パラアルペンスキー界のレジェンド 森井⼤輝選⼿。7年ぶりの国内開催となったW杯札幌大会では、念願だった次世代のパラスキーヤーとも交流。そこにある熱い想いとは?
2月16日のトヨタイムズスポーツは、パラアルペンスキーを特集した。7年ぶりの国内開催となったワールドカップ札幌大会に、日本の第一人者である森井⼤輝選⼿が出場。大会期間中には次世代のパラスキーヤーと交流し、競技に対する想いや、引退などについて踏み込んだ発言も。レジェンドは若手選手たちに、アドバイスだけでなく「最大のライバルでもいたい」と熱いメッセージを送った。
世界のトップで戦い続ける43歳
冬季パラリンピックには6大会連続出場中で、計7個のメダルを獲得している森井選手。43歳にして世界のトップレベルで戦い続けているレジェンドで、トヨタのパラアスリートのお兄さん的存在でもある。
今季のW杯は10戦のうち5戦を終え、森井選手は5位から7位までの成績が続き、そろそろ表彰台が欲しいところだ。2月10日から15日まで開かれた札幌大会は、技術系の大回転2レースと回転3レースというスケジュール。地元からもトヨタの応援団が駆け付けた。
日本で久々のトップ選手たちの滑り
会場はサッポロテイネスキー場。初めて見る森井選手の生の滑りに「(チェアスキーの)サスペンションが効いている」と驚く森田京之介キャスター。本人も久々の日本でのW杯に「普段ずっと海外を回っているんですけども、日本の方に僕たちの滑りを見ていただけるのがすごくうれしい」と話していた。
初日の大回転1本目は、一つ一つのターンを確かめながらの滑りで、47秒24。雪が柔らかくて難易度が高いコースをさっそうと駆け抜けた森井選手のレースは18:20から。
2本目はタイムを縮めるために攻めた滑りを見せるが、コースの荒れていた部分に弾かれて転倒。Did Not Finish(棄権)になってしまい、森井選手は「攻めて攻めての失敗だったので。良しとして明日につなげます」と気持ちを入れ替えていた。
もう1人の敵は自然
2日目は、前夜に降り続いた雪がやみ、フリーで滑るのには最高の条件だったのだが、大会はまさかの中止になってしまった。積もった雪を取り除いて競技のコンディションにしなければならず、雪が多くて整備できないのが理由だった。
森井選手は「なんとかリベンジをしたいと思って臨んだんですが」と悔しそう。「自分との戦い、他国の選手との戦いなんですけれども、もう1人敵がいて、それが自然です」と、スキー競技の厳しさを説明してくれた。
次世代パラスキーヤーと座談会で交流
W杯に合わせて開催されていたのが、若手パラスキーヤーを対象にしたスキーキャンプ。中学生から社会人まで8人の選手が参加し、森井選手からの技術指導などを受ける次世代育成プログラムだ。
2日目が中止になったため、参加者との座談会を急きょ開催。英語でのコミュニケーションの必要性など、若手が思っている疑問を森井選手にぶつけた。
森井選手は「ケガをしてしまって、自暴自棄というか全てが嫌になってしまって。でもパラリンピックの映像を見た時に、スポーツをやったら昔の自分に戻れるのかもしれないと思って。チェアスキーをやろうと決意をした瞬間に、『これはリハビリじゃない。僕にとったらトレーニングだ』と意識が変わった」と振り返った。
「いつまで現役をされるかなというのが、気になります」という踏み込んだ質問も。森井選手は「いい質問ですね」と、笑顔でこう答えた。
「2026年をめどに、僕自身はパラリンピックやワールドカップにはもう出場しないでおこうかなと。下のカテゴリーの大会に出ていたいなと思っています。なぜかというと、次の次のパラリンピックに出る選手たちを、最大限自分のできる応援をして速くしてあげたいし、どんな技術でも教えてあげたいと思います。だけど、もう1つの顔は、最大のライバルでもいたい 。隙あらば僕が2030年(のパラリンピック)に出ちゃうよっていう」
座談会の模様は28:26から。
ポジティブな気持ちを力に強くなってほしい
大会が休息日の3日目は、次世代パラスキーヤーに森井選手がゲレンデで直接交流し、滑るたびにみっちりと細かいアドバイスを重ねた。
参加者らは「ダメなところといい滑りを比較して滑ってくれるので、分かりやすい」、「今までは(自分が)やりたい部分だけを意識していたんですけど。大輝さんが他の部分のこともいろいろ教えてくださって、それをやるとだんだん目的のことに近づいていった」と感想を話していた。Ski Campの模様ととインタビューは32:10から。
チェアスキーとラリー競技の共通点は?
今回の取材で森田キャスターが気づいたのが、WRCなどのラリーとチェアスキーとの共通点。滑る前にコースを確認するインスペクションという時間は、ラリーでのレッキに相当するコースの下見にあたる。さらに、クルマやチェアスキーという道具は、自然を克服するためにサスペンションが重要な役割を占めている。
視聴者からも「ヤリスと森井さんが滑走対決したら、どっちが早いだろう」「まさか森井選手チェアスキー引退した後はラリー参戦?」といったコメントが寄せられた。次世代の選手たちの道しるべでありライバルでもある森井選手。今シーズンの残り試合、そしてその先の活躍にも目が離せない。
毎週金曜日11:50からYouTubeで生配信しているトヨタイムズスポーツ。次回(2024年2月23日)は、マラソンを特集する。パリ大会の男子代表の最後の1枠を決める大阪マラソンと東京マラソンに、陸上長距離部から8人が出場の予定。ケニアでトレーニング中の服部勇馬主将に話を聞く。ぜひ、お見逃しなく!