トヨタイムズ

CO2排出ゼロを実現した職場づくり〜大口第2部品センターの場合〜

特集 2021.06.14 UPDATE

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近年繰り返される異常気象や自然災害は、地球環境の変化による気候変動が原因といわれている。とくに温室効果ガス、CO2の排出削減が世界的な課題となっていることはいうまでもない。

1997年に世界初の量産型ハイブリッドカー「プリウス」を世に送り出して以来、トヨタは25年以上にわたりCO2削減のための技術と商品を開発してきた。そして今、あらためて「2050年もしくはそれより前に、企業としてのカーボンニュートラルを実現する」と宣言。これは先日の2021年3月期決算説明会の席上で取締役・執行役員ジェームス・カフナーが述べた言葉でもある。さらにこの席で、カーボンニュートラル達成のため、新たなクリーンエネルギー技術にも積極的に投資していくことも明確に述べられている。

その言葉を裏打ちする実例のひとつが、愛知県の北部、丹羽郡大口町にこの春オープンした「大口第2部品センター」だ。ここは太陽光パネルによる電力と、水素を活用する燃料電池フォークリフトを稼働させることで、CO2を全く排出しない物流拠点として機能している。今年3月にオープンしたばかりのセンターで、実際に働く人たちに話しを聞いた。

すべての電気をクリーンエネルギーで賄うトヨタ初の物流拠点

今年3月に稼働を始めた大口第2部品センターは、トヨタの主要な物流拠点のひとつだ

「ここは主にクルマのバンパーやヘッドランプなどのパーツから、ボルトやワッシャーなどの部品まで、およそ35万品番もの修理・交換用部品を在庫管理していて、お客様から注文が入るとすぐに商品の出荷ができる体制を整えています。隣の大口第1部品センターと合わせて敷地面積20万㎡を誇ります。」

センター建屋の屋上には、一面、大型の太陽光パネルが設置されている。他にも国内外のトヨタ自動車の施設で太陽光パネルを備える工場や拠点はあるが、使用電力量のすべてを太陽光発電で賄う物流センターは初めてとなる。

「ここでは太陽光パネルでつくられた電気を使って、センター内の照明をはじめ各種設備を稼働させています。さらに水を電気分解して水素を生成することで、センター内を走るフォークリフトの燃料に充てています」

燃料電池フォークリフトは、充填した圧縮水素と空気を反応させることで発生した電気で稼働する。電気のほかには熱と水が排出されるだけで、空気を汚さないクリーンな産業車両だ

センター内の空気を清浄に保つことで職場環境も快適に

ここで稼働している55台のフォークリフトは、すべて水素で動く燃料電池フォークリフト。すでに豊田市内にある元町工場でも採用されているもので、昨年モデルチェンジを果たして話題となった燃料電池自動車「MIRAI」と同じように、圧縮水素を充填した燃料電池によって稼働する。

「一般的なエンジン式のフォークリフトと違い、まったくCO2を排出しないフォークリフトです。今後さらに27台が追加導入される予定です。燃料となる圧縮水素は、場内にあるガソリンスタンドのような圧縮水素ディスペンサーで充填します」

先ほどの話にあったように、ここで使われる水素はセンター内で水を電気分解することで生成されるが、足りない分は外部からも購入しているという。現在のところ、圧縮水素の価格はガソリン価格に換算するとほぼ同額だが、今後水素の生成技術が進歩すれば、さらにコストを抑えることができるといわれている。

「燃料電池フォークリフトは、エンジン式より静かなうえに、センター内の空気を汚しません。充電式のバッテリーフォークリフトの場合、満充電に約8時間掛かりますが、燃料電池フォークリフトは約3分で水素が充填でき、すぐに作業に復帰できるのも便利な点です。従業員の健康面に影響がないため、安心して働けるということもあり、仕事もはかどり人間関係も良好です。文字どおり職場の“空気”が良くなったと感じます」

トータルでのCO2排出ゼロを目指して

左奥の大口第1部品センターに隣接するかたちで新設された大口第2部品センター。屋上部全面に設置された太陽光パネルは、1年間に使用する電気量を超える発電量を誇る

センターの屋上面に設置された太陽光パネルから供給される再エネ電力は最大3,500kW*。これは物流センターで使う電力量としては十分な発電量となる。
*太陽光パネルで発電した直流電力4,200kWをパワーコンディショナで交流変換後の電力

「これから夏にかけて、発電量は最大限まで伸びますが、ここで使い切れずに余った電気は中部電力を通じて、本社地区の他工場へと託送されます。しかし梅雨時や冬場など、太陽があまり顔を出さない時期は、発電量が足りなくなることが予想されます。それに太陽光発電は日中に限り、天候不良時や夜間などは使用することができません。そのため一部は中部電力からの電力購入を行っているのです。」

しかし電力会社から電気を購入することは、火力発電による電気を使うということ。「それで完全にCO2排出ゼロといえるの?」という疑問があるかもしれない。だが1年を通してみれば、太陽光パネルの発電量は買電量をゆうに上回る。そのため「年間の使用電力以上をクリーンエネルギーで発電可能であることから、計算上CO2発生はプラスマイナスゼロ」ということになるのだ。

トヨタ全社で使用する電力は20%が再エネ*電気

*再エネ(再生可能エネルギー)…風力や太陽光、地熱やバイオマスなど、温室効果ガスを排出せずに電力を作り出すエネルギー。利用量よりも自然界で作り出される量のほうが圧倒的に多いため、化石燃料のように枯渇する心配がない。

安定した風力が得られる海外の再生可能エネルギー先進国では、日本よりはるかに大きな電力量を年間通じて発電することができる

日本は「2030年度に温室効果ガスを2013年比46%削減。さらに50%へ挑戦する」と宣言している。これまでこの議論の大半はガソリン車から電動車への移行が主だったのだが、自工会(日本自動車工業会)会長を務めるトヨタ社長・豊田章男は「カーボンニュートラル社会を実現することが大切。つくる、運ぶ、使う、廃棄する、すべてのプロセスでCO2削減を実現しなければならない」と言い続けている。

「トヨタの海外工場でも太陽光パネルを設置したり、欧州や南米など再生可能エネルギーの先進国では、電力会社から買う電気を再エネ100%で運営しているところもあります。現在、日本のトヨタ全社(工場、研究開発施設など)が使う電気のうち、すでに20%が再エネ電気なのです」

現時点では大手電力会社から電気を購入するほうがコストは低く抑えられるが、太陽光パネルや水素施設は保全費用も安価ゆえ、将来的なトータルコストが低く抑えられると期待されている。水素ステーションの建設コストはまだまだ高額だが、将来を見据えれば価値ある投資。今回、100%クリーンエネルギーで賄える大口第2部品センターが誕生したことは、温室効果ガスの排出ゼロに向けたひとつのトライアルといえる。

一人ひとりが未来のエネルギー問題を考えるきっかけに

100%クリーンな電力を使うセンターの設立は、実際に地球に優しいだけでなく、働く人たちの日本のエネルギー問題に対する意識をも変えていった

クリーンエネルギーを利用する物流センターの誕生は、CO2発生を押さえることを可能にしたと同時に、もうひとつ思わぬ効果を生み出している。それは働く人たちのカーボンニュートラル社会への意識を向上させたことだ。

「これだけの規模の太陽光発電、水素燃料も初めての取り組みです。人材育成も含め、働く人たちの未来の課題に立ち向かう意識が向上したと感じています。未来のエネルギー問題に、自分たちが参加できているという自負も高まっているようです」

センターに設置された水素ステーションは、高圧ガスを取り扱うため保安管理に特殊な国家資格を要する。そのため資格をもつ人材育成を推進、すでに現在5名の国家資格所有者が誕生した。今後もこの育成は継続していくという。さまざまな取り組みは、一人ひとりが未来のエネルギー問題を考える絶好の機会になっていた。

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