拡大続けるエネルギーの選択肢 産業横断でタッグ 初戦鈴鹿

2023.04.14

脱炭素社会へ選択肢拡大を目指すスーパー耐久シリーズへの挑戦も今年で3年目に。開幕戦では、ここに集まった仲間たちが、それぞれ新エネルギーについて話した。

多くのパートナーと総合的に取り組む

会見の質疑応答で、2030年に年間350万台の販売を掲げるBEVと水素利用車両の関係について質問をされた佐藤社長は、次のように答えた。

トヨタ自動車 佐藤社長

我々が考えるカーボンニュートラルの未来は、地域のエネルギー環境、経済環境、社会や文化の違い等々含めて、多様な選択肢を用意することが最も大切であるという考え方です。

これを私たちは「マルチパスウェイ」という言葉を使って表現をしています。

電気はもちろん、水素、過渡的にはHEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)がしっかりとその間を埋めていく有望な技術であると思っています。

章男社長(現会長)が「全部本気」という言葉で表現していますが、全ての選択に可能性を見出していこうとやっています。

広く産業連携を深めて、水素の「つかう」領域の仲間をいかに増やしていくか。自動車産業単独で考える問題でもないと思っています。

そのうえで水素を普及させていくためには、インフラの持っている影響力が大きい。

「つくる」「はこぶ」の領域の進化がなければ、「つかう」も増えていかないという構造なので、複合的、総合的に水素社会に向けた環境構築をしていくことが大切です。

会見に出席した川崎重工業の橋本康彦社長と岩谷産業の間島寛社長も水素社会実現に向けた環境整備の重要性について説明を続ける。

川崎重工業 橋本社長

水素は「つかう」側だけでいくら頑張っても進まない、サプライチェーンだけでは回りません。

サプライチェーンと「つかう」側が一つのサイクルとなって「つくる」と「つかう」が同時並行で回らないと、いくらサプライチェーンで大きくしても、買ってくれる人がいない、使う場所がないとなります。

水素はできるだけ多くの仲間が、いろいろなものに使っていくことを通して、インフラが整備され、さらに使われる場所も増えていきます。

天然ガスが普及したときも、使うことでいろいろなアプリケーションが生まれ、値段が下がり皆さんが使えるようになりました。

従来もエネルギー需要が変わったとき、新しいエネルギーは「どこに使うの?」と言われてきました。

そこを引っ張ってきたのは、新しいエネルギーを信じて、世界に広めようとした人たちの意志だったと思います。

我々は、トヨタの「意志ある情熱と行動」に共感して一緒にやっています。

このようなリーダーシップがあって初めて時代は変わっていくと思います。カーボンニュートラルの中で、いろいろな選択肢が重要だと考えています。

あわせて水素は我々にとって欠くことができない、将来の大きなエネルギーとなり、皆さんがカーボンニュートラルに向かって使っていけるものと信じています。


岩谷産業 間島社長

私ども岩谷産業は、80年以上前から水素事業に取り組み、水素の原料調達、製造、輸送、供給まで、一貫して自社で事業を展開しております。

現在、水素の国内市場では70%のシェアがあり、特に、液化水素に関しては、国内で唯一、商業的に製造・販売を行っています。

S耐において、当社は水素エンジンカローラへの液化水素充填を担当しております。

我々は、現在、国内50カ所以上の水素ステーションでFCEV(燃料電池車)に水素を供給していますが、今後、バスなどに大型化していくと、圧縮水素での供給で課題が出てきます。

一番の問題点は安全に速く入れることで、我々は(さらに高圧で水素供給する)ディスペンサーの開発を進めています。また、その先は、今回のように液化水素を充填することが大きなテーマの1つになっています。

このような活動に仲間として参画させてもらうことで、幅広く他のモビリティにも使っていきたいと考えています。

選択肢を増やすための活動

S耐にバイオディーゼルでフル参戦をするマツダ。

マツダのブランドデザインも担当しているシニアフェローの前田行男氏。前田氏はMAZDA SPRIT RACING という参戦チームの代表も務め、自らドライバーでもある。

その前田氏は新たな挑戦を発表した。

MAZDA SPRIT RACING 前田代表

バイオ燃料自体もレースという閉じた環境だけではなく、市販化に向けて、もっと多くの人に使ってもらえることを目標にしています。

我々の持っている技術の中で選択肢を増やしていくために、バイオ燃料の参戦に加え、トヨタとSUBARUと同じカーボンニュートラル燃料を使ったロードスターを今期の中盤から投入したいと思っています。

86/BRZの戦いがあまりに楽しそうで、そこに我々も入りたいという思いがあります。

カーボンニュートラルに向けた仲間であり、レースではライバルの佐藤恒治新社長とSUBARUの大崎篤新社長

そこにロードスターで参加させてもらえば、S耐もさらに盛り上がるのではないかと思い、(MAZDA SPIRIT RACING MAZDA3 Bio conceptに続くカーボンニュートラル車両の)2号機を考えています。参戦の準備ができたら、改めてお伝えします。

また、マツダでカーボンニュートラル戦略の統括をする木下浩志主査はバイオディーゼル燃料の最新の状況について、こう説明をする。

マツダ 木下主査

バイオディーゼル燃料の開発を継続的かつ着実に続けてまいりました。

制御もキャリブレーション(燃料特性に合わせた燃焼の最適化)もエンジンのハードウェアも全く同じシステムで、バイオ燃料を使用しても、軽油と同等の効率とパワーが出ます。

音にも悪影響を及ぼすことなく、意のままの走りができる状態になってきています。

モビリティのカーボンニュートラル実現に向けた多様な選択肢ということで、サステオHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化分解油)は国内で既に一般向けの販売が開始されています。

レースで使用しているバイオ由来100%と同じではありませんが、軽油にこのHVOを20%混合したサステオ20が昨年から名古屋市で一般販売されています。
2022年6月から愛知県の名港潮見給油所で発売を開始したサステオ20。2023年3月下旬まで都内の一部給油所でも期間限定で販売された。

このHVOは日本より少し早く欧州でも販売が開始されています。対応する燃料のスコープを欧州のHVOに合わせて進めていきながら、耐久レースという過酷な環境の中で、信頼性や品質の検証を進めていきたいと思っています。

昨年1年でバイオ燃料が既存のディーゼルエンジンでも使えるということが検証でき、カーボンニュートラルのあり方についても、メーカー、産業横断のパートナーシップを含め、チームジャパンで取り組めたと思っています。

このバイオディーゼル燃料の供給を行うユーグレナの尾立維博エネルギーカンパニー長は今後のコストについて話した。

ユーグレナ 尾立エネルギーカンパニー長

2025年末を目指してマレーシアに商業プラントを造る予定です。それができると今の5千倍の生産能力が確保できるようになります。

原油由来の燃料と同様に、為替の影響で燃料価格は変動する可能性がありますが、リッター200円以下を目指しています。

一昨年の岡山国際サーキット(岡山県美作市)で参戦したときは、リッター1万円だったサステオHVOの価格も、今は10分の1以下になっています。

着実にコストを下げられる目途がついています。燃料はつくる量に価格が大きく左右される「規模の経済」が働くビジネスになります。

規模を大きくすることで、コストを下げるロードマップを作っており、それを着実に進めています。

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