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一気通貫「もっといいクルマづくり」の現場 トヨタテクニカルセンター下山 特別公開

2026.05.14

デザイン、テストコース、車両整備ガレージなどが一カ所に集う「もっといいクルマづくり」の"現場" トヨタテクニカルセンター下山がレクサスTZのワールドプレミアの後、報道関係者に公開された。

TTC-Sとは?

愛知県豊田市と岡崎市にまたがるTTC-Sは、レクサスとGazoo Racingの開発現場だ。26年5月現在、関係者3000名が、日々汗を流している

TTC-Sの原点には、モリゾウこと豊田章男会長(当時社長)の「ニュルブルクリンクでしかできないことが、なぜ日本でできないのだろう」 という問いがある。

ニュルのように厳しい道を走り、壊れたところを見つめ、直し、また走る。アジャイルに一気通貫でクルマを鍛える場として構想が始まった。

それから約30年。2024年の全面運用開始に際して、豊田会長は「“走って壊して直す”を毎日毎日何度も何度も繰り返す場所」と語っている。

総面積約650haの広大な土地は、カントリー路がある中央エリア、高速評価路や特性評価路がある東エリア、そしてワールドプレミアも行われた来客棟やデザイン、オフィス、ガレージが1つの建屋に入る3号館がある西エリアに分かれる。

テストコースがある以上いたしかたない話ではあるが、名古屋市内からでも、クルマで1時間以上という立地は、お世辞にもアクセスが良いとは言えない。

「そんな場所でワールドプレミアをするのだから、集まってくれた報道陣には、TTC-Sのことも知ってほしい」

そんな想いでワールドプレミアが行われた7日は、テストコース、実際に車をいじるガレージ、デザインをつくる場所を見て回るツアーが開催された。そこでトヨタイムズも報道陣と一緒にツアーに参加してきたので、リポートする。

組まれた施設ツアーは、Lexus International Co.の渡辺剛プレジデントとGAZOO Racing Companyの高橋智也プレジデントの、このような話から始まった。

レクサス渡辺プレジデント

お披露目式の後、会長から言われたのは、「立派な施設はできたけど、まだまだここはクルマづくりの“現場”にはなってないよね」ということでした。この下山を本当の意味で開発の”現場”にするのが我々2人の役割です。

GR高橋プレジデント

「こいつら真剣にやってるんだな」というところを見ていただきたいですね。3号館1階のガレージエリアでは、クルマづくりのリアルを見ていただきたいと思っています。

じつは発表前のクルマも実際に開発している現場となっていますので、ガレージツアーの時だけは撮影NGとさせていただきます。それぐらいあぶないものがいっぱい置いてあります(笑)。

開発中のクルマがゴロゴロするガレージ

紹介された3号館は1階が車両整備ガレージ、2階がオフィスエリア、3階がデザインエリアとなっている。

まず、ガレージエリアに踏み入ると、LEXUSゾーンには切り貼りしたような手づくり感あふれる開発中のクルマがごろごろしていた。

そしてその周りで、エンジニアたちが図面を囲んでディスカッションしている。

またGRゾーンでは、たった今テストコースを走ってきたターボミッドシップ4WDのGRヤリス M コンセプトがリフトされ、エンジニアたちとプロドライバーの佐々木雅弘選手、石浦宏明選手、大嶋和也選手とのかんかんがくがくの意見交換が行われている。まさにモータースポーツの現場と同じスタイルだ。

渡辺プレジデント
3階はデザインのエリアになります。ここを(メディアに)開放するというのは、いまだかつてないことだと思います。

デザインエリアというのは非常に機密性の高い領域ですので、以前は我々従業員もさまざまな申請手続きをしてやっと入れるという場所でした。

しかし、ここ下山では、開発に関わるメンバーはいつでも誰でも行って、そこでデザイナーと一緒にクルマの開発に関するディスカッションができる場所になりました。

AIが何でもやってくれる時代だからこそ人にこだわる

いかにもクルマ屋の現場といったガレージの1階から3階に上がると、天井一面に格子状に連続するグリッド照明が広がり、均質な白い光に包まれた未来的な空間が広がる。

フロアには、クレイモデルが置かれ、左右にはスキャン装置や計測ゲートなど、デジタル機器が配置されている。その隣ではVRを使った車両開発も行われていた。しかし、レクサスデザイン部の須賀厚一部長はクルマづくりの中心にいるのは人だと話す。

須賀部長

レクサスは人を中心に考えるブランドとして、GRはドライバーファーストの「もっといいクルマづくり」をしています。

こうした人を大切にした考え方は、このデザイン開発の現場でも同じで、今でもクルマづくりの中心にいるのは人です。

現在はAIが何でもやってくれると言われるような時代ですが、私たちは人の感性クリエイティビティ、そして職人の技を大切にしながら、デザイナー、フィジカルモデラー、デジタルモデラーなど多様な人材の力を結集してモノづくりを行なっています。

さらにトヨタが大切にしている現地現物での開発にもこだわっています。カーデザインの現地現物とは、実際の大きさでつくるクレーモデルがあります。

現在は進化したコンピューターの仮想空間で正確に形状を確認することも可能ですが、私たちはクルマの大きさや立体感から感じる迫力、光の当たり方や面の美しさなど、実物でしか分からないことがいっぱいあります。

そうしたことを、この本物の形のクレイモデルを使って現地現物のデザイン開発を進めています。

会場に置かれていたLFA Conceptのモック、説明を担当していたデザイナーは「ショーカーのために最初につくったモックで、『御神体モック』と呼んでいます。」と教えてくれた。

スケッチを基にどういうエレメントを残すべきか検証しながらショーカーはつくられ、短期間でつくる必要があったため、クレイを使わず、発泡スチロールが使われているそうだ。

VRを使いながらバーチャルで検証したものを大型の加工機や3Dプリンターを使いながら仕上げたというが、ここから先は、やはり実際に乗り込んで人が“手”で検証するという。

VRゴーグルを付けたデジタルモデラーはバーチャルな世界でクルマを色々な角度から見ているらしく、傍らでモニターを見る者となにやら話しながら奇妙な動きをしている。

クレイモデラーは職人そのもの。やわらかなクレイをこすりつけて肉付けをし、いくつもの道具を持ち替えながら削り落とす。

「この道40年になりますが、まだまだです。今でもいろいろな発見があります」というベテランが左のフェンダーのふくらみを削げば、反対側では若手がデータと手と目を総動員して、正確に左右対称に仕上げていく。無機質で精密な空間の中で、ひとが“手”を動かしているということが際立っていた。

デザイン、設計開発、ガレージが集う3号舘の見学が終わると、TTC-Sの中心的存在、第3周回路へ。

クルマに厳しい第3周回路

全長 5.3kmのニュルブルクリンクを4分の1に凝縮したコースは通称カントリー路とも呼ばれ、高低差は75m、アンジュレーション(路面の起伏)も非常に多く、ブラインドコーナーや、トラクション(タイヤの駆動力)がゼロになるような場所もあり、「緑の地獄」と言われるニュルに近い厳しい環境でクルマのテストが行える。

GR高橋プレジデント
やっぱりGRの活動の原点はドイツのニュルブルクリンクにあると思っています。その要素を集約したコースをどうしてもここに作りたいというのがマスタードライバー(こと豊田章男会長)の想いでした。

本当にここは危険も伴い、非常にクルマに厳しい環境です。そこを走れば走るほどクルマは壊れます。壊れたものをガレージに持ってきて、データを見て直す。これが短期間でやれるようになりました。

レクサス渡辺プレジデント
LEXUSの開発者もこの環境での開発をスタートさせて、今はそれをまたドイツのニュルブルクリンクにクルマを持って行って、全ての開発車の評価、味付けを繰り返しています。

ニュルといえばGRという印象をお持ちかもしれませんが、GRに限らずレクサスも、我々2人で競い合って一緒にやっています。

第3周回路とダートコースについては、報道関係者にバスから見学してもらうバスツアーが行われた。

このサファリツアー形式のサーキットサファリならぬ「第3周回路サファリ」のツアーガイドを務めたのは、GRヤリスのチーフエンジニア(CE)である齋藤尚彦CEだ。

齋藤CE

2019年から運用開始したここ下山ですが、敷地面積は東京ドーム…いや愛知県民としてはナゴヤドーム約140個分と言わせていただきます。

歴代の猛者たちがちょっと苦労した跡もご覧いただけます。路面の傷、ガードレールの凹みがこのテストコースの厳しさを物語っています。

赤丸がガードレールの凹み

モリゾウさんからもこれらの傷はそのままにしておけと。ここでクルマを鍛えた一つの証として残しておこうと。

「このテストコースで壊して、鍛える。実際にお客様が乗る前に不具合を出し切る」、そういう想いで取り組んでおります。

このすぐそばの第一整備棟は全面運用に先駆けて2019年から、いの一番に運用開始した施設で、凄腕技能養成部が常駐しています。

3号館1階のガレージエリアと同じく、第3周回路でクルマが壊れて不具合が出たら直してもう一度走るという現場として使っています。

第3周回路サファリでは、GR GT3、GRヤリスミッドシップコンセプト、GRヤリスMORIZO RR、GRカローラといった“珍獣”たちが、鵜飼龍太選手、佐々木選手、大島選手、石浦選手によって果敢に駆ける姿も目撃された。

路面に刻まれたモリゾウと豊岡部長のドーナツターンのタイヤ痕

また、バスの中では近社長からのGRヤリス/ GR カローラ評価のフィードバックのメールも披露された。

齋藤CE
じつは近社長にはGRヤリスを買っていただいていますが、もう 1台買いたいから GR ヤリスと GR カローラを両方評価してみたいということで、先週末乗っていただきました。その結果がメールで来ましたのでご紹介します。

「GR カローラについては、街中は重いので DATより MT の方がいいと思ってしまいました。峠ではかなり安定していてGR カローラの方がいい。ただ踏んだ時のキックダウンが遅い。ブレーキもちょっとフィーリングが悪いので、パッドを変えてもう一度乗ってみたい。個人的には GRヤリスの方がシートとステアリングはいいんだけどね。」

近社長、峠も走ったんですね(笑)。

さて、この第一整備棟の前にはドーナツターンのタイヤ痕がありますが、これらをつけたのはモリゾウさんと豊岡(悟志)部長です。

冬は時々雪がうっすら積もるんですけど、そういう時はたいてい豊岡さんがここでドリフトして遊んでいます。

施設内の道路脇には棚のような配管経路が延々と走っている。

これはパワーグリッドをはじめとするライフラインが通っていて、広大な敷地内に点在する建屋をつないでいる。自然保護の観点からあえて地中に埋設せずにこの形を採っているそうだ。

テストコースは、ターマック(舗装路)だけではなくグラベル(未舗装路)もある。

ダートコースは、1周約800m程度のコースが3本複合した設計となっており、ラリーチャレンジのスペシャルステージとしても使用されている。

GR高橋プレジデント
ダートはグリップ限界が非常に低いので、オンロードではわからないクルマの挙動を見ることができます。どうしても欲しいということで、ダートコースだけ後から造成しました。

渡辺プレジデント
このダートコースでモリゾウドライバーが横転しまして、そのクルマは今もこの場所に展示してあります。

LEXUSもモリゾウさんに評価をしてもらうのですが、油断すると想定していないダート走行をされて、クルマが泥だらけになって、なんだったらタイヤをパンクさせて帰ってくるみたいなことが結構あってですね(笑)、こういう環境の中でどんどんどんどん鍛えられています。

齋藤CE
モリゾウさんは本当に壊すのが得意でして、GRヤリスの発売前には蒲郡の1周1kmほどのダートコースを1000ラップされまして、ミッションのケーブルが切れたり、トランスファーの歯が欠けたり…僕は密かにデストロイヤーと呼んでおります。

ダートならではの不具合としては、小石がホイールとブレーキキャリパーの間に挟まったり、ホイールを傷つけたりしてホイールが割れるなんていうこともあります。ここでずっとドリフトを続けることによって、フロントにしっかり風が当たらない状況、冷却性能に厳しい状態を作って評価するということも行っています。

それからここではモリゾウさんとみんなでタイムアタックをします。でも毎回モリゾウさんがガチで勝ちます。

豊岡さんもモリゾウさんに勝てたら真の部長になれるんですけど、今は凄腕技能養成部の部長はモリゾウさんで豊岡さんは部長代理(笑)。

GR高橋プレジデント
そうです。トヨタ自動車の人事は、タイムで決まっている(笑)。

齋藤CE
本当に毎日いろんなところで事件が起きますので、すぐ現場に駆けつけられるというのは私たちエンジニアにとって本当にありがたい環境です。

事件となればみんなよだれ垂らしていきますから(笑)、事件がない日は本当につまらないです。失敗はチャレンジした結果ですから。

AIやデジタル技術が日進月歩で進む世の中でも、ここ下山では人が中心となり、今日もまた「走って、壊して、直す」の「もっといいクルマづくり」が行われている。

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