2月27日、本年2回目となる話し合いが行われた。しかし、そこに豊田の姿はなかった。
2月27日、本年2回目となる話し合いが行われた。しかし、そこに社長の豊田の姿はなかった。社長就任以降、豊田が労使交渉(労使協議会)を欠席したのは、2010年の大規模リコール問題の時だけである。「100年に一度」と言われる大変革の中、豊田自らが先頭に立って取り組まなければならない重要案件が続き、無理に無理を重ねた結果、体調をくずし、欠席を余儀なくされた。内情を明かすと、「労使協だけは這ってでも出る」という豊田を副社長の小林が説き伏せたのである。
豊田は、常々、この話し合いにおける“自らの立ち位置”を「行司役」と話す。
前回の話し合いの冒頭、以下の様に述べている。
「もっと頑張りたいが壁がある。こんなことに困っているが自分達ではどうにもできない。ということを率直に会社にぶつけて欲しいと思います」
このように、時に組合の想いにも触れた発言をし、双方が本音の話し合いになるよう促す役目が豊田の言う行司役である。そんな行司役不在で2回目の話し合いはスタートした。
先週の第1回労使交渉で、豊田は「困っていることを率直に会社にぶつけてほしい」と伝え、これまでよりも本音の話し合いが行われた。
それから1週間。
まだまだ会社全体に危機感が伝わっていないと感じた副社長の河合は、第2回の話し合いを厳しいコメントから始めた。
プロになるための課題
前回から重要なテーマとなっている「プロ」人材の育成に関して、今回、組合からはより具体的な悩みが伝えられた。
こういった声に対する職場での具体的な取り組みや、上司の意識の変化に関する発言があった。
自らもエンジニアである副社長の吉田は、実際にリアルのモノに触れながら成長する意義について語った。
「資料よりも、部品や図面を前に議論する方がリアリティがある。社内にはテストコース、車、工場という現場があり、社外にも仕入先、販売店と学べる現場がある。リアルな車作りは大変だが、やりがいがあるし、そうして成長感や達成感を感じてほしい」
ここで、技術系職場が抱える課題の実例が述べられた。それは、2000年以降の業務効率化により、自ら図面や仕様書を書く、モノに触れるといった機会が激減しているというものだった。
この現状に、副社長の小林は疑問を投げかけた。
「実際に図面を書くのは社外だとすると、トヨタの人は手配だけしているのか。そういう現状ってそれで本当にいいんですか」
現場で成長を続けるために
技能系職場においては、全てのメンバーが成長を続けるための課題について、現場の率直な声が伝えられた。
*高年齢者などが、働きやすく整備されたライン。
カンパニー制という「オポチュニティ」を活かすために
トヨタは、2016年4月に組織の大幅な見直しを行った。すべての仕事を「もっといいクルマづくり」とそれを支える「人材育成」につなげていくことを目的に、機能軸の組織を見直し製品軸のカンパニーを設置したのだった。
ただ、組合からはカンパニー制の本来の目的と現実との間にギャップがあるのでは、という実情が伝えられた。
これに対して、TC(トヨタコンパクトカー)カンパニープレジデントの宮内は、カンパニー制発足当時の想いをこう語った。
そして、カンパニー発足後の実際の変化について、こう続けた。
*トヨタとダイハツは、新興国小型車カンパニーの設置に着手することを公表(https://newsroom.toyota.co.jp/jp/detail/13817235)
オールトヨタで競争力を強化するために
この日の労使交渉では、関係各社から寄せられた「トヨタの意識・仕事の進め方」に対する率直な声も伝えられた。それは、関係各社の方々が『本当に言っても大丈夫だろうか』と心配しながら、慎重に言葉を選びながら、勇気とトヨタへの期待を持って伝えて下さったものだった。
ここで、仕入先との関係について、副社長の寺師は自らの忸怩(じくじ)たる思いを語り、労使共に「覚悟を持とう」と呼びかけた。
賃金・賞与について
最後に、組合から賃金・一時金に対する会社の考え方を求める声が挙がった。
「トヨタの賃金水準が、他社と比べて極めて優位性のある水準だということは、組合員の皆さんにもすでにご理解いただいている。この極めて高い賃金水準を、これからも維持し、日本でのモノづくりを守る、雇用をしっかり守っていくためにも、賃金は全員一律の賃上げよりも、トヨタ固有の課題を解決することこそが、競争力、生産性の向上、さらなる労働条件の向上につながっていくと思う。学歴や職種の壁を無くし、『トヨタでこれがやりたい』と思い続ける人を増やし、プロを目指して成長し続ける人が、評価される、報われるという環境整備を2~3年かけて、皆さんと一緒にやっていきたい」
「賞与について。トヨタの水準は突出して高い。前回の労使協議会で社長から話があった通り、オールトヨタの仲間から『トヨタと一緒に働きたい』、トヨタを支えていただいている全ての皆様から、『トヨタがんばれ』と応援される会社にならないといけない。仮に、個人で金額が上がる場合には、従来のように一律のルールで配分するのではなく、プロとして成長し続ける人、オールトヨタの競争力のために、より貢献した人に報いるような賞与のあり方を、今後検討していきたい。誤解していただきたくないのは、個人主義に基づく成果主義ではない。トヨタらしい、プロとして成長し続ける人を応援できるようなやり方を、一緒になって考えていきたい」