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「BEVは好きか、嫌いか?」 会見で見せた社長の本音

2021.12.21

発表を掘り下げる質疑が続く中、違うコースに投げ込まれた直球質問。マスタードライバーの核心を突く問いに豊田社長の答えとは?

14日に行われたトヨタのBEV(電気自動車)戦略説明会。メディアの質疑応答の中で、登壇者の豊田章男社長が思わず、破顔した場面があった。

質問者

今回は具体的な発表がたくさんあって驚いているが、社長の本心がまだ聞けていないのが気になる。

水素やハイブリッド(HEV)はいろいろなところで想いや本音を語っていると思うが、BEVは「やっているよ」とビジネスライクなコメントが多い。

ズバリ聞きたいのは「社長はBEVが好きなのか、嫌いなのか」。モリゾウとしてでも構わないので、お答えいただけるとうれしい。

筋金入りのクルマ好きとして知られる豊田社長。2年前の東京モーターショー2019のトークセッションでは、未来のコンセプトカーが展示される会場で、「ガソリン臭くて、音がいっぱい出て…。そんな野性味あふれたクルマが好き」とその胸の内を語っているほど。

そんな社長も2050年カーボンニュートラル実現への選択肢を増やすべく、今年5月から、自らハンドルを握り、開発中の水素エンジン車両でスーパー耐久シリーズに参戦している。

また、同じく環境技術育成の観点では、2012年からハイブリッドシステムで参戦するル・マン24時間レースとWECFIA世界耐久選手権)を戦うチームに熱いエールを送り続けている。

それを頭に置いて考えてみると、確かに豊田社長、はたまた、マスタードライバー・モリゾウがBEVにのめりこんでいる姿は見たことがない――。

会見の内容について掘り下げる質疑が続く中、まったく違うコースに投げ込まれた直球質問。「素晴らしい質問ですね」と顔をほころばせ、次のように答えた。

豊田社長回答シーン

豊田社長

あえて言うなら、「今までのトヨタのBEVには興味がなかった。これからのBEVに興味がある」が答えだと思います。

それはなぜか? ある程度(マスタードライバーとしての運転のスキルが)レベルアップして、初めてメガウェブで(当時の試作車である)86BEVに乗ったとき、私は「電気自動車だね」とコメントしました。

レクサスらしさ、トヨタらしさを追求するOEM(完成車メーカー)なのに、BEVになると「コモディティ」みたいになってしまう。

(今いただいた質問は)「ビジネス的には応援するけど、モリゾウとしてどうなんだろう…」と感じていた本音を見抜かれたんだと思います。

マスタードライバーをやっていますが、そのきっかけになったのはFR(後輪駆動)車で、トレーニング、技能習熟もずっとそれでやってきました。

しかし、最近、自ら出場するラリーとか、スーパー耐久などのモータースポーツの場においては、相棒をFR車から4WD車に変更しているんです。そこで、マスタードライバーの感性がちょっと変わってきました。

電気モーターの効率はガソリン車と比べるとはるかに高いと思います。四駆のプラットフォームを一つつくれば、制御によってFF(前輪駆動)にもなるし、FRにもなる。

制御をもってすれば、モリゾウがどこのサーキットやラリーに行っても、安全に速く走れるんじゃないかと。

なおかつ、全日本(ラリー選手権)では、ノリさん(TOYOTA GAZOO Racingドライバーの勝田範彦選手)が優勝されました。そして、サーキットの場では、ROOKIE Racingのドライバーが活躍しています。

プロのドライバーの運転技能を織り込んで、より安全で、よりFun to Driveなクルマができるんじゃないかという期待値が出てきた。

このプラットフォームにより、私のようなジェントルマンドライバー(アマチュアレーシングドライバー)が、ドライ、ウェット、サーキット、山岳路、雪道など、いろいろな道をより安全に速く走れるクルマがつくれる可能性が出てきた。これが大きな変化点だと思います。

ただ制御だけして、味付けしたところで、のびたうどんにてんぷらを入れるようなものなんです。

ですが、この十数年、TNGAToyota New Global Architecture)をはじめ、トヨタはベース骨格、足回り、ボディ剛性など、「もっといいクルマをつくろうよ」というかけ声のもとに、本当に地道な改善を積み重ねてまいりました。

そして、(愛知県豊田市と岡崎市にまたがる)下山テストコースもつくり、より厳しい条件でのクルマづくりが始まっている。

その中で、より安全で速く走れる、Fun to Driveなクルマがつくれており、これからはBEVを含めて、トヨタのクルマには期待をしています。

それで、単にビジネスマターではなく、ドライバー・モリゾウとしても、「そんなクルマがあったらおもしろいな」「自動運転になっても、自動車屋がつくる自動運転ってちょっと違うよね」というのを織り込みたいと思うようになりました。

BEVだって、FCEV(燃料電池車)だって、HEVだって本気でやっています。なにより、音が出るガソリン臭いクルマだってまだまだ本気ですよ。

そういうところはモリゾウとしても、トヨタの社長としても変化はございません。しつこいですが、どの分野においても、仲間とともに一生懸命にやっています。そして、お客様が笑顔になっていただける商品を提供したいと思っております。

それは、まさしく、自らハンドルを握り、クルマの味に責任を負うマスタードライバー・モリゾウだからこそのコメントであり、「BEVでも『もっといいクルマづくり』を続けていく」というメッセージだった。

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