議長席に立った豊田社長が就任11年の歩みを振り返る。株主総会だからこそ語られた、胸の内とは。
2020年6月11日、トヨタ自動車第116回定時株主総会が行われた。株主総会は事業年度末から3カ月以内に招集する必要がある。3月決算のトヨタ自動車は6月末までに開催しなければいけない。
株主と回答役員の間にシールド壁を設置するなど、あらゆる感染拡大防止策が講じられ本年の株主総会は開催された。
定刻となり議長である豊田社長が開会を宣言。その後、映像による事業報告などがあり、株主からの質疑応答に移っていく。今年は、ここで、豊田社長から「トヨタの体質強化と決算に込めた想い」が語られた。
社長就任以来の体質強化については、先日の決算説明でも語られている。しかし、今回は話す相手が違った。株主は会社のオーナーである。“トヨタに期待して投資をしている人たち”であり“共に戦う仲間達”とも言える。
豊田社長は、株主総会のことを「直接、株主とコミュニケーションが取れる年に一度の日」と表現し、社内で次のように語っている。
株主を前にして豊田社長は、メディアに向けては話すことのなかった自身の胸の内を口にした。
株主総会だからこそ語られた豊田社長の胸の内を、トヨタイムズではお伝えしたい。
<質疑応答前の豊田社長コメント>
※記事の最後に映像があります。
ここで、当社の企業体質の強化について、ご説明させていただきます。
私が2009年に社長に就任して以降、数多くの危機に直面し、乗り越えていく中で、トヨタの企業体質は少しずつ強くなってきたと思っております。
リーマン・ショック直前の3年間は、為替の恩恵と販売台数増加で営業利益を増やす一方で、作れば売れるという意識のもと、毎年50万台以上の生産能力増強を続け、固定費が大幅に増加しておりました。
この時代は、トヨタが世の中から一番称賛されていた時期でもあり、時の勢いに任せて、身の丈以上に規模の拡大を進めた結果、人材育成がおろそかになり、後のリコール問題につながっていったのだと思います。
リーマン・ショック直後には、販売台数の大幅減少に、円高の影響も重なり、4610億円の赤字に転落いたしました。
私が社長に就任した直後の4年間は、大規模リコール問題、東日本大震災など、数々の危機を全社一丸となって乗り越える中で、販売台数をリーマン・ショック前のレベルまで挽回いたしました。
同時に、急激に固定費を圧縮し、2013年3月期(2012年度)は、為替が1ドル83円の超円高の中でも、1兆円を超える営業利益を確保いたしました。
しかし、研究開発や設備投資など、一斉にブレーキをかけてしまいましたので、本格的な回復には時間がかかる結果になってしまいました。
ただ、今にして思えば、「あれしかできなかった」というのが、私の正直な気持ちでございます。
当時、私の改革に対しては、常に「お手並み拝見」、少しでも上手くいかないことがあれば、「そら見たことか」というムードが蔓延しておりました。
こうした中で、「とにかく利益を出すしかない。利益を出さなければ何もできない」。
その一念で突き進んだ時期だったと思っております。
そして、もう一つ。当時のトヨタは赤字でしたので、税金を納めることすらできませんでした。
「産業報国」を掲げてきた会社が、社会貢献の基本である税金を納めることさえできない。
当時の悔しい想い、情けない想いを、私は忘れることはできません。
「赤字は絶対にいけない」。そう心に誓った時期でもありました。
足元の7年間は、「もっといいクルマづくり」を加速するためのTNGAやCASE対応への投資による固定費の増加を原価改善などにより吸収しながら体質を強化してまいりました。
最初の3年間は、いわゆる「意志ある踊り場」として、真の競争力強化を目指しましたが、充分な成果は得られなかったというのが私の自己評価です。
「意志ある踊り場」で痛感したことがございます。それは平時における改革の難しさです。
長い年月をかけて定着してしまった「トヨタは大丈夫」という社内の意識、それを前提にモノを考える企業風土。これらの変革に本気で取り組むきっかけになったのが、私にとっての「意志ある踊り場」だったような気がしております。
そこに「100年に一度の大変革」が重なってきたものですから、この数年間は、「トヨタらしさを取り戻す闘い」と「未来に向けたトヨタのフルモデルチェンジ」の両方にガムシャラに取り組むことになったわけでございます。
正解がない時代に会社を変えるためには、経営層から変わらなければならないと考え、この間、カンパニー制の導入、「七人の侍」体制や副社長の廃止等、役員・組織の体制を抜本的に見直してまいりました。現役だけではなく、相談役制度についても見直しを実施いたしました。
春の交渉をはじめとする、従業員とのコミュニケーションについても、本気で本音で、向き合ってまいりました。
「会社は従業員の幸せを願い、組合は会社の発展を願う」。これがトヨタ労使の共通の基盤でございます。
この大変革の時代に、「従業員の幸せ」を本気で願った時に、「ベースアップ」や「一律の配分」といったこれまでの常識にも踏み込まなければならないと考え、労使で徹底的に議論し、抜本的な働き方改革に取り組んでおります。
「もっといいクルマづくり」、「TPSと原価のつくり込み」といった「トヨタらしさ」を取り戻しながら、未来に向けては、アライアンスによる仲間づくりを積極的に推進してまいりました。
「資本の論理で傘下におさめる」のではなく、「志を同じくする仲間をリスペクトし、仕事を通じて連携していく」というのが私たちの基本スタンスです。その結果、非常に短期間で、異業種も含めた多くの仲間とのネットワークをつくることができました。
新たな仲間を増やすだけではなく、トヨタグループの連携についても進めてまいりました。「ホーム&アウェイ」という新しい戦略のもと、個社としてではなく、トヨタグループとして「ともに」強くなるという考え方に大きく変えてまいりました。
また、モビリティ・カンパニーへのフルモデルチェンジを念頭に、政策保有株の見直しや遊休不動産の売却など、アセットの組み換えにも取り組んでおります。
11年にわたる、こうした取り組みの結果、私たちは、リーマン・ショックの時に比べて、200万台以上、損益分岐台数を下げることができました。これがコロナ危機に直面した2020年3月期(2019年度)の決算につながっていくことになります。
2020年3月期(2019年度)の決算では、2兆4千億円を超える営業利益を確保することができました。
第4四半期にコロナ危機の影響を受けながらも、前年比で約1%の減少に踏みとどまることができました。
2021年3月期(2020年度)につきましても、営業利益5千億円を確保する見通しを出すことができました。
今期の見通しは、普通で考えれば“出すことは難しい”ものだと思います。
それでもお示しいたしましたのは、すそ野が広く、日本経済への波及効果が大きい自動車産業に身を置くものとして、何らかの基準を示すことが、私たちの責務であると考えたからでございます。
そして、基準を示すことで、多くの方々が何らかの計画を立てることができるのではないか、世の中のお役に立てるのではないかと考えたわけでございます。
今回の決算は、この11年間の試行錯誤の結果であると思っておりますので、少しお時間をいただいて、これまでの取り組みをお話させていただきました。
何卒、変わらぬご理解・ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
豊田社長は、この想いを株主に伝えた上で、質疑応答をスタートさせた。
次回、トヨタイムズでは、質疑応答の内容を伝えてまいります。