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2023.09.13

豊田会長「シェア下がっても気にしない」 半分がトヨタ車の国で語ったわけ

2023.09.13

フィリピントヨタ35周年式典。「変に聞こえるかも...」と断り、豊田章男会長が語った。新車販売で5割を占める国で、そう口にした真意は?

2つの新型IMVを現地生産

豊田会長 あいさつ

ここフィリピンで成長し、繁栄できたことは光栄でした。しかし、正直なところ、私にとっては、ここで何台クルマを売ったとか、販売台数でナンバーワンになったとか、そういうことが重要ではないのです。

私の最大の願いは、ここフィリピンのお客様の心の中でナンバーワンになることです。なぜなら、私たちは単にクルマを見ているのではなく、この国に貢献したいからです。経済的な機会を促進する手助けをしたいのです。

アジア太平洋地域をサポートしたいというこの想いが、私がASEAN地域を担当していた2004年に導入する栄誉を得たIMVのようなプロジェクトの動機となっていることは間違いありません。

IMVのローンチは、私のキャリアの中でも最も素晴らしい思い出のひとつとなっています。そこで私は、エンジニアリング・チームとデザイン・チームにIMVの当初の意図に立ち返り、真に手頃な価格で、真に革新的なものを創造してほしいと課題を与えました。

社内ではIMV 0コンセプトと呼んでいます。正式発表はまだ1年先ですが、本日、皆さんと共有させていただきたいと思います。チーフエンジニア兼設計責任者のコメントを見てみましょう。

事業者の多様なニーズに応えるIMV0コンセプトへのこだわりが語られた動画を挟んで、再び、壇上に上がった豊田会長は最新のコンセプトモデルを披露。さらに、新たなコミットメントを発表した。

豊田会長 あいさつ

今日、私たちはフィリピンのお客様のために、この新しいIMV 0コンセプトに命を吹き込みます。皆さま、次世代型タマラオのコンセプトカーである「ペースカー・ピックアップ」「モダンPUV・ジープニー」をご紹介します!

ペースカー・ピックアップ
モダンPUV・ジープニー

IMVチームに感謝します。どうぞ立って、皆さまにごあいさつを。

このクルマは、多くの人々の生活の質を高め、新たな経済的機会を提供できる製品だと心から信じています。なぜなら、トヨタでは人が第一だと考えているからです。

私たちは、お客様のニーズに応えるクルマづくりを信条としています。そのため、私たちのIMV 0チームは、潜在的なオーナーのライフスタイルやニーズを観察するために、何カ月も現場で過ごしました。

そして、2024年には、次世代型タマラオなどのIMV車が、ここフィリピンのサンタローサ工場で初めてCBUとして生産されることを大変うれしく思います!

これは、トヨタによる44億フィリピン・ペソの追加投資に相当します。私のフィリピンへのコミットはアメリカ人がよく言うように「Put my money where my mouth is」。すなわち口だけでなく実際の行動で示したいと思います。

IMV0 の現地生産が見据えるのは、単なる新車製造ビジネスではない。

中小零細企業の経済活動を支えるために、移動の価値に加え、さまざまな架装オプションやモビリティソリューションも提供する。目指すのは、フィリピンのすべての人たちから愛され、応援される「次世代の国民車」だ。

ユーザーの多様なニーズに合わせて、荷台を自由にカスタマイズできるようにすることで、 架装事業が広がり、部品や用品のサプライチェーンが生まれる。

さらに、さまざまなビジネス、生活シーンに寄り添い、まったく新たな使われ方が生まれることで、今までにないモビリティサービスの創出につながる。

フィリピンで新たなビジネスのきっかけをつくり、産業と雇用に貢献する新たな挑戦でもあるのだ。

新しい技術は「誰かのために」

豊田会長 あいさつ

実際、私にとってフィリピンは米国を思い起こさせます。たぶん、皆さんが私よりも英語を上手に話すからかもしれませんが、同じ楽観主義と生きる力を持っているからかもしれません。

そして、私たちがこの業界の次のフロンティアへと進むとき、成功するのは創造的で、楽観的であり続ける人たちだと思います。

私は、ビジネスとテクノロジーの両方の観点から、フィリピンには大きな成長の可能性があると信じています。実際、フィリピンがアジアのシリコンバレーになる可能性は十分にあると思います。

しかし、コネクテッドカー、人工知能、自律走行、電動化、空飛ぶクルマなどの世界を創造するとき、その中心にある人間性を常に忘れてはいけません。母親、娘、父親、祖母…、私たちが誰のためにこれらの新しいテクノロジーを生み出しているのかを。

なぜなら、人々の生活をより良く、より幸せにすることこそが、たった一つの大切なことだからです。そして、私にとって、重要なのはそれだけなのです。

このことを私に教えてくれたのは、ご存じかもしれませんが、最近亡くなった私の父、豊田章一郎ではないかと思います。彼はトヨタ・モーター・フィリピンの素晴らしい支援者であり、アルフレッドの父、ジョージ・ティ博士の親友でもありました。

アルフレッドと私は、父親の会長職を引き継ぐことになりましたが、2人を代表して言わせていただくと、私たちは2人ともその役割を刷新し、これまで以上のエネルギーと献身をもって、トヨタを積極的に引っ張っていくつもりです。

つまり、好むと好まざるとにかかわらず、私たちはどちらも、どこにも行きません。

これまで我々を支えてくださったフィリピンのお客様、そして、サプライヤーやパートナーの皆さまに感謝申し上げます。これからのトヨタ・フィリピンの未来は非常に明るく、さらに輝きを増していくことでしょう。

皆さん、私たちは同じ川や山を共有していないかもしれませんが、同じ太陽と空、そして同じ願い、調和と幸福への願いを共有しています。

ですから、今日この特別な日を楽しむにあたり、最も重要なこと、私たちの友情とパートナーシップを祝福いたしましょう。私たちが協力すれば、不可能なことはありません。ありがとうございました。

事業をする国や地域の発展に、トヨタがどう貢献できるかを考え、種をまき、持続的に成長する。それが、アジア本部長時代から20年にわたって豊田章男が体現してきた“町いちばん”の信念だ。

「トヨタのシェアが下がっても気にしない」という大胆な発言。それは、「短期的な利益を求めていないか」「事業を行う国や地域に本気で貢献したいと考えているか」という創業の原点を、今一度、トヨタのすべての関係者に思い起こさせるための投げかけだったと言えるかもしれない。

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