失敗しようが、成功しようが、チャレンジするときに人は成長する。「一人ひとりの成長」へ議論は白熱していく。
【業務職】の仕事と成果を理解しているか
続いて、組合からは「何のためにやるのか、腹落ちできないまま業務を付与されることがある」「日々の業務やキャリアに上司があまり興味を持っていない」といった声が紹介された。
これに対しては、品質を担当するカスタマーファースト推進本部の宮本本部長が、「マネジメントに責任がある」と語り、ある業務職社員のモチベーションを変えたエピソードを語った。
宮本本部長
我々の本部は業務職が多いです。海外とのやりとりを積極的に行ってくれている部署の人もいます。
コロナ禍では、ITツールなどを準備してくれ、仕事がしやすくなったと感謝もされています。
業務職に活躍してもらうためには、上司がそのときの状況を考え、業務付与をすることが一番のキーだと思います。
一つの事例ですが、部品事業部で、(販売店で売る)オイルが何に使われているかわからない、どのようにオイル交換が行われているかわからないという声がありました。
これを受けて、上司が「体験してみよう」と提案し、自分たちでオイル交換をする体験をやったところ、ほんの半日で、業務職のモチベーションがぐっと上がりました。
こういったことがマネジメントの責任であり、やらなければならないことだと感じました。
労使双方で提案しながらやっていくことで、モチベーションが上がり、お客様のために働こうと、気持ちが変わっていくのではないかと思います。
そして、世の中が大きく変動するコロナ禍の今。社員一人ひとりがもっと活躍するために、議題は働き方を変える「デジタル化」の話へ。
遅れていると言われるトヨタ社内のデジタル化。今後の方針について議論は進んでいく。
【デジタル化】で、世界をリードする働きやすい環境へ
ここで、ソフトウェアの開発や研究成果の製品化を推進するジェームス・カフナー執行役員が口を開く。
ジェームス・カフナー執行役員
デジタルツールについて申し上げると、コロナ禍は、デジタル技術でどのように働き方を変えられるか、考える機会になったと思います。
(デジタルツールも含む)自動化の進展によって自分たちの仕事の意味がなくなってしまうのではないかと心配される声も伺いました。
トヨタはかねてより、人々のスキルや働きがいが失われない形で、テクノロジーがどのように仕事を改善できるかを考えてきた会社だと思います。
仮に工場の設備が止まったとしても、スキルがあれば、(手づくりで)クルマづくりは行えるんだという話を聞いたこともあります。
業務職の皆さん、そして若手を中心としたすべてのメンバーのために、コミュニケーションを改善し、情報シェアが活発になり、スキルのレベルアップにつながるよう、デジタル技術への取り組みを後押ししていきたいと思います。
トヨタのカイゼンの精神は、工場だけに当てはまるものではなく、オフィススタッフやサポートスタッフなど、すべての職場でも実践されるものだと思います。
私は、すべての若手が、トヨタで自分自身が大きく成長できる未来があると感じて欲しいと思っています。
どのようなデジタルツールがあればより生産性が上がるのか、特に若手の皆さんから、ぜひアドバイスや提案をいただきたいと思います。
これを受けて、組合からはトヨタの抱えるデジタル領域での課題が伝えられた。
組合
職場の中でも、IT環境を整えてもらっていることに非常に感謝しています。
しかし、Woven Planet社など他社と協業しているメンバーからは、トヨタのセキュリティの問題上、会社間のやりとりでクラウドが使用できず、メールを何通も送ってしまう。
新しいアプリの導入の申請にかなりの時間がかかり、仕事全体が進まなくなってしまう。
グループ会社とのスケージュール共有で、トヨタ社員だけが入れないといった声を聞きます。
もう少しだけ、グループ会社や協業会社の人と円滑に仕事を進められるIT環境にしていただければと思います。
その声を受け、再びカフナー執行役員が答える。
ジェームス・カフナー執行役員
トヨタでは、(ITツール活用において)改善の余地が大きいことを実感しています。
(私自身がトップを務める)Woven Planet社では、最先端のセキュリティポリシーとプロセスを導入しようとしています。現在、議論しているデジタルトランスフォーメーションの原則のひとつに、「クラウド・ファースト」の推進があります。
それにより、高いレベルでのシームレスな統合が可能になりますし、新しいネットワークアーキテクチャにより、PCでもスマートフォンでも、ユーザー使用時にも高度なセキュリティを提供できます。
IT大手は従来型のセキュリティのやり方から完全に移行しはじめました。これが新しいやり方になると思います。
これらの変革を進めていくことには時間がかかると思いますが、私もベストを尽くし、加速していきます。
ITインフラが皆さんの仕事を滞らせてはいけません。本来、逆であるべきです。ITインフラは皆さんの仕事を加速させるもの、生産性を高めるものであるべきです。
Woven Planetでは、こういったものを(先行的に)導入し、それをテンプレートとして、多くのトヨタグループ企業に広げていきたいと思っています。
これから変革を進め、トヨタを、デジタルトランスフォーメーションに成功した最初の自動車メーカーにしたいと思います。私たちがともに取り組めば、トヨタは必ずできると思います。
話し合いを通じて、現場の課題と対策が次第に明確になっていく。
情報をタイムリーに発信・共有していくには、ITツールの改善が不可欠だ。直近の課題に早急に対応しつつ、今後の対応に話が進む。
ソフトウェアファーストを推進する山本執行役員が、550万人の仲間たちの働きやすさも目指し、ITツールに「大胆な投資」をすると明言した。
山本執行役員
現在の若者世代は、「デジタルネイティブ」と言われます。生まれたときには、既にインターネット環境があって、ITツールが身の回りにありました。
そういう人たちが新入社員やキャリア入社者に多くなってきました。ITリテラシーが高く、トヨタのIT環境に対する意見が出るのは当然だと思っています。
一方で、ITツールは千差万別です。若者にとって使いやすいものと年長者にとって使いやすいものは必ずしも一緒ではありません。IT環境を全社一斉に進めるには、かなりのパワーと時間がいります。
会社としては、若い世代のデジタルネイティブにふさわしいITツールは何かを考え、従来の延長線上ではない、大胆な投資をしていこうと考えています。
当然、若い世代と年長者とのギャップも生まれてきます。ギャップを埋めるための橋渡しをする「通訳」のようなサポートにも手を打っていこうと思っています。
大事なのはトヨタにとってのIT環境であるだけではなく、販売店・仕入先を含めた550万人全体にいい影響にもたらすということ。
それによって、業界全体でのコミュニケーションも活発になってくる。そういう意識をしなければならないと思います。
会社と組合が汗をかき、知恵を出して、いいものをつくりあげる。それをトヨタの外にも展開していく。この考え方で取り組んでいきたいと思います。
ここまで、若手や業務職の能力を最大発揮するための議論が行われてきたが、組合から、自分たちの意識を変える必要性もあると語られる。
組合・小野副委員長
「若手」「業務職」という観点で議論させていただきましたが、根っこにあるものは同じだと感じています。
「彼は若手だから」「彼女は業務職なので」と、我々が先入観から抜け出せていない部分があると思います。
これはマネジメント層だけではなく、組合員側も同じだと思います。しかし、自分から線を引く必要はないと感じています。
これからは、若手も業務職も先輩が歩んできた道だけではなく、いろいろな可能性が広がっていくのではないかと感じています。
組合員は、どのように成長し、お客様や仲間のうれしさにつながる仕事ができるか、ということをより意識し努力すべきと考えます。
マネジメントの皆様には、職種や資格で見るのではなく、一人ひとりに向き合い、メンバーの能力を最大限に引き出していただきたいと思います。
「これまでこうやってきたから」ではなく、「これからはどうやっていくか」という建設的な話が上司・部下の間でできればと考えています。
デジタル化を進める上で、トヨタの大きなハードルについても話が出た。
それは、ITやベンチャー企業では、生き残るために情報共有を徹底して力に変えているが、トヨタはたくさんのリソースがあるのに、部署間の壁があり生かされていない。
デバイスの進化だけでなく、「人の意識を変革する」「会社の風土を変える」ことも重要だと、労使双方で認識が合わされた。