コロナ禍で迎えた2022年。豊田社長が国内のトヨタの従業員に伝えた新年のメッセージを全文と動画で紹介する。
1月7日、豊田章男社長から国内のトヨタで働く従業員に向けて、新年のメッセージが届けられた。
会場となった愛知県豊田市のトヨタ本社には、参加を希望した500人の従業員が出席。そのほかは、リモートでメッセージを受け取った。
正解のわからない時代を生き抜くために、大切なことは何か? 業界を取り巻く環境が変化し続ける中、開始直前まで社長自ら考え抜いたというメッセージを全文と動画で紹介する。
コロナ禍を振り返り、伝えたいこと
豊田社長
皆さん、あけましておめでとうございます。いまだ、新型コロナウイルスの影響は続いておりますが、こうして、皆さんと新しい年を迎えられましたことをうれしく思います。
年明けに、直接、皆さんとお会いして、お話をするのは、2年ぶりになります。
この2年間を振り返りますと、コロナの感染拡大により、自由な移動が制限され、オンラインでのコミュニケーションが新たな常識になるなど、私たちの暮らしも働き方も一変いたしました。
こうした状況の中でも、トヨタで働く皆さんは、自動車産業550万人の仲間とともに、仕事をすることにより、人々の移動を支え、経済を回し続けてきたと思っております。
皆さんの努力に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
大切なのは決断と行動
豊田社長
今、私たちは多様化した世界で、正解のわからない時代を生きています。こうした時代を生き抜くために、大切なことは何か。とにかく、何かを決めて、動いてみることだと思います。
例えば、カーボンニュートラル。昨年のはじめの頃は、目標だけは掲げられているけれど、具体的に何をすれば良いのか、誰も、何もわからない状況だったと思います。
まずは、「正しく理解することから始めよう」。そして、「ゴールはカーボンニュートラル」。「山の登り方は一つではない」。「敵は、内燃機関ではなく、炭素」。「最初から、お客様の選択肢をせばめないでほしい」。
そう言い続けながら、まずは、「自分たちでできることをやってみよう」と水素エンジンで、スーパー耐久に参戦いたしました。
その結果、チャレンジを重ねるごとに「つくる」「はこぶ」「つかう」すべての分野で、私たちの「意志」と「情熱」と「行動」に共感してくれた仲間が少しずつ増えてまいりました。こんなに、多くの仲間が集まるなんて、最初は夢にも思いませんでした。
仲間を増やすために尽力してくれた人たち、アジャイル開発についてきてくれた人たち、安全走行に協力し、手伝ってくれた人たちに感謝いたします。ありがとうございました。
しかし、その一方で、「トヨタはバッテリーEV(BEV)に消極的だ」。そんな声が大きくなってまいりました。
「あらゆる技術の可能性に挑戦したい」。「人生をかけてやってきた仕事を未来につなげたい」。そんな私たちの想いがまったく通じない世界があることも思い知らされました。
想いを伝えるためには、行動で示すしかありません。私たちの行動。それは「商品」です。そこで、これから市販する予定のBEVをすべてお見せすることを決めました。
そうした想いで企画した昨年末のBEV説明会。トヨタの本気度を世界中の人々にお示しすることができたと思っています。
準備期間、わずか50日。こうしたことができるのも、トヨタの中に、BEVを一番に考え、商品化を進めてくれている人たちがいたからだと思います。
昨年末、自分が説明会をやろうと決めたとき、その決断と行動をサポートしてくれたすべての人たちに感謝いたします。ありがとうございます。
トヨタが守るべき3本柱
豊田社長
正解がわからないときこそ、トップ自らが意思決定をして、行動しなければならない。しかし、むやみに動けばいいというものではありません。そこには、守るべき3つの柱があります。
まずは、トヨタの「思想」です。トヨタは何のために存在するのか? クルマをたくさん売るためではありません。会社の利益のためでもありません。トヨタは「みんなの幸せ」のために存在するのです。
自分以外の誰かを思い、その人のために働き、そして、ともに幸せになる。この継承すべき「思想」をまとめたものが「トヨタフィロソフィー」です。
そして、「思想」を具現化するための「技」。これが「TPS(トヨタ生産方式)」です。最後に、この2つを身につけるための「所作」。これが「トヨタウェイ」です。
トヨタで働く皆さんには、常に、この3本柱を頭に置きながら、仕事をしてほしいと思っております。なぜなら、これらはすべて、「仕事」を通じて、「現場」で身につけるべきものだからです。
これまで、私と皆さんが積み重ねてきた12年。リーマン・ショック後の赤字転落からはじまり、リコール問題、東日本大震災、コロナ危機。本当に危機の連続でした。
困難にぶつかるたびに、私自身、「現場」に入り、トヨタの「思想」と「技」と「所作」を自らの「行動」で、皆さんに示してきたつもりです。しかしながら、なかなか伝わらない。それが、私自身の大きな悩みでした。
そこで、ここ数年は、日々の仕事を通じて、トヨタの3本柱を伝えようとチャレンジしております。一番、わかりやすい例がGRヤリスや水素カローラの取り組みです。
現地現物で、商品であるクルマをともにつくり、壊し、直し、またつくる。これを繰り返したことにより、クルマは、どんどん強くなってまいりました。
こんなクルマづくりがGRヤリス以外にもなぜできないのか?
2022年。いろいろなプロジェクトが進行する中で、是非とも、開発、生産、販売からアフターセールスに至るまで、すべての機能が一体となった活動が行われることを期待しております。
トヨタが目指すデジタル化
豊田社長
さらに、情報伝達のやり方も大きく変えてきております。私が社長就任以来、ずっと続けてきたミーティングがあります。「火曜日」の朝に行う役員ミーティングです。
コロナをきっかけにこのミーティングもそのやり方を大きく見直しました。
以前は本社の会議室に来ることができる日本の役員限定で実施していたミーティングをオンラインに変更することで、地域本部長など、海外のメンバーも参加できるようになりました。
それだけではありません。資格に関係なく、実際にプロジェクトを進めている担当者も参加できるようにした結果、これまでは20名程度だった参加者が200名以上に増えてきております。
なぜ、こんなことを始めたのか。2つ理由があります。
一つは、情報は、誰かを介して伝えると、伝言ゲームとなり、最後には、大事なことが抜け落ちて伝わらなくなってしまうからです。
朝ミーティングは単なる情報共有の場ではありません。私自身が継承してきたトヨタの「思想」と「技」と「所作」を伝える場です。
だからこそ、プロジェクトを担当する人たちに直接、伝えなければならない。それが人財育成になると考えたからです。
そして、二つ目は、情報は、上司のものではなく、会社のものだからです。
これまでのトヨタには、「知っている人が偉い」という風潮があったと思います。正解がわからない時代に、モビリティカンパニーへのモデルチェンジを進めるためには、この風潮を打破しなければなりません。
情報とは、必要な人が、必要なものを、必要なときに、すぐに引き出せることが大切です。しかし、今は、何でも知っているスーパーマンをつくろうとしているように思います。
それよりも、みんなが持っているすべての情報を「情報ポスト」に入れて、そのポストには、誰でもアクセス可能な状態をつくり出すことにチャレンジしてほしいと思います。
デジタル化というと、デジタルツールを使うことが目的であるかのように思う人がまだまだ多いと思いますが、情報をどうプールし、どう使うかをみんなで考えていってほしいと思います。
社長から3つのお願い
豊田社長
最後に、新年を迎えるにあたり、皆さんに「3つのお願い」をしたいと思います。
一つ目。何か新しいことを学ぶこと。新しい言語、絵画や音楽、スポーツ、運転技術の向上など。今までチャレンジしたことがないものであれば、どんなものでもかまいません。
二つ目。世界のいろいろな地域にいるトヨタの仲間と連絡をとり合い、彼ら彼女らが、自分と同じ課題にどうチャレンジしようとしているのかを学んでください。
お互いの経験を共有し、支え合い、新しい仲間をつくることで、私たちは、多くのことを学び、成長することができます。
そして、三つ目。仕事以外の時間を楽しむこと。携帯電話の電源を切り、パソコンを閉じて、体を動かし、思いのまま楽しんでください。
2022年を勇気と幸せに満ちあふれる年にしましょう。善行を重ね、ユーモアあふれる年にしましょうよ。そして、悔いのない、充実した人生を送ろうじゃありませんか。
最後に、トヨタで働くすべての皆さんに心より感謝申し上げます。
近いうちに、皆さんの現場でお会いできることを楽しみにしております。くれぐれも健康、安全第一で。ありがとうございました。
なお、新年のメッセージは、国内の従業員だけでなく、海外で働くトヨタファミリーに向けても、別途、英語で発信している。そちらの動画も日本語字幕を載せて、あわせて紹介する。