出口が見えない新車の長納期問題。「全社緊急課題」の解決へ、クルマづくりに関わる各部門のトップとグループ・販売店を含む労組の代表が議論を深めた。
11月18日、トヨタ自動車本社(愛知県豊田市)で、今年3度目の労使懇談会(労使懇)が開かれた。
3月の労使協議会(労使協)以降、年間テーマとして、デジタル化と全員活躍について話し合いを進めてきたトヨタ労使。
今回、その継続課題より優先度が高いとして、俎上(そじょう)に上げたのが、新車の長納期問題だった。
新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足で、車種によっては1年以上かかるとされるトヨタのクルマ。
お客様に向き合う販売店や挽回生産に備える仕入先を巻き込んだ議題に、組合からは、トヨタグループの「全トヨタ労働組合連合会(全トヨタ労連)」やトヨタ系販売店、レンタリース店の「全トヨタ販売労働組合連合会(全トヨタ販労連)」の代表者が参加。
会社からは、設計、調達、生産、物流、販売など、クルマづくりに携わる部門のトップが出席した。
労使が「全社緊急課題」と位置付けた話し合いをレポートする。
お客様は「納得」でなく「諦め」
「既にオーダーいただいているお客様には、長納期の状況を十分理解していただけていると思う。しかし、この理解は『納得』ではなく、『諦め』に近い」
全トヨタ販労連を代表して参加した菅野朋之委員長代行は長納期下でのお客様の反応をこう表現した。
販売の現場では、おおよその納期も伝えられない実態があること。他メーカーに流れてしまうお客様がいること。販売の最前線の実状と店舗で必死に働くスタッフの努力を伝えた。
こうした声を受け、販売・事業を担当する宮崎洋一CCO(Chief Competitive Officer)は、「会社の外から中を見る感覚を持たないといけない。お客様にとっては、メーカーの理屈よりも『自分のクルマはどこにあるのか、いつ届くのか』が一番の関心事になる」という豊田章男社長の言葉を紹介。
労使で意識を合わせた後、足元の状況と今後の展望を説明した。
宮崎CCOは半導体不足の影響で、国内生産の比率が落ち込み、国内と海外の生産比率が崩れたと解説。
「この比率のひずみが大きくなり、受注残が減らない(納期が伸びている)ことは、危機的な状態。2023年1~3月については、国内向けの増産の検討を進めていきたい」とした。
なお、米国には、クルマを広い土地に並べ、自分に合った一台を購入し、乗って帰るという販売文化がある。
従来は、店舗在庫が平均で240台あったが、コロナ禍で一時、6台程度と約1.8日分に。日本だけではなく、グローバルで配車に苦労し、お客様や販売店や迷惑をかけている実態についても補足した。
全社総出の長納期対応(調達・設計)
ここから、長納期に対して、各部門がどのように向き合っているか、それぞれの代表者らが答えた。
半導体の確保について、発言したのは熊倉和生 調達本部長。
「半導体は投資規模が大きく、クルマの動向を将来にわたって把握できないと(増産の)判断ができない」として、半導体メーカーとの直接交渉の重要性に言及した。
半導体不足に向き合うのは、調達だけではない。Chief Technology Officerを務める前田昌彦副社長は、設計面での対応についてこう話す。
「設計を変えてほかの半導体を使う。他のメーカーのものを使う。中期的には、構造そのものを変えるといった何段階かの対応をやる。それにより、(半導体を)入手しやすくする。もしくは、入手しにくいものを減らしていく」
Mid-size Vehicle Companyの中嶋裕樹プレジデントは、代替品探しやそれに伴う評価・法規認証の作業に追われている開発現場の苦労に言及。
専任部隊をつくって、仕事の負荷を下げたり、設計変更手続きの簡素化を図るなどの取り組みが始まっている事例も紹介した。
組合からは、新たな取り組みを前に、影響のある部署の巻き込みや情報のやりとりに時間と工数がかかっているという問題点が提起され、業務の優先順位付け、部署を横断した協力体制など、会社に積極的な旗振りを求める声が挙がった。
全社総出の長納期対応(生産・物流)
工場を預かる生産本部からは、中村好男副本部長が、一台でも多く車両が組めるよう、緻密に生産計画を練っている事例を紹介。
せっかく部品が確保できても、ラインが動かなければ損失になってしまうと、設備の保全活動にも、より一層力を入れている現場の努力を伝えた。
物流を担当する尾上恭吾TPS本部長は、国内外の生産比率のひずみに対応する新たなチャレンジを紹介。
通常、東海地区でつくった海外向け車両は、名古屋港、もしくは、田原港から輸出する。しかし、国内向けの比率が増えると、船ではなくキャリアカーで運ぶ量が増える。
来年1~3月の国内向けの増産に備え、既に協力会社と相談し、ドライバーの確保にあたっているが、未だ十分には集まっていない。
そこで、車両を生産する豊田市の工場から田原港を経由して輸出していた海外向け車両を名古屋港経由に。陸路を短くすることでキャリアカーの数を減らすという。
このほかにも、ダイハツと物流で協業する検討を始めていることも紹介。具体的には、トヨタ工場から車両を出荷したキャリアカーが、帰路にダイハツ車両を載せ、空の状態での移動距離を減らすというもの。
余裕ができたダイハツ分のドライバーをトヨタに回してもらうなどして、効率化を目指す考えだ。
尾上本部長は「550万人の仲間の力もいただき、なんとか『運び切る』チャレンジをしていきたい」と語った。