
2024年に開かれた技能五輪国際大会と全国大会。トヨタイムズでは、それぞれの大会で金メダルを獲得したトヨタ勢8人による座談会を実施した。
体も“五輪仕様”に
――先ほどのルーティンの話では、久保さんから平常心を保つための工夫を伺いましたが、体づくりで気を付けていたことはありますか。
プラスチック金型・久保 プラスチック金型は4工程あって、合計時間は大体9時間いかないぐらいなんですけど、大会の日程は1週間あります。1工程で1日だったり、間に1日休みがあったりで、どう過ごすか(も重要)。
大会1カ月前ぐらいから寝る時間だったり、食べるものだったりを意識しながら、決まった時間に寝て起きて、いつも通りの体調で本番に臨めるように意識していました。

車体塗装・菅田 僕の職種では、職種リーダーの方が「特に食事には気をつけて」と言っていて、油物を取ると、体調が悪くなったりするので気を配っていました。課題に集中するために、脂っこいものや乳製品はあまり摂らないようにしていました。
――それは、大会の直前ですか。
車体塗装・菅田 年中気にしていました。常に同じような状態で訓練から本番を想定していましたので。
――長時間の競技に備えて体力づくりもされていたのでしょうか。
自動車板金・小石 全国大会だと、(国際大会のような)自動車修理じゃなくて、1枚の鉄板を叩き続ける競技になっています。本当に体力勝負で、ハンマーを振れなきゃ始まらない。そういう面だと、筋トレだったり、ランニングだったり、僕は走るのがすごく嫌いなんですけど、そういったことをやっていると、板金始めたころから握力が倍になっちゃいました * 。
※2024年12月の取材当時、小石さんの握力は約80㎏。
日本のモノづくりも負けていない
――国際大会では、日本代表というプレッシャーもあったと思います。
自動車板金・小石 国際大会の訓練を始める時に、エキスパートの人と「楽しんだ上で勝つ」という目標を決めました。僕はこの職種が好きで、その(職種の)一番上の大会に出て、その舞台で作業するっていうのは、たぶん一番楽しいことなんだろうなと思って訓練していました。
訓練では、どうしてもうまくいかないこともあって、中国の選手はとてつもない技術を持っていて、そんな(中国選手の)情報がたくさん入ってきたりすると、本当に勝てるのかなと不安になることもありました。
でも日本のモノづくりが負けるっていうのはすごく悔しくて、負けたくないって一心もありました。ただ(そんな中でも)作業を楽しむっていうスタンスは崩さず、本番まで貫けたのは、良かったと思います。

――国際大会ですと、韓国・中国勢が強い * ですが、負けたくない気持ちは強いですか。
*国際大会での金メダルの獲得総数は、中国が2017、19、22、24年と4連覇中。それ以前は韓国が4連覇を果たしていた。24年フランス大会での日本の金メダル獲得数は5個で5位。
車体塗装・星野 そうですね。塗装でいうとアジアも強いんですけど、ヨーロッパが安定して強くて、1~3位には大体ヨーロッパ圏が入ってきています。
今年は海外訓練に3回行かせてもらって、そのときにいろんな国の選手だったり、エキスパートだったりと交流、コミュニケーションできて、日本以外にも味方ができたというか、(本番までに)安心感を得ることができました。
トヨタの強みは?
――全国大会・国際大会を通じてトヨタの強みを感じたところはありますか。
自動車板金・小石 国際大会ですと、海外の選手は“板金屋”として実際に働かれている方もいます。クルマの修理をずっとやってきたような人たちが出てきて、正直自分よりもみんな歴が長い人たちばかりでした。
ですけど、トヨタでは、モノづくりの本質を考えた上で作業に取り組みます。(国際大会向けの訓練を始めて)10カ月でこの(金メダルを取れる)レベルまで持ってくることができるのは、(モノづくりの本質を突き詰める)トヨタの強みかなと思います。
溶接一つとっても、作業的には2つの鉄板が溶けてつながっていれば良いんですけど、ちょっとした溶接の音だったり、感覚だったり、溶接の波形だったりとか、評価に直接影響はしないんですけど、本質を突き詰めていくことで、どんな状況が来ても評価される溶接ができるようになりました。
鉄板を叩いて修復する課題でも、叩けば鉄板が動くんですけど、どう動いているのか、どういう応力がかかって、鉄板がどっちに行きたがっているのか。そういったところまで追求して、深く技能を身に付けていけるのは、トヨタだからなのかなと思います。
プラスチック金型・久保 大会を見に来てくれた両親だったり、職場の上司の方だったりに、「トヨタの選手は作業中も身の回りや作業台が綺麗だね」と言っていただけました。学園生のころから言われてきたということもあるんですけど、4Sや「モノづくりは人づくり」という面で、自分も成長できているのかなと。
――菅田さんも4Sの話をされていましたが、学園での生活は今に生きていますか。
車体塗装・菅田 久保も言っていましたが、学園生のときから4Sは本当に毎日のように言われていて、知らないうちに習慣化されて、周りの人からも評価してもらえるくらいのレベルにまでなったんじゃないかなと思います。

苦労も喜びも知っているからこそできる本音のトーク。技能を競う大会ではあるが、それぞれの競技に向き合う姿は、アスリートと変わらないように思えた。
座談会前半はここまで。後半では、訓練の合間のリフレッシュ方法やこれからの目標を聞いた。