変わりゆく時代の中でも、ワクワクするモノづくりが変わらずあり続けるために。工場の環境、働き方の大変革「未来工場プロジェクト」とは。
RAV4を分解し、構造や工程を見直す従業員…。伝統ある時計塔をカラフルに彩る、従業員、家族、地域の人、関係仕入先…。
トヨタの工場に足を踏み入れると、クルマづくりだけではない、さまざまな活動に取り組む人たちがいる。
これらの活動は一見バラバラに見えるが、実はある想いで共通したプロジェクトのもとで行われている。今回はその想いとプロジェクトについて、明らかにしていく。
モノづくりを継承できる環境へ
30年後も変わらず、モノづくりがワクワクするものであるには、どうしたら良いのか。
日本生産性本部によると、生産年齢人口は2060年には2000年から半減する見込みだという。
また、若者はワークライフバランスを重視した志向に変化している。対して工場勤務が、かつて“3K(きつい・きたない・きけん)”と呼ばれたようなイメージのままでは、モノづくりをしたいと思う人がいなくなってしまう。
AIは人に代わってさまざまな仕事をこなしてくれるが、人にしか継承できないモノづくりは未来に残していかなければならない。
働く環境、働き方を変えていく必要がある。
この危機感を大きな変革のチャンスと捉え、サステナビリティ重要取り組みテーマの一つとして、佐藤恒治社長(当時)が「工場の抜本的な環境改善と働き方改革」を設定。こうして始動したのが「未来工場プロジェクト」だ。
「人中心」で考える「やりがい」と「生産性」
「未来工場プロジェクト」が目指すのは「人中心」のサステナブルなモノづくりで「やりがい」と「生産性」の向上を同時に実現すること。
過去から現在、未来へと時間が途切れず続く中で、何かの価値をつくってきたのは機械ではなく「人」。しかし、効率だけを見れば、人を介さない選択もあり得る時代。それでは、人は何のために存在しているのかという疑問が生じてしまう。
だからこそ、「人中心」の考え方を重視し、働いている人たちが「成長したい」「チャレンジしたい」と、やりがいと幸せを感じられる働き方を実現しつつ、クルマの構造とつくり方を進化させることで、生産性も向上させる。
プロジェクトで行う改革は、すぐに取り掛かることができる「1.0」から、3年後を見据えた取り組みの「2.0」、10年後をめがけた「3.0」と段階に分けて考えられている。
プロジェクトを進めるのは、このために立ち上げられた「MIRAI FACTORY部」。川又潤部長は、次のように語る。
MIRAI FACTORY部 川又潤部長
(プロジェクトを進めるにあたって佐藤社長が)「クルマづくりでは、第一段階である“構想”で自分の夢を詰め込む。それが5割実現できたらすごいクルマになる」というお話しをされたんです。
「こうありたい」という想いをもたない限りはつまらない結果しか生まれない。未来工場プロジェクトも、3.0ばかりやっていても絵空事になりますが、1.0ばかりやっていても思い描いた未来はつくれない。両輪で進めていくことが大事だと考えています。
総勢84名からなるメンバーのうち専任は12名。大半は各工場の製造部や製造技術部、統括部、事技系職場の人事部や調達部などと兼務となっている。
そこには、プロジェクトで行うさまざまな取り組みを、「MIRAI FACTORY部」が主導するのではなく、それぞれの部署が自分事として捉え、主体的に動けるようにする狙いがある。
「暇か」と言われながら起こしたムーブメント
未来工場の実現に向けた第一歩。足元のやりがいにつながる「1.0」の取り組みの一例として、老朽化し数も少なかったトイレやロッカーのつくりかえ、増設や、業務と休憩をしっかりと分けることができる休憩所の改善を行っている。
小さな一歩のように思えるが、特に女性は現場の汚さよりトイレの汚さに大きな不満を抱いていたとMIRAI FACTORY部の瀧上杏子主幹は語る。
MIRAI FACTORY部 瀧上杏子主幹
そもそも現場での女性の配置も少なかったので、トイレも女性が使用することをあまり想定されていなかったように思います。
実際、各工場をまわって改善したいことを聞くと「トイレが足りない」「とにかくトイレをつくって」という声が多かったです。
これまで生産性を高めることを主目的としていた生産ラインの改善も、生産性に加え、誰もが無理なく作業できる改善へシフト。「Any Member Any Process(AMAP)」と称し、モーションキャプチャーを使って作業負担を可視化。からくりも活用しながら、若手男性だけでなく女性やシニア、そして現在は広げられていないパート勤務者やアルバイトなど、誰もが無理なくどこでも活躍できる工程を目指している。
こうした活動に対し、現場はどう感じているのだろうか? 2015年の入社以来、産休・育休を挟みながら高岡工場塗装成形部で業務に従事してきた松岡舞林は、次のように語る。
高岡工場塗装成形部 松岡舞林
ここ(取材で使用した休憩所)も、ボロボロだったのがリラックスできる空間になったり、昔は女性が配置されることが難しかった現場も、AMAPなどを通して無理なく働ける環境になったり。
入社から現在まではなんとなく「今後良くなったらいいな」と思っていただけで、大きな変化はあまりない状態で過ごしていたので「未来工場プロジェクト」が始まって目に見えて変化が分かるようになって、期待が高まっています。
これまで通りに過ごしているだけでは未来が変わることはない。今の現場と向き合い、大小関わらず困りごとを解消していくことで、将来にわたって働きやすい環境につなげていく。
MIRAI FACTORY部 川又潤部長
実際、プロジェクトが始まってすぐは、現場の皆さんにはなかなか我々の想いが伝わっていなかったと思います。「皆で未来を良くしよう」と思想も含めて発信しても「暇か」というような厳しい言葉をもらうこともありました。
ですが、こうして仲間を増やし少しずつ着実に工場の環境を変え、従業員がそれを感じられる風を吹かせることができたのは、一つの価値だと思います。
現在、MIRAI FACTORY部が主導せずとも、各工場が自主的に行う取り組みも増えているという。
冒頭で触れた取り組みも、未来工場プロジェクトの一例だ。
完成車を分解して一から構造と工程を見直し、機能集約や部品統合を検討。誰もが制限なくクルマづくりに携われる環境を目指す。誰もが等しく挑戦できる現場にすることで、従業員のモチベーションを高める。
従業員やその家族、地域の人、関係仕入先が一緒に伝統の時計塔を彩ることで、業務以外のコミュニケーションが生まれ、双方の理解につなげる。地域の人にも知ってもらい「工場があって良かった」と思ってもらえることで、より誇りをもって現場に向かえる環境をつくる。
一見するとまったく異なるように見える取り組みでも、人を中心として現場のやりがいと生産性を高めるという、プロジェクトの目的でつながっているのだ。
会社の原点をもう一度
プロジェクトが始動して2年が経った2026年3月。川又部長のもとに、1通の手紙が届いた。
「毎日の仕事がしんどくてたまらないです。ヘトヘトになって、寮に帰ったら寝るだけ。この生活がずっと続くと思うと耐えられません。『未来工場プロジェクト』はやりがいと生産性を高め、働きやすい会社にしていく取り組みだと聞いたので、ぜひ早く実現してください」
現場で働く19歳の男性からだった。顔も名前も知らない部長へ、勇気を出して想いを届けてくれたことに感謝し、覚悟を改めたと川又部長は話す。
MIRAI FACTORY部 川又潤部長
僕らが進めるプロジェクトは、豊田佐吉翁が「母を楽にしたい」という想いで機織り機をつくった原点と同じだと考えています。
過去に価値をつくってきたのはいつだって機械ではなく人間です。現在から続いていく未来でも、人間が幸せだと感じられるように。「人中心」で「やりがい」と「生産性」の両輪から未来を切り開いていきたいです。