クルマづくりの熱意を胸に集まったエンジニアたち1.2万人が一堂に会する「技術者の一日」。79年前から受け継がれるクルマづくりの精神、技術を通して人と人がつながるこの交流会について取材した。
この場を通してつながる人と技術
「技術者の一日」を通して、つながる人と人、技術と技術。いくつかの展示で実際にどのようなつながりが生まれたかを聞いてみた。
「MY MOTION Lab」という技術は、アスリートの動きをモーションキャプチャーと床反力計で計測するという。トヨタスポーツ推進部の藤本雅大グループ長(GM)はつながりについて、こう話す。
藤本GM
来年、トヨタスポーツセンターに新しい体育館が完成するのですが、単に体育館をつくるだけではなく、テクノロジーを入れて、アスリートを強化していくという試みをやろうとしています。
今回はその技術の一部を展示しています。今は、野球、ソフト、陸上短距離、バレーボールの動作解析ができるように開発を進めていますが、ラグビーやバスケ、サッカーとかも解析できるようにしていきたいと考えています。
トヨタアスリートのデータをためていくので、アスリートのパフォーマンスを上げてもらうというのはもちろんなのですが、たまったデータでAIバスケットボールロボットCUEがドリブルをするとか、選手をかわす時に、人の動きのデータを使わせて欲しいといったコラボレーションが実際に生まれています。
また、アスリートは引退すると事務系の部署に就くことが多いのですが、この動作解析の世界に来てもらい、(ここから)ステップアップとして、車両技術開発のセカンドキャリアを歩んでもらう。(アスリートではない)クルマの計測をやっているメンバーでも、人間の動きをよく知りたいからと動作解析の世界に来てもらい、その知見を活かしてクルマ開発をする。
私たちはこれを「キャリアのマルチパスウェイ」と呼んでいるのですが、スポーツ計測を通して実現してもらうというCampas構想を立ち上げて、技術員、技能系、事務系を問わず来てくださいと、この会場で伝えています。実際に異動してやってみたいという声も、もらっています。
また、この技術の出口の芽となりそうなつながりも生まれたという。同部の並木元治主幹は、このように説明する。
並木主幹
隣のブースのマリン事業部ともjust ideaですが、その"場"でレクサスのお客様向けに何かしら連携できないか?と会話させていただきました。
我々のサービスをLY680の乗船とパッケージにして、スポーツセンターの体育館に寄ってもらい、お客様やご家族、お子様の動作解析を体験していただく。
トヨタでしかできない体験価値の提供を実現に向けて話をしていきたいと思います。
マリン事業部のブースを訪れると展示パネルに社内連携で広がるマリン活用「あなたの技術の次の出口一緒に考えませんか?!」と積極的に訴えていた。
この場でスタートした全社横断「エネマネつながる会」
会場内では座談会も行われている。そのひとつが全社横断テーマ企画「エネマネつながる会」である。
限られたエネルギーを効率的に利用するエネルギーマネジメント(エネマネ)は、どんな業務でも欠かせない考え方だ。この日、「エネマネつながる会」のキックオフが行われ、11領域30部署84名が集まった。
テーマのきっかけとなったのはト技会 東富士支部のメンバーが東富士研究所内で行った研究所横断テーマ企画第一弾「エネマネ交流会」だった。
そのなかで発掘されたエネマネ担当者は東富士研究所内だけでも、7領域11部署35名。この領域を越えたエネマネ担当者がつながることで、知見を共有し、さまざまな効果があったという。これを全社に広げることでさらなるシナジーを高めるという試みだ。
ト技会 東富士支部の平田義治主任と井上昌宏主任にキックオフの後に話を聞いた。
平田主任
将来のつながる研究所実現に向けて、横断テーマ企画を発足し、第一弾テーマとして「エネマネ」をピックアップしました。
エネマネはみんなに関係する分野であり、エネルギーは目に見えないです。何が最適かは、いろいろな目的関数によって変わるので、そこの難しさとか、どうやったら解決できるかなど情報共有をしています。
井上主任
東富士で、行った時も別々に進んでいた技術テーマがつながり、今後の共同検討や知見共有の可能性が生まれました。
同じことやっているんだったら一緒にやろうとか、逆にこの情報もらえれば余計なことにコストが掛からなくなる、そういう連携が大きな強みとなりました。
平田主任
いろいろな領域から今日80人ぐらい来ていただいたので議論も広がりました。さすがに1日だけでつながるというのは難しいですが、ここから発展させていくきっかけとしては、非常に有益だったと思います。
グループの垣根を越えた連携
トヨタだけではなく、グループ会社、海外事業体、協力会社なども参加するこの場では、もちろん会社の垣根を越えたつながりも生まれていた。
ダイハツ工業TAR生技部の中村鷹彦グループリーダーは、今回生まれた交流についてこのように説明してくれた。
ダイハツ 中村グループリーダー
このエリアは樹脂成形技術の展示が集まっているのですが、今回ダイハツからは樹脂材による白色の無塗装化、塗装レスの技術を展示させてもらっています。
同様の取組みとしてトヨタでは樹脂材によるピアノブラック色の塗装レス化を進めており、お互い塗装レス化を進める上で、それぞれの課題があります。
ダイハツは多色対応の成形機を開発している為、材料の色替えの課題はありません。
一方、トヨタにはダイハツのような多色対応の成形機は無いけれど、材料・金型技術でダイハツより一歩進んでいます。そういったお互いの良いところを共有・技術交流していこうとつながる良い機会になりました。
技術的なつながりはもちろんですが、同じ樹脂成形の説明員同士も仲良くなり、人と人もつながりが広がったと感じています。
情報があふれる時代だからこそ、自ら動いてほしい
ト技会のメンバーに対して「なぜ、こういうつながることが相談できないんだろう」と問いかけていた中嶋副社長。この"場"をつくる意味について次のように話した。
中嶋副社長
豊田会長が今年の年初に書き初めで"場"という言葉を書かれていました。
僕たちも若い頃から技術に勤しんでやってきたけど、いまこの立場になって「自分たちがやるべきことは何か」と考えると、やっぱり若い技術屋がイキイキと仕事ができる、開発ができる"場"をつくることだなと思います。
ただ、今は情報がものすごくあふれていて、自ら行動して情報を取りに行かなくても十分に入ってきます。その環境を自ら打破して、「新しいことやりたい、自分の仲間はどこにいるんだ」と見つけてもらいたいです。
同じ作業着を着ている連中は全員仲間じゃないですか。だけど部署が違う、カンパニーが違うと、なかなかコミュニケーションが図れない。「そういうのが課題です」という人がいっぱいいるんですね。
「自ら動かんかい!」と思うわけですよ。自ら動いて見えてくる景色は、人から教わるものと全く違うはずです。
だから、「コミュニケーションの問題だ」とよく言われますけど、その"場"はつくります。
だけど、自ら行動するということは忘れずに続けてもらいたいです。トヨタの技術力で日本をしっかりと支えていきたいなと思っています。
「技術者の一日」は来年、いよいよ80周年の節目の年となる。80年目のタスキを受け継ぐト技会のメンバーとそこに集まる仲間たち。来年はどのように変化、進化するのか。今からこの日が楽しみだ。