道をやっていたので、試合前のプレッシャーや、思うように走れなかったときの悔しい気持ちは多少理解できます。この寮に来て感じたのは、田原工場だけでなく、地元の方や合宿先のみなさん、それにファンから応援されているということですね。差し入れをたくさんいただくなど、応援してくださる方の熱意がすごい。私も、食の面からサポートしたいと思っています

充実した設備を誇る選手寮のトレーニングルーム

藏薗さんのお話をうかがってから、選手寮を見学させていただく。現在は強豪として知られるトヨタ自動車陸上長距離部であるけれど、実はその歩みは順風満帆というわけではなかった。

2000年代に入ると成績が低迷、一時は廃部の危機もあったという。しかし2008年に現在の佐藤敏信監督が就任してからは、常に好成績を維持。ニューイヤー駅伝に優勝したご褒美として、この選手寮が建てられたという。

トレーニングルームには一般的な筋トレの機材のほか、高地トレーニングの効果が得られる低酸素ルームや、疲労を回復できる高酸素ルームなどが設置されていることが目を惹く。設備を充実させるというサポートも、近年の好成績につながっているのだろう。

写真左:内部にランニングマシーンが設置され、好きなときに高地トレーニングができる低酸素ルーム。写真右:疲労回復に効果的な高酸素ルーム

日々の業務として運営される後援会事務局

田原工場に一歩足を踏み入れると、あちこちに陸上長距離部のポスターが貼られ、選手を紹介する冊子なども置かれていることに気づく。また、各部署には写真や成績表で陸上長距離部の選手を紹介する応援ブースが設けられているなど、工場全体で陸上長距離部を応援していることが、ひしひしと伝わってくる。

第1組立工場の入口付近に設けられた応援ブースと、仕事中に通りかかった陸上長距離部の松本稜選手

こうした陸上長距離部を盛り上げるための施策を担当し、3600名にのぼる後援会を運営しているのが、田原工場工務部の後援会事務局だ。後援会事務局という名称から、陸上長距離部を応援する人がボランティアで行っていると勘違いされるケースもあるようだけれど、そうではない。田原工場の各部署からローテーションで配属された社員が、業務として後援会事務局に専従しているのだ。

現在は3名の社員で後援会事務局を運営しており、それぞれが2年間この業務を担当する。業務の内容は、多岐にわたる。まず第一に、約3600名の後援会会員の管理がある。3600名の内訳は3000名がトヨタの社員で、残り600名が一般のファン。会員に向けた会報誌を出すほか、コロナ禍の前は大きな大会の応援ツアーなどを企画していた。

写真左から、後援会事務局の松井聖衣、佐々木麻美、上司の竹内智彦、東海林侑也

4ページの会報誌『Hey! ちょーきょりぶ』を見せていただくと、まず最新号で第260号になるという歴史に驚く。1996年に発足した後援会には、25年の歴史があるのだ。ちなみに発足当時の会員数は96名で、25年で組織が大幅に拡大したことがわかる。

また、4ページの内容の濃さにも目を奪われた。佐藤敏信監督と大石港与キャプテンのインタビューから、さまざまな大会の結果、そして辻大和マネージャーの『ひとりごと』まで、盛りだくさんなのだ。後援会事務局の3名が、企画を出し、取材を行い、記事としてまとめているという。また、前述した工場内のポスターも同様に、3名でアイデアを出し合ってデザインや内容を決めているとのことだ。

写真左:月刊の会報誌『Hey! ちょーきょりぶ』。写真右:毎年更新している陸上長距離部の『メンバーズガイド』

トヨタは社員同士のコミュニケーションがスムーズ

後援会事務局の東海林侑也は、後援会事務局の仕事について、こう語る。

入社してずっと車をつくってきたので、最初は戸惑いました。正直、陸上長距離部の活動は無関心でしたが、いまは後援会のみなさんと同じように、応援するようになりました

自身もランニングが趣味で、トヨタの社内駅伝にも参加した経験のある佐々木麻美は、この仕事のやりがいについてこう述べる。

走るのが好きで、トヨタの選手も応援していましたが、一般の社員と選手は少し距離があると感じていました。その距離を縮めたい、というのがこの仕事をやるうえでのモチベーションですね

この部署に移動してまだ半年という松井聖衣は、車をつくるわけではないこの部署にも、トヨタらしさを感じたという。

新しいことにチャレンジするのを後押ししてくれる風土がトヨタらしいと思います。たとえば後援会事務局が一度に4種類のSNSを立ち上げたこともそうですし、東京2020オリンピックに出場する服部勇馬選手に応援動画を届けようという試みにも、みなさんが協力してくださいました

松井によれば、田原工場にある7つの門で待ち構えて帰宅する社員に応援のメッセージを依頼、それを撮影して編集したという。結果、850名もの社員による応援動画を服部選手に送ることができた。

松井は、こう続ける。

オリンピック後の報告会で、服部選手が応援動画に感謝の言葉を述べてくれました。動画を撮っている時に思ったんですが、前例のないことでも、とにかくやってみることのほかに、社員同士のコミュニケーションがスムーズなところもトヨタらしいと思いました

「ニューイヤー駅伝2022」(2022年元旦)を控えて、選手寮では緊張感が高まる中で藏薗さんがメニューを考えている。田原工場の工務部では後援会事務局の面々が、コロナ禍で現地に行けない状況での応援方法を模索している。トヨタ自動車陸上長距離部は、こうした人々に支えられながら「ニューイヤー駅伝2022」での勝利を目指す。

ニューイヤー駅伝の見どころを優勝経験者の尾田賢典が解説!

元旦の観戦をもっと楽しみたい人は、トヨタイムズ放送部の12/15放送回「悲願の優勝に襷をつなげ! 元アスリート社員と一緒にニューイヤー駅伝を知りつくそう!」をぜひ視聴してほしい。元トヨタ自動車陸上長距離部で日本代表を経験し、2011のニューイヤー駅伝初優勝の立役者でもある尾田賢典がゲスト出演。当日の見どころをたっぷりと解説してくれている。

66回全日本実業団対抗駅伝競走大会(ニューイヤー駅伝)

開催日:202211日(土)

会場:群馬・前橋

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