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ヤリス欧州COTY受賞 COTY審査委員長が語る、欧州でヤリスが選ばれた理由

2021.04.27

ヤリスが欧州COTYを受賞した理由とは。審査委員長を務めるフランク・ヤンセン氏に、ヤリスのどの部分が評価されたのかを聞いた。

ヤリスが欧州カー・オブ・ザ・イヤー2021COTY)を受賞した背景について、取材を進めてきた森田記者。チーフエンジニアに開発の狙いを、日本でヤリスを生産しフランス工場の親工場でもある岩手工場長に生産の苦労や工夫を、そして欧州では現地工場での取り組み、ヤリスのイメージやお客さまの反響などについて、たくさんの話を聞いてきた。

そんな森田記者が最後にお話をうかがったのは、欧州カー・オブ・ザ・イヤー2021審査委員長のフランク・ヤンセン氏だ。審査員たちは、ヤリスのどんな点を評価したのだろうか。

価格、環境性能、エモーショナルのバランス

欧州COTYは、その年欧州で発売されたニューモデルの中から選ばれる賞で、22カ国から集まった59名のモータージャーナリストが審査員を務める。各審査員はそれぞれ25点の持ち点を持ち、ショートリストと呼ばれる最終候補に残った7台のうちの5台以上に、10点を上限に配分していく。各審査員の採点の内訳は、投票理由とともに公表される決まりだ。

欧州COTYの公式サイトによると、審査員の評価基準は、デザイン、快適性、経済性、ハンドリング、走行性能、実用性、環境性能、ドライバーの満足度、そして価格だ。このうちのどこに比重を置くかは各審査員に任されており、各自の価値観や、その国の交通事情によっても変わってくる。このように、非常に多彩な視点から「その年最高のクルマ」を決める賞が欧州COTYなのだ。

「ヤリスのどんなところが評価されたと思うか」と質問すると、ヤンセン氏はこう答えた。

ヤンセン
ヤリスは適切な価格で、燃費が良くクリーン。一方で、とてもエモーショナルなクルマでもあります。この組み合わせが審査員たちに支持されました。また審査員たちは大のクルマ好きも多いですから、そういう審査員たちにとってはGR YARISの存在も大きいでしょう。

ヤンセン氏自身も、ヤリスに最も高い8点を投じている。

森田
フランクさんは、ヤリスに最も高い得点を入れてくださいましたが、一番評価したポイントはどこでしょうか。

ヤンセン
私は、CO2を削減する上で、現時点ではハイブリッドシステムが最も効果的だと考えています。おそらく今後数年間、電気自動車(BEV)のインフラが整うまではベストなソリューションであり続けると考えています。

森田
日本から見ると、欧州ではBEVのインフラ整備が進んでいるという話も聞きます。それでも、現状はまだハイブリッド(HV)が最適解ですか。

ヤンセン
個人的な経験ですが、例えば街中に住んでいて自宅に充電設備がなければ、公共の充電スタンドを使わなければなりません。その充電スタンドが見つからなかったり、埋まっていることもあります。ですから、もっと多くの充電スタンドが必要ですが、どこまで広げるべきか私には分かりません。

確かに、ここ数年で充電スポットは急速に増えました。でも、今あるすべてのBEV、今後登場するBEVの台数を考えれば、まだまだ十分とは言えません。まだ充電については課題であって、ソリューションとは言えないと考えています。

さらにヤンセン氏は、「BEVだけが正しい方向なのか、唯一の方法なのかは分かりません」と話す。モビリティの電動化を考える上では、従来のインフラをそのまま使えるHVも重要だし、将来的には水素を利用して発電する燃料電池も大切だと考えているという。

欧州メーカーが電動化に積極的な理由について、こんな見方を披露した。

ヤンセン
欧州メーカーはBEVに賭けています。2015年まではCO2削減のために、燃費の良いディーゼルに注力してきました。でも大気汚染については考えていなかったのです。そんなとき、突然ディーゼル不正問題が起き、欧州自動車メーカーの経営陣はBEVへの方向転換を決めました。他に選択肢がなかったのです。

森田
2050年までまだ30年ありますが、ヨーロッパのクルマはどんなスケジュールで推移していくとみていますか。

ヤンセン
今後10-15年はバッテリーで動くBEVが増え、一方でディーゼル車は徐々に消えていくでしょう。コンベ車は依然として残りますが、BEVが急成長するはずです。ただ将来的には、すべてのメーカーが協力して燃料電池技術を推進し、インフラ整備に取り組んでほしいと考えています。なぜなら再生可能エネルギーを利用する上で、燃料電池にはすべての関係者にとって大きな利点があると考えているからです。

ヤンセン氏に欧州におけるトヨタのイメージを聞くと、やはり「トヨタ=ハイブリッド」というのはよく知られているという。20年以上前にはじめてハイブリッド車をつくり、何世代にもわたって改良を重ねてきたことで、欧州でもその先進的なハイブリッド技術はよく知られている。

「私自身も、HVの大ファンなんです」というヤンセン氏。これまで捨てていたブレーキの力を回生するというアイデアに注目したのは素晴らしかったと振り返る。

ヤンセン
大切なポイントは、ブレーキエネルギーの回生技術は、BEVFCV(燃料電池車)といったほかの動力源にも使えるということ。ハイブリッドシステムの中核技術は、将来のシステムにおいてもカギとなるのです。

まるでスーツのようにぴったり合うクルマ

では欧州COTYの他の審査員たちは、ヤリスのどんなポイントを評価したのだろうか。「ハンドリングが良い」「運転が楽しい」という声も多かったとヤンセン氏は振り返る。これはGR YARISだけでなく、ベーシックモデル、ハイブリッドモデルについても評価が高かったという。

ヤンセン
まるでオーダーメイドのスーツのようにぴったりと合う感覚がありますし、パッケージもよい。シティカーとして優れているだけでなく、長距離を走ることもできます。そして忘れてはならないのは、ショートリストに残ったクルマの中で価格が低かったということです。バリューフォーマネーに優れている点も、私の同僚たちは高く評価していましたよ。

森田
欧州の人々にとっても、ヤリスの性能がこの価格で手に入るというのはすごいことなのでしょうか。

ヤンセン
実際に購入者は増えていますし、欧州における販売台数はここのところセグメントでトップに立っていますから、その答えは間違いなく“YES”ですよ。

ヤンセン氏は「欧州市場は最もタフで競争が激しい」という。ヤンセン氏の地元でもあるドイツを中心に、数多くのメーカーが存在するためだ。多くのプレミアムブランドがひしめくこの市場に新たに参入して勝ち抜くには、目の肥えたお客さまを納得させるクルマをつくらなくてはならない。これは簡単なことではない。

そんな欧州の中でも特に激しい競争が繰り広げられているのが、コンパクトカーの領域だ。

森田
コンパクトカーは特に競争が激しいのでしょうか。

ヤンセン
その通りです。なぜならコンパクトカーには価格上限があるからです。プレミアムカーなら「いくらでも払う」という人もいますが、コンパクトカーは無制限にお金を払えるというセグメントではありません。その中でライバルよりも優れたものをつくる必要がありますから、競争が激しいのです。

そんな厳しい環境で、並み居る強豪たちを押さえての今回の受賞。それがどれほど大きな意味を持つのか、そして今回インタビューした皆さんが、なぜあれほどまでに大きな喜びを表したのか、その理由がはっきりと分かった取材だった。

最後に、ヤンセン氏は豊田社長にこんなメッセージを送ってくれた。

ヤンセン
遠くから、アキオ社長の仕事ぶりはいつも見ています。機会があったら、ぜひまたお会いしたいと思います。あなたは素晴らしい仕事をしていますし、エンジニアチームも大きなステップを踏み出していると思いますので、ぜひこのまま先に進んでほしいと思います。

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