日本自動車工業会の新体制による2回目の理事ミーティング。日本の国際競争力強化のため共有した「危機感」とは。
自動運転の社会実装に必要なのは
協調領域・競争領域の大胆な組み替えについては、一例として自動運転が挙げられた。
記者から、国際情勢などを踏まえた具体的な問題点と、各社の背景やサプライチェーンが異なる中での共通解の見出し方を問われ、佐藤会長が次のように答えている。
佐藤会長
自動運転が分かりやすい例かと思います。具体的に申し上げると、米国や中国で社会実装が進むスピードと、日本の実社会でのスピード感のギャップは強く認識しています。
ただ、我々が目指すべき自動運転の形は一体なんなのかという議論は、しっかりとしておくべきで、やはり安全・安心であることが大前提にある。
社会実装で考えると、トヨタのアルゴリズムを持った自動運転車両と、ホンダのアルゴリズム、日産のアルゴリズムを持った車両が混走し、それらが安全・安心でいられるかが大事になります。
(アルゴリズム)は合わせていく必要はない。そこは競争領域だと思っています。一方で、(社会実装の)スピードを上げるためには、我々が全員で基盤づくりをしなくてはなりません。
真に戦うべき領域で、戦うための環境づくりを自工会でやらないといけない。「民」だけではできないので、「官」も入って官民でスキームをつくり、大きなプロジェクトとしてスピードを上げる。
実際には2輪や軽トラックも走るのがリアルな社会です。今、そのような社会実装の実験場はありません。
でも、それをやらない限り、自動運転のアルゴリズムの進化もない。そのような覚悟を持って、みんなでやろうという話をしました。
三部敏宏 副会長(ホンダ)と設楽元文 副会長(ヤマハ)が付け加えた。
三部副会長
日本には全部で14社の自動車メーカー(OEM)があります。本来なら日本がリードして世界を引っ張らなきゃいけない立場にありますが、実装が遅れている。
自工会でも十分議論した上で加速させ、2030年断面には新しい交通システムで世界をリードしたい。そんなことを思い描きながら、強力に進めようと思っています。
設楽副会長
例えば、少子高齢化の地域に(自動運転を)入れようとすると、当然エコシステムでまかなえない部分が出てきます。
都市部だけではなく、国内の過疎地域に対する自動運転はどうあるべきか。これは、まさしく社会的な課題に対する解決にもなる。
それを個社でやっていくと、システムのコストも解決できない。なので、取り組まなくていいかというと、そういう問題ではなくなっている。その解決策を、我々自工会が求めて発信していく。どのようなメッセージを出すかも、まさに協調でやるべき領域と思います。
物流の協調をどう実現するか
説明会では「新7つの課題」の一つ、⑦「サプライチェーン全体での競争力向上について」に絡め、物流についての質問もあった。
現状、工場でつくられた完成車は、各OEMが持つ物流会社が全国の販売店に運んでいる。メーカーごとに独立した管理方法、輸送網を張り巡らしているのが実態だ。
販売店へクルマを運ぶまでの積載効率は良いが、帰りは積み荷がないというムダが各社で発生しているという。
この解決策になり得るのが「共同物流」だ。複数のメーカーで一台のトラックを共有することで、往復での積載効率を高めることができる。
これを実現するうえでの最重要課題が「データの連携」だ。
各社の工場や販売店の位置、トラックの配送ルート、どこに何台のトラックが走っているのか。共同物流にはそれらの情報共有が必須だが、物流の管理形式やシステムが会社ごとに異なり“ブラックボックス”になっている。
佐藤会長は「全社で揃わなくては始められないということではなく、揃ったところから始める」として、完成車ではなく部品を運ぶ物流においては「ホンダとトヨタで少し(データ連携の)トライアルが始まっています」とも語った。
自動車産業の働き方を変えるには
また、今回のミーティングでは「生産効率性を軸に置いた製造カレンダーに対し、我々も本気で向き合うべきなのではないか」という議論もあったという。
「製造カレンダー」とは、その名の通り製造業で通例とされている勤務形態を指す。一般的な祝日も稼働し、その分の休日をゴールデンウィークや年末年始といった長期連休の前後にくっつけて大型連休にするという働き方。
大型連休の間に工場を停止させ、大規模な設備の導入やラインの改修を行う。
こうした働き方は、家族との予定も合わせにくく、サプライチェーンにも影響が大きいため、価値観や生活スタイルが多様化している昨今では、製造業離れの一因にもなっている。
記者からは、この変則的なカレンダーが自動車産業の人材確保を難しくしているのではという指摘と共に、祝日通りの休みを増やしていく可能性を問われた。
佐藤会長
日本のモノづくりの原点は、やはり人の力だと思います。やりがいを持って、創意工夫をしながら、モノづくりに従事する。
このエネルギーを保っていこうとしたとき、生産性だけに軸が置かれた労働カレンダーではなく、人生、人それぞれの生き方・働き方が多様になっている社会で両立できる環境づくりを、産業としてしなければいけない。
今日の(理事会での)議論は、私が期待していたよりも各理事からの反応、コミットメントが強いものでした。
休日数を増やすことは、生産性をどれだけ上げられるかとセットだと思います。ただ休日が増えていって、生産性が落ちて、産業競争力が低下していけば、最終的には雇用を守っていけなくなる。
雇用をしっかり守っていくためには、まずもって生産性を上げていく。それがセットで休日の議論につながっていくのだろうと思います。
ただ、カレンダーをもう少し柔軟に考える。祝日は祝日にしよう、ということはやっていけるはず。
残念ながら、今の我々の仕組み上は、(工場の)切り替え工事の予定を長期連休中に組んでしまっている。
「2026年中に祝日を1つ、みんなで合わせて(長期連休から)動かしてみよう」としてみても、目の前に立ちはだかるのは、切り替え工事が(製造カレンダー上の連休に)はまらなくなるという現実です。
今日の理事会では、「やろう、祝日を動かす検討を始めよう」というコンセンサスは育ってきた。その課題をどう克服しようというのが、次のステップです。
10年後の未来へ、今できることを
「やれることをやる協調では10年後の未来はない」
「今日ここで終わるということでなく、(危機感を)共有できたという結論にするのではなく、こうした危機感を前提とした議論を進めていきたい」
理事ミーティングでこう語った佐藤会長。変革のスピードを上げていく必要性を改めて強調した。
佐藤会長は2月6日、トヨタの経営フォーメーション変更のため、同社の社長から副会長・Chief Industry Officerに変わることを発表した。その会見では「自動車工業会や経団連をはじめ産業に軸足を置いた活動にますます注力してまいりたいと思っております」と語っている。
自動車産業の国際競争力強化へ、業界一丸となった変革の加速。そんな覚悟が垣間見えた。
2月18日時点での「新7つの課題」の進捗は以下の通り。2026年前半には右側の「大玉プロジェクト」をまとめ、提案する意向だ。