ブラジルならではの脱炭素 50年の実績ある技術がスゴイ

2023.08.22

カーボンニュートラルの時代にエンジンはなくなってしまうのか? 編集部が地球の反対側で目にしたのは、そんな不安をよそに進む、全くの別世界だった。

CO2をガソリン車の3割に抑えたトヨタの技術

トヨタは2007年にブラジル市場にフレックス燃料車を導入して以降、エタノールで走るクルマを生産してきた。

2019年にはフレックス燃料車の知見を持つブラジルトヨタとハイブリッド技術を発展させてきた日本のトヨタのエンジニアの強力なタッグで、フレックス燃料HEV(ハイブリッド車)を開発し、現地生産を開始。

当初のラインナップはカローラセダンだけだったが、2021年にはカローラクロスも追加した。

開発に携わった技術開発部のエドゥアルド・ベンナッキオ マネージャーは「従来のエンジンと比較し、効率が少なくとも30%向上するハイブリッド技術は、再生可能燃料技術と組み合わせることで、約70%のCO2排出量を削減できる」と胸を張る。

さらに、今年4月には、フレックス燃料HEVの新型コンパクトカーを2024年に製造開始すると発表。投資額は450億円。サンパウロ州内のソロカバ工場で生産し、中南米22カ国に輸出する。

安全技術や環境技術の高まりで車両価格が上昇している中、低価格帯の小型車にもフレックス燃料HEVの選択肢をつくることで、本格的な普及を目指していく。

ブラジルトヨタのラファエル・チャン社長はトヨタオリジナルの技術に関する現地の反響をこう説明する。

「最近、トヨタのマルチパスウェイを説明するイベントを始めました。HEV、フレックス燃料HEVPHEVBEVFCEV(燃料電池車)の実際の車両をそろえ、テストドライブでステークホルダーの皆さんにどれがいいか体感いただきます。我々はどれが正しいとか、どれが間違っていると言いませんが、(皆さまが実用的だと思う)結論はだいたいフレックス燃料HEVになります」

サトウキビでBEVもFCEVもクリーンに

ここまで、エンジンの燃料としてサトウキビやバイオエタノールのポテンシャルを説明してきたが、実は、それらは電動車をカーボンニュートラルにするための原料にもなる。

例えば、サトウキビの収穫で出てくるわらや、エタノールをつくる過程で残る搾りかすからはバイオガスが得られる。これを活用すれば、バイオマス発電でグリーンな電力が得られる。

また、エタノール(C2H5OH)には水素が豊富に含まれており、バイオエタノールを使ってグリーン水素をつくる研究も進んでいる。

こういった技術が実用化されれば、サトウキビ由来の燃料で発電した電気でBEVを走らせ、同じくエタノールでつくった水素でFCEVを走らせることができる。いずれの選択肢もエンジンの燃料としたときと同様、カーボンニュートラルだ。

他にも、エタノールは持続可能な航空燃料にもなったり、バイオプラスチックの原料にもなる。サトウキビの残りかすから第2世代のエタノール(食料と競合しない非食用のバイオマスを原料とするバイオ燃料)を生産する新しい技術の開発も進んでいる

エタノールのさらなる活用へ

エンジンという選択肢を排除せず、電動車の動力源となるなど、モビリティの多様性を生かして、脱炭素が目指せるサトウキビ。

最後の残りかすまで有効に活用できる、パワフルで、エコで、サステナブルな原材料だ。

なお、ブラジルのサトウキビの生産は92%が中央南部で行われており、残りは北東部で行われている。

ブラジルにおけるサトウキビ生産地の分布

エタノール用に使われているサトウキビ畑の面積はブラジル国土の0.8%未満だが、それだけでブラジル全土を走るクルマの燃料の大半をまかなうことができる。

今後は、さらに生産性が高く、害虫を寄せ付けず、耐病性にも優れた品種の開発を行うなど、既にある土地の有効活用を目指す取り組みも進んでいる。

脱炭素が叫ばれるずっと前から進めてきた技術開発の延長線上に、2050年のターゲットを見据える南米ブラジル。

実用的で持続的な選択肢にさらに磨きをかけ、カーボンニュートラルの山の頂を目指している。

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