特集
2020.09.18

難しいことに挑戦するのが「トヨタマンのDNA」

2020.09.18

トヨタにとって月面探査車への開発にはどんな意義があるのか。トヨタ側の視点から今回の挑戦について語っていただいた。

トヨタが月面探査車「ルナクルーザー」に挑戦する意義とは何か。宇宙開発におけるトヨタの強みは、どんなところにあるのか。今回はトヨタ側の視点から、宇宙開発について語っていただいた。トヨタイムズ編集部がインタビューしたのはリーダーを務める先進技術開発カンパニーの井上博文氏と同じく先進技術開発カンパニー 月面車開発の佐藤孝夫氏。

「できないことをやる」のがエンジニアの夢

トヨタイムズ
井上さん、佐藤さん、よろしくお願いいたします。

井上
お願いします。

佐藤
お願いします。

トヨタイムズ
お2人にそれぞれお聞きしていきたいのが、JAXAさん側からの観点は聞いたんですけれども、今度はトヨタ側の「ルナクルーザー」という1台のクルマに賭ける想い、クルマをつくってきた会社がこの月面与圧ローバをつくるんだという想いも含めて、これまでの立ち上げから今まで、そして未来に至る設計図など、このプロジェクトのトヨタ側からの視点、クルマに面した視点をお聞きしたんですが。

井上
ありがとうございます。私たちは創業期から「国のため」にということで「産業報国」といっておりますが、その精神でずっとクルマを育んでまいりました。

約80年クルマをつくってきまして、次の時代は何をつくっていくんだ、何で貢献してくんだ、というときに今回のこの月面与圧ローバというプロジェクトが上がってまいりました。

われわれは「安全・安心」をもとにずっとやってまいりました。次の未来に向けて、さらに挑んでいかなければならないときに、CASEですとか新しい技術も入ってきます。そういった技術を詰め込んで、人類の未来のためにつなげていきたいなと思います。

実際にここで育んだ技術は地球にも戻ってフィードバックされますし、例えば、FC(Fuel Cell:燃料電池)の技術なんかは当然、地球にフィードバックされます。自動運転技術なんかもフィードバックできます。このプロジェクトを挑むことによって、さまざまな技術を地球にフィードバックして、地球のためにプラネットレベルで貢献してきたいという思いがございます。

まず「分からないものを分かるようにする」ということで、宇宙産業の先輩方にいろいろ聞いて、その技術の深さ、難しさをまず学ぶことを徹底的にやらないといけない、ということでやってまいりました。JAXAさん、三菱重工さんと「チームジャパン」という枠組みを用いて、月面の勉強会というのを開いています。

そういったところで100社ぐらい集まっていただいているんですけれども、いろんな角度から技術を学んで、課題を学んで、それを凝縮してやってきました。自分たちだけではなくて、いろんなプレーヤーとパートナーシップを組むことによって、スピード感持ってやれてるのかなっていうふうに思っております。

佐藤
これは3年前ですが、私たちトヨタは「道が人を鍛える。人がクルマをつくる」といいまして、五大陸に車を持ち込んで、若手がひと月、ふた月と走って、道を知ってクルマに反映するということをやってまいりました。

そのときにこのローバの話が持ち上がって「第6の大陸、どこだ?」と上司に聞かれまして。われわれエンジニアにとって「新しい道を見つける」ということは大変な夢です。「できないことをやる」というのは、エンジニアの夢で、さあ、挑戦しようということになりました。

やり始めてみると、今日いろいろ見ていただいたように、分からないことだらけです。本当にしびれるというか、やり始めて震えるというか、そんな状態でした。でも、それを若手のみんなが「やる」と言っている。では僕らはそれを応援しよう、と思ってやってまいりました。

この月の厳しい環境を克服していくことで、エンジニアは大変な力を付けると思います。その力は「未来に挑戦する力だ」と思っています。こういうふうに、この開発がつながっていけばいいなというふうに感じてます。

すごく、でこぼこなメンバーなんですけれども、一人ひとりが広く(自動車を考えている。)自動車の開発は細分化されていて、担当が決まった中で効率的に開発をしていますが、(月面探査車開発メンバーの)この30人は、(担当部分にとどまらず)広く一人ひとりが自動車を考えている、この月面車をつくっている。こんな意気込みでやってるところが、人づくりにもつながってるんじゃないかなと感じてます。


井上
(月面探査車開発が)人づくりにつながって、ものづくりにつながっていけばいいなと思っていますし、それを支えていきたいなと思っています。

トヨタイムズ
やはり、「人づくり」ですか?

井上
はい。

トヨタイムズ
あのクルマをつくってるのは人であるということですね。

井上
そうですね、本当にそう思います。

できないものを「カイゼン」で乗り越える

トヨタイムズ
昨年から、ずっとトヨタの自動運転車の実証実験などを取材していますが、やっぱりAIを中心とした、人工知能を中心としたガーディアンシステム。それがこのルナクルーザーにはすごく重要な気もするんですが。

井上
はい。地球上の道よりも非常に過酷な状況です。岩もありますし、くぼみもありますし、画像処理でいかに危険物をよけていくか。ガーディアンの思想そのものになるんですけど、それをより厳しい環境でやるということになります。当然、フィードバックできると思います。

当然、「安全」というのは、もう絶対だと思うんですけども、さらにその上の「安心」っていうんですかね。心を許せるような、そういった領域まで技術を高めることで、より安心して乗っていただけるクルマになるんじゃないかなと。そういった観点でも進めたいなと思っています。

トヨタイムズ
あらためて、お2人がこのルナクルーザーの開発に、有人与圧ローバを月面に着陸させるというプロジェクトに携わられて、トヨタの強みというのは、あらためてどこだと感じていらっしゃいますか?

井上
「人」ではないかなというふうに思ってます。

もちろん、安全・安心を担ってきたという技術的な強みですとか、そういうのもあるんですけども、やっぱり「原理原則で考えて行動できる」というところは、特に難しい課題が与えられたときにはDNAとしてあって。できないものを「改善、改善」でなんとかしよう、と。その中でチームワークもできますし、パートナーづくり、仲間づくりにもつながっておりまして。やっぱりトヨタマンのDNAというのが非常に有効といいますか、大事になってくるんじゃないかなと思っております。

トヨタイムズ
なるほど。佐藤さん、いかがですか?

佐藤
やっぱり、今のメンバーのような挑戦する気持ちを持っている。そして、それはカッコいいものじゃないんですけども、やってることは非常に泥臭くて、1つ1つはカッコ悪いんですけども、泥臭く1つ1つやっていく改善は、なんていうか「魂」って言ったら言い過ぎなんですけども、(トヨタの強みは)着実な、真面目なところじゃないかなと思います。

井上
やっぱり過去、先輩方が築いてくださった、信頼とか実積というの非常に感じます。それを次の世代にも渡していきたいですし、もっと頑張って、そういうDNAというか「モノづくりの力」をずっと後に引き継いでいきたいなという気持ちも、それを聞いてすごく思いました。

目指すは「史上最強のサルーンカー」

トヨタイムズ
「史上最強のサルーンカー」にしなきゃいけないということですよね。これ(月面有人与圧ローバのこと)を。

さっきバギー車が走りましたけど、相当あれ、河野さんがガアーッてやってましたけど。それこそ本当に指1本でこの6輪を動かせるようなものでないと、水素をバンバン使うだけみたいなことになっちゃうぞ、みたいなニュアンスもあるので。

井上
そうですね。

トヨタイムズ
すごくやりがいのある、技術的な挑戦もやりがいがあるということですね。

井上
そうですね。本当に過酷な環境だと思いますので、人になるべく負担をかけずに、でも意図どおりに動くような、そういうクルマにしたいなと思います。

トヨタイムズ
これだけの巨体を意図どおりに動かして、なおかつ、もうおやすみの瞬間に「何も今日は我慢することなかった!」というふうに飛行士さんたちがおっしゃたら、最高ですよね。

井上
ええ、本当にそうだと思います。それを実現したいなと思いますね。

トヨタイムズ
あと9年、8年ですね。

井上
はい、出ます。

トヨタイムズ
はい。ブリヂストンさんが今年中に3回開発できるかにかかってるんですよね、これ(笑)。

井上
あの、河野さんですね、さっき要求が厳しいっていう話があったみたいなんですけど(笑)。「トヨタの要求が厳しい」っていう話があったみたいですけど、月の環境の要求が厳しいってだけで。

トヨタイムズ
ほかはそんなに厳しくないと。

井上
そうですね。

トヨタイムズ
大丈夫ですか?

井上
月の環境が厳しいっていうことです。

トヨタイムズ
月の環境が厳しいから…、代弁しているようなものなんですね。

井上
そうですね。ただ、そういうことなんです。はい。

トヨタイムズ
(笑)。

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