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今まで語られなかった「ヤリス発売1年延期」の真相

TOYOTA NEWS 2021.02.18 UPDATE

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2020年のトヨタを象徴するクルマ「ヤリス」。

先代のヴィッツを刷新する形で2月に発売されると、8月にはコンパクトSUVの「ヤリスクロス」、翌9月には、モリゾウこと社長の豊田章男がレースでドライブする「GRヤリス」と、そのラインナップを充実させてきた。

モータースポーツでの活躍も見逃がせない。先月、ラリー競技の最高峰・FIA世界ラリー選手権(WRC)のシーズン開幕戦でヤリスWRCがワンツーフィニッシュ。

ピレリスーパー耐久シリーズ2020では、GRヤリス(ROOKIE Racing)がST-2クラスでシリーズチャンピオンに輝くなど、国内外のモータースポーツファンにその活躍を印象づけている。

WRCシーズン開幕戦モンテカルロで優勝を飾ったトヨタ・ヤリスWRC

国内販売に目を向けると、日本自動車販売協会連合会が発表した2020年の新車販売ランキング(登録車)で首位を獲得するなど、多くのお客様に選ばれたクルマとなった。

また、欧州では、3月1日に発表されるCar of the Year 2021の候補にもノミネートされている。

発売以降、レース車両としても、市販車としてもトヨタに明るい話題を届けてきたヤリスだが、実は、当初予定していた発売を1年遅らせたという経緯がある。

そこには、経営トップの悩みに悩んだ、ある決断があった

発売を遅らせる重たい決断

2015年3月、社長の豊田をはじめとする経営陣は、社内のある会議でTNGAToyota New Global Architectureの開発状況について報告を受けた。

2019年に投入を予定する小型車のプラットフォーム(GA-Bプラットフォーム)とユニットの原価が目標に対して、未達であるというのだ。

*「もっといいクルマ」を実現するため、クルマを骨格から変え、基本性能と商品力を大幅に向上させるクルマづくりの構造改革。クルマの設計思想から変えていく取り組みで、パワートレーンユニット(エンジン、トランスミッション、ハイブリッドユニット)とプラットフォームを刷新し、一体的に新開発することで、クルマの基本性能を飛躍的に向上させる。

小型車向けTNGAプラットフォーム(GA-B)

TNGAの取り組みについては、2012年に公表を行い、この年(2015年)末には、その設計思想に基づく初めてのプラットフォーム(車台)を採用したプリウスを発売する――。

これを皮切りに、サイズの大きい上位車種のTNGAプラットフォームは市場に出ていくが、その対応に開発陣の工数はとられていた。

さらに、先行するプラットフォームとのユニットや部品の共有化で、GA-Bプラットフォームは大きく、重く、高いものになっていた
プラットフォーム別の車両投入時期(国内車種)

しかし、クルマの発売はそう簡単に後ろ倒しできるものではない。3万点もの部品からなる自動車においては、計画の変更による影響は広範囲に及ぶ。

さらに、ヤリスに関しては、先代ヴィッツの最後のフルモデルチェンジが2010年の末。予定通りに刷新したとしても、9年間続く、長寿モデルとなっていた。

ヴィッツ(海外名称「ヤリス」)は欧州におけるトヨタの基幹車種であり、このセグメントは競争が激しい。一年引き延ばせば、現行モデルを取り扱う国内外の販売店の経営に影響を与えることになる。

生産を担うトヨタ自動車東日本やフランスの工場は、稼働と雇用を守ることができるのか。

もはや、開発の話にとどまらない。世界規模の販売や生産を含めた重大な決断を経営陣は迫られていた。

「立ち上げ優先」の慣習の打破

悩みに悩みながらも、豊田は1年の発売延期を決断する。決め手になったのは、社長就任以来、一貫して言い続けてきたことだった。

「もう一度、原点に立ち返る。猶予のできた時間を活用して、全社一体となり、『もっといいクルマづくり』に何が必要かを改めて考えること」

実は当時の問題意識を豊田は既に対外的に語っている。

決断から2年後となる20173月期の決算発表。具体的なエピソードこそ語っていないものの、ヤリスの一件が頭にあったことをうかがわせる言葉だった。
2017年3月期決算発表に臨んだ豊田

TNGAを通じて、技術開発、生産技術、生産現場を貫くブレない軸として「もっといいクルマづくり」が定着してきたと実感しております。

これまで、トヨタのクルマはおもしろくない、特徴がないと評価されることもありましたが、「走り」と「デザイン」については、お客様からも評価いただけるようになってきたのではないかと思っております。

その一方で、もっといいクルマを「賢く」つくるという点では、まだまだ改善の余地があることが見えてきました。

例えば、もっといいクルマにしたいという思いのあまり、性能や品質の競争力向上を優先し、コストやリードタイムは後回しということになっていないか。

あるいは、適正販価-適正利益=あるべき原価という基本原則を徹底的に突き詰める仕事ができているか。

いわば、開発、生産、調達、営業、管理部門に至るまで、トヨタのあらゆる職場で、「お客様目線」のクルマづくりが実践できていないのではないかという強い「危機感」を感じております。

現状の開発は、社内であらかじめ定めた時期が来たらマイナーチェンジを行い、数年後にはフルモデルチェンジを行うという“マイペース”な進め方をしている。

いつしか「立ち上げ最優先」となり、「もっといいクルマづくり」が後回しになっている。我々は本当にお客様を見て、仕事ができているのだろうか――。

そんな問題意識で下した決断がトヨタでは異例となる1年の発売延期だった。

ここから、新たにできた時間を使って、徹底した軽量化と原価低減を目指す全社一丸の取り組みが動き出した。

結果的に、当初の計画では織り込めなかった新しいハイブリッドシステムが搭載されたほか、HV(ハイブリッド車)では従来モデルから50kgの軽量化を実現。動力性能の向上や世界最高となる燃費を達成した。

トヨタ初の安全・先進装備も数多く採用することができ、原価・質量低減の取り組みと並行して、さまざまな付加価値を織り込むことができるようになった。
トヨタ初の技術として採用された高度駐車支援システム トヨタチームメイト(アドバンスドパーク)

聖域なき「もっといいクルマづくり」

「もっといいクルマづくりの原点はコンパクトカーにある」。ヤリスの開発が動き出したころから、豊田は変わらず言い続けてきた。

ボディは小さく抑えながらも、安全と快適な室内空間が求められる。排気量は小さくても、快適な走りを提供しなければならない。そして何より、手頃な価格でお客様にお届けしなければならない。

そんなクルマづくりの競争力が表れるのがコンパクトカーであり、ヤリスの投入を1年遅らせた判断には、その強い信念がにじんでいる。

決断から5年以上がたった。「もっといいクルマづくり」のためには、聖域をつくらない。そんな強い意志で踏み込んだ開発現場の変革に、今、一つの答えが出つつある。

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