【詳報】トヨタBEV戦略 記者の質問に答えた1時間

2021.12.21

12月14日に行われたトヨタ自動車のBEV(電気自動車)戦略に関する説明会

豊田章男社長のスピーチに続いて実施された質疑応答には、社長に加え、レクサスカンパニーのプレジデントでもある佐藤恒治Chief Branding OfficerCBO)、技術担当の前田昌彦Chief Technology OfficerCTO)、デザイン担当のサイモン・ハンフリーズ統括部長が出席。

4人が約1時間をかけて伝えたその内容を詳報する。

会見に出席する回答者。左から、ハンフリーズ統括部長、佐藤CBO、豊田社長、前田CTO (撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY)

BEV販売目標を上方修正した理由

――2030年のBEVの販売目標を200万台から350万台に上方修正した理由は?

質問者が指摘する200万台は、今年5月の決算発表で公表された数字で、正確にはFCEV(燃料電池車)も含んだZEV(ゼロエミッションビークル)全体での目標値だった。

そこからわずか7カ月。トヨタはBEVだけで、さらに150万台を上積みした350万台という基準を打ち出した。

先陣を切って投げかけられた質問に対して、まず、豊田社長が数字の見方を交えながら回答。その後、ほかの登壇者が補足した。

豊田社長

200万台は大変な数だと思います。自動車会社だと、中国のほとんどがそうです。150万台プラスの350万台だと、ダイムラー、PSA、スズキがすべてをBEVにして新たに立ち上がる規模です。

BEVもFCEVも、クルマが使うエネルギーやクルマを使う地域によって、(CO2排出を減らす)カーボンリデュースビークルになるのか、(CO2排出をゼロにする)カーボンニュートラルビークルになるのかが変わってきます。

今年はCOP26があり、各国のエネルギー政策が見え、この目線までであれば「カーボンニュートラルビークル」が実現可能と考え、上方修正をさせていただきました。

前田CTO

社長が話した背景に加え、米国の大統領令が出るなど、市場の動きが活発になっている背景も踏まえ、この台数に対応できる準備が必要だと考えました

決算発表で「基準」という言葉を使いましたが、これを基準に部品調達、開発の構えや投資をしっかり押さえていこうと考えています。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

佐藤CBO

今回、レクサスは(2030年にグローバル販売)100万台の目線でお話しましたが、今年3月に電動化に対する取り組みについて発表しています。

そこで、2025年に向けて電動車の普及を加速すると申し上げていますが、世の中の急速な変化、特にラグジュアリーセグメントにおいては、お客様の先進技術やBEVに対する期待値が急速に高まっています

このお客様の急速な嗜好の変化に柔軟に対応していくため、このような発表をさせていただいております。

目標を立てることで、具体的な行動を起こし、目の前にどれくらいの課題があるのか顕在化させながら、ペースを上げていく。強い意志を持って行動していきたいというのが背景にあります。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

BEVシフトか? 全方位戦略か?

――今後はBEVにいっそう力を入れていくのか、それとも、全方位戦略は堅持してBEVは選択肢の一つのままなのか?

トヨタがこれまで一貫してとってきた電動化への対応が「全方位戦略」。どれか一つの選択肢に絞ることなく、お客様のニーズに応えるさまざまなラインナップをそろえるというものだ。

スピーチの中で、豊田社長は「選択肢を残す」と全方位戦略の姿勢を明確にしている。

ただ、販売台数の上方修正に加え、レクサスがBEV専用ブランドになるということ、BEVへの投資に4兆円(うち電池に2兆円)を構えるなど、BEVへ軸足が移っているようにも見える。

記者からは改めて、トヨタがとる立場を確認する質問が投げかけられ、まず、豊田社長が答えた。

豊田社長

カーボンニュートラルに向け、全社を挙げてやっていこうという意志に変化はありません。

ただ、トヨタはグローバルにフルラインナップでやっている企業です。各国のエネルギー事情に違いはありますし、使われ方も多様化しています。

お客様が最後どのメニューを選ぶかは、我々トヨタではどうにもできないことです。我々が意思決定したら、そちらになるわけではありません。

再三申し上げていますが、我々は選択の幅を広げて、これからも全メニュー、真剣に取り組んでいきます

そして、市場やお客様の動向が分かったら、素早く追随していくこれこそが会社の競争力を上げることにつながりますし、何より我々が生き残る一番の方法でもあると考えています。

私が水素エンジン車に乗るからと言って、他のクルマは優先順位が低いわけではまったくありません。

カーボンニュートラルへの戦いは、トヨタの従業員、仕入先や関係会社、550万人の仲間とともに頑張っていますし、活躍の場はグローバルに広がっています

その武器はフルライン。そういうグローバルでの戦い方もあるのではないかと思い、我々、どれも本当に一生懸命にやっています。それは、是非ともご理解いただきたいと思います。

続くハンフリーズ統括部長は「多様化」と「顧客の意識変化」の観点で回答を補足した。

ハンフリーズ統括部長

未来は予想するのはとても難しいことです。しかし、未来について一つ確実に言えるのは、地域も社会もどんどん多様化しているということです。

次のステップは、トヨタの強みを上げていくことであり、お客様が何を欲しがっているのかを理解することです。多様性の中で、お客様は自信をもって商品やデザインを選択するようになっています。

今、何が必要とされていて、次の課題は何かを考えると、お客様側がカーボンニュートラルなデザインや考え方を受け入れ、選択できるかどうかだと思います。

誰もがその方向に進む必要性は理解していますが、実際にできるかどうかが課題です。再利用されたファブリックや素材を選んでいくといったことなどすべてが変わっていく必要性があります。

そこを乗り越えることなくして、目標とする数字にはたどり着けないと思います。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

ただ、全方位に注意を払うということは、それだけ投資がかさむということでもある。2人の回答を受け、佐藤CBOは全方位戦略を可能にする2つの努力について解説した。

佐藤CBO

全方位戦略を取り続けるために、我々は2つの努力をしています

一つは開発の効率化です。従来のモデルに比べ、1車種あたり3~4割、効率が上がっています

TNGAという基盤づくりをやってきたことが大きな効果として表れていると思います。今後のBEV拡大の基礎体力をつけています。

もう一つはブランディングだと思っています。レクサスがBEVをリードする。先進技術をフロントランナーとしてやっていく、ブランドの役割をより明確にしていきます。

一方、GAZOO Racingでは、モータースポーツを起点にしながら、カーボンニュートラル燃料の可能性に対しての挑戦も続けていきます。

それぞれのブランドが強みを生かしながら、幅広い技術の探索を同時に行えるのが我々の強みであり、そういった背景のもと、全方位戦略を続けていこうと考えています。

BEV100%を目指さない理由

――世界最大の自動車メーカーであるトヨタは、なぜ、競合他社のように「販売台数100%」でなく、「35%」が目標なのか?

今回上方修正したグローバルのBEV販売350万台という数字の規模は、冒頭で豊田社長が指摘したように、世界販売でトップ10に入る自動車メーカー1社分に相当する。

しかし、多くの場合、販売台数ではなく、販売比率をもとにその本気度が論じられており、続く質問も、まさにその観点に立って投げかけられたものだった。

トヨタの本気度を伝えるため、また、トヨタという会社の他社との違いを正しく理解してもらうため、真っ先に豊田社長がマイクをとった。

豊田社長

2035年に向けて、カーボンニュートラルビークルをできるだけ増やしたいと思っています。

ところが、各国のエネルギー事情がカーボンニュートラル実現に大きな影響を及ぼしていることも事実です。それはトヨタではどうにもできないということをご理解いただきたいと思います。

エネルギー事情や充電設備が整っていないところで、選択肢の幅を狭めたときにお客様がどういう状況に陥るか。ご不便をおかけするようなことは避けたい。

皆さまにご理解いただきたいのは、グローバルで、多様化された市場を相手にしているのがトヨタだということです。

多様な状況には多様なソリューションが必要ですし、平均的な最善策はすべての人にとっての最善策とは言えないと思っています。

正解がない不確実な時代に対しては、多様な解決策で臨みたい全方位でどのメニューも一生懸命に取り組み、仕入先や関係会社を含めて、ともに戦っていきたいと考えていることをご理解いただきたいと思います。

ある特定の国や地域ではなく、世界中、どこに行っても使用されているのがトヨタのクルマの特徴だ。

都市部で使われるものもあれば、インフラの整備されていない地方部で使われることもある。砂漠や炭鉱といった過酷な環境で使われることもある。

乗用車から商用車まで、そして、人々の生活の足になるようなクルマから高級車まで、お客様のニーズに応えてクルマをつくっているトヨタがBEV100%にするということの現実味はあるのか。

前田CTOは「BEV先進国」を例にとって、そんな疑問に回答した。

前田CTO

BEVが進んでいる地域はどこかという観点で、見てみる必要があるかと思います。例えば、ノルウェー。乗用車では6~7割がBEVになっています。

背景としては、税務的なメリットや、駐車場や通行料金が無償になるなど、BEV以外のクルマと比べて、優遇されている現実が存在しています。ユーザーにとってそれが利便ということだと思います。

税制やルールの部分は、我々だけでコントロールしきれない要素ですが、(ノルウェーのような)お客様がBEVを選択している状況には、そういった要素も入っているということを我々は冷静に見ないといけないと思っています。

BEVをしっかりやっていくという意志を持ちながらも、実際のお客様は自身が置かれた環境を踏まえて選択されています。そこを見極めながら、ちょっとずつ進めていくことは避けられないと思っています。

その変化に適用しやすくなるように、我々はなるべくリードタイムを短く、いろいろな対応ができるようにすることがとても大事だと思っています。

社長の雇用への想い

――サプライヤーは今回の発表を注視している。雇用問題にかける想いは?

昨年末から、自工会会長として、急速なBEVへのシフトは雇用問題につながると訴え続けてきた豊田社長。

BEV戦略の強化を決断するにあたって、雇用への想いに変化はあったのか。仕入先、ひいては、自動車産業への熱い想いを社長自らが答えた。

豊田社長

カーボンニュートラルのメニューは、市場やお客様が決めるということを大前提にお話ししたいと思います。

今までカーボンニュートラルの動きで世の中に出た数字は2050年、2040年(といったスパン)の目標値です。

我々は同様に目標を掲げて「あとは知りません」とはしたくありません。今日お見せしたクルマはここ数年で出てくるものばかりです。

2030年まで8年先までの行動を示し、(商品をお見せしたことで)いろいろなステークホルダーと今後議論を進めるきっかけになると思っています。

商品における「基準」を出すことで、その影響が仕入先や生産工場ベースでどうなるのかを見ていく。

今年、自工会会長として、日本で売るすべてのクルマがBEVになると、550万人のうち100万人の雇用が失われると注意喚起をしました。そのときは、各社、ここ数年の具体的な計画はなく、目標値が氾濫していました。

その後、いろいろなメーカーがもう少し近場の数字を出し、今回トヨタがより近場で、また、商品を軸に示したので、今後、議論が起きてくると思います。

自動車は75%が外注部品で、2次、3次と多くの関係会社に支えられています。多くの選択肢を残したとしても、エンジンのみで部品供給をしてきた仕入先にとって(カーボンニュートラル)は死活問題になります。

そうしたときに、「市場が選ぶから」と切り捨てるのではなく、ずっと地道にやってこられた方々や会社が「今までの人生は何だったの?」と思わないような、また、「意味あるものですよ」と伝え、ともにやっていける自動車産業にしていきたいと思っています。

未来はリーダーの目標値で決まるものでなく、意志ある情熱と行動で決まるものだと思います。ここ数年~10年の行動次第で、2050年の景色は変わるのではないかと思いますし、変えてみたい。

未来は急に訪れるものではなく、現在の積み重ねでできていきます未来へ多くの選択肢を残すことを、是非お許しいただけないでしょうか

「100%でなければやる気がない」でなく、「仕事をさせていただきたい」と考えていることを、是非とも理解いただきたいと思います。

環境団体の評価の受け止めとエンジン・BEVの今後

――環境団体がトヨタを気候対策ランキングで最下位にした。トヨタにとってBEVはどういう位置づけか? エンジン開発を今後どうするのか?

先月、環境団体が発表した自動車メーカーの気候対策ランキングで、トヨタが最下位の評価を受けたことが大きな話題となった。

早くから低燃費エンジンや、HEVをはじめとする電動車の普及に努め、どこよりもCO2削減に貢献してきたトヨタ。現在も厳しい燃費規制に対して最も優位な立場にあるにもかかわらず、残念な評価が下されてしまった。

豊田社長は「一緒にいる3人から答えてもらおうかなと。私もそれを聞いてみたい」と言い、周囲に回答を促した。これに対して、まず、前田CTOがエンジンとの向き合い方を回答した。

前田CTO

少し大げさかもしれませんが、エンジンは人類がつくった工業製品として芸術的な技術だと思っています。かなり多くの人が快適で豊かに暮らすことができるツールになりました。

社長が言うように悪いのは炭素です。(燃料を)燃やしたときに炭素が出なければ、大きな利便性を残すきっかけになります

現実的に、ブラジルではバイオエタノール燃料がガソリンより安い流通価格で実用化されています。これにハイブリッドを加えることで、さらに効率よく使うことができるようになります。

実践している市場があり、お客様から極端に大きな不安や不満の声も聞いたことがありません。

販売台数としてもしっかり出ていることを考えると、数は多少減ったとしても、フルラインナップの選択肢の一つとして、エンジンを諦めずにやっていきたいと思っています。

BEVについては、2035年に100BEV化を掲げたレクサスを率いる佐藤CBOが今後の期待を示し、ハンフリーズ統括部長もそれに続いた。

佐藤CBO

BEVに限らず、我々はクルマという商品を通じて素敵な体験をお届けしたいと思っています。ワクワク・ドキドキするクルマをつくりたいんです。

今の内燃機関には、オイルの匂い、エンジンサウンドなどがありますが、BEVにはそこにはないワクワク・ドキドキがあると思っています。

モーターを介したレスポンスのいい動き、滑らかな加減速、静けさなど、ガソリンエンジンにはない付加価値があると思います。

特にラグジュアリーセグメントは、加速性能への感度が非常に高いです。エンジンで出しきれない性能を、モーターであれば出せるかもしれません。

今、機が熟したと思っていまして、マスタードライバーの下で10年くらい千本ノックを受け続け、「トヨタ・レクサスらしい味は何か」に取り組んでいます。

10年かかって、やっと豊田が少し笑顔になれるBEVの可能性が出てきましたBEVはまだクルマをおもしろくできると思います。特に駆動力をコントロールするのに、電動化の技術はものすごく有効です。

ワクワク・ドキドキする未来を提供してくれるオポチュニティだと思って、レクサスはBEVの方向にシフトしていきたいと思います。

ハンフリーズ統括部長

BEVの時代というのは、お客様が自らワクワク・ドキドキしながらカーボンニュートラル社会に貢献するという新たな体験ができるチャンスだと思います。

私が一番言いたいことは、誰しも最初に合理性に目を向けますが、実際には感情的なところにもチャンスはあるんです。

過去10年ほど自動車離れの時代が続いていましたが、今はまったく逆だと思います。

電動化されたパワートレーンだけでなく、例えばデジタルデータを使った通信も可能になり、まったく新しい体験を生み出すとてつもない可能性があると思います。

回答を締めくくる豊田社長は、トヨタのクルマづくりへのこだわりを説明しながら、環境団体の評価に対して正面から答えた。

豊田社長

先方の評価なので、真摯に受け止めますが、BEV2030年に)350万台、30車種でも前向きでないというのであれば、どうすれば評価いただけるのか、逆に教えていただきたいと思います。

パーセンテージで見るのか、絶対台数で見るのか。クルマは一台一台、おひとりおひとりが使うものです。その意味では、パーセンテージでなく、絶対台数でご評価いただきたいと思います。

我々は、どれだけ台数が積み上がったとしても、一台一台、真心をこめてつくり、使っていただく。

どんなパワートレーンであろうが、どんなBEVであろうが、使っていただく方がFun to Driveな気持ちになり、「トヨタのクルマだね」「レクサスのクルマだね」と笑顔になっていなっていただける商品づくりを今後も目指してまいりたいと思います。

カーボンニュートラルには積極的に取り組んでまいります。正解がない世界で、いろんな選択肢を持ちながら解決に臨みたいと思っておりますし、どの選択肢に対しても本当に一生懸命取り組んでいることをご理解いただきたいと思っています。

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

BEV強化を掲げながらも、改めて強調されたトヨタの全方位戦略。

それは、トヨタの未来に向けた戦い方であると同時に、お客様の声を聞き、ニーズに応えてきた歴史の結果でもある。

言い換えれば、「誰ひとり取り残さない」という姿勢で、とことん多様性に向き合ってきた結果だ。

そして、今、トヨタが全力で取り組むのは、可能性のある技術に見切りをつけるのではなく、自動車産業を支えてきた仲間たち「誰ひとり取り残さない」で、カーボンニュートラルを目指すこと。

これまでも、これからも、全方位戦略で戦うトヨタの真ん中にあるのは、「誰ひとり取り残さない」という強い意志である。

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