「日本の底力を世界に示す」重要な局面へ 自工会会見

2022.11.18

日本がもつ多様な選択肢でカーボンニュートラルへ。官民がひとつになり、世界を巻き込んだ仲間づくりが始まる。

11月17日、オンラインで日本自動車工業会(自工会)の記者会見が行われた。

来年5月、G7広島サミット(主要国首脳会議)が開催される。日本ならではのカーボンニュートラルの道筋を、世界のリーダーたちに理解いただくため、今やらなければならないこととは。

登壇者は、豊田章男会長のほか、片山正則副会長(いすゞ)、日髙祥博副会長(ヤマハ)、永塚誠一副会長(自工会)。

業界の枠を超え、200社以上が新たな仲間に

豊田会長

今年も、最大のテーマは、やはりカーボンニュートラルだったと思います。

振り返りますと、2年前、政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて私たちは、「まずは正しく理解しよう」「敵は炭素であり、内燃機関ではない」「CO2は、エネルギーを『つくる』『運ぶ』『使う』の全員で減らすもの」と、必死に訴えてまいりました。

日本には、軽自動車から二輪・大型まで、また、ハイブリッド車から電気自動車、水素まで、多様な選択肢が揃っております。だからこそ、この強みを活かした、日本らしい山の登り方があると申し上げてまいりました。

それを“レース”や“社会実装の現場”で、行動で示し続けてきたことで、少しずつ私たちに共感してくださる方が増えてまいりました。

そんな中で、6月、岸田総理を自動車産業の現場にお迎えいたしました。トヨタの元町工場では、電動車フルラインナップ化に向けて、競争力のある混流生産に取り組む現場をご覧いただきました。

「多様な選択肢」を追求することは、簡単ではありません。泥臭い努力を続けてきた「強い現場」がそれを可能にしているということを、総理にはリアルにお感じいただけたと思っております。

そして9月、経団連モビリティ委員会が立ち上がりました。

カーボンニュートラルも、モビリティ産業への変革も、業界を越えた連携が必要になってまいります。モビリティ委員会では、200社以上が「一緒にやろう」と言ってくださいました。

十倉会長のリーダーシップのもと仲間の輪が広がり、さらに、官邸や、自民党の自動車議連との対話の場も持てるようになってまいりました。

官邸とのモビリティ懇談会では、私からは「日本の未来のために、自動車産業に働かせてほしい」という想いをお伝えいたしました。

「人財」こそが、日本の競争力の源泉

豊田会長

この50年を振り返りますと、70年代のオイルショック、80年代の貿易摩擦や円高、90年代のバブル崩壊など、危機の時こそ自動車産業は必死に働き、「危機」を「チャンス」に変えてまいりました。

その中で、世界に先駆けて低燃費技術や電動車の開発に取り組んでまいりました。その結果、日本の自動車は、過去20年でCO223%も削減しております。これは国際的に見ても極めて高いレベルになります。

1980年と足元の状況を比較しますと、売り上げは20兆円から60兆円、納税額と外貨獲得は、ともに8兆円から15兆円へ大幅に上昇しております。そして何よりも550万人の雇用を守り続けてまいりました。

さらに鉄道や航空などを含めたモビリティ関連産業で見れば、現在850万人、将来的には1000万人へと拡大する可能性がございます。

「働かせてほしい」。その想いの根底にあるのは、自動車産業が守り抜いてきた「現場」とそこで働く「人財」への信頼です。

そして「技能」と「技術」を身につけた「人財」こそが、日本の競争力の源泉であり、未来をつくる原動力になるという信念です。

「今の延長線上に未来はない」と切り捨てるのではなく、「過去・現在」の努力を、なんとしても「未来」につなげていかなければならない。それが、今を生きる私たち経営者の責任だと思っております。

G7広島サミットへ「ここからが勝負」

豊田会長

岸田総理からは、「自動車産業は経済・雇用の大黒柱」であり、「モビリティは、新しい資本主義の中軸」だというありがたいお言葉をいただきました。

この2年間、自動車産業550万人の仲間と一緒に動き続ける中で、仲間づくりの輪が経団連、官邸まで広がってまいりました。

「ここからが勝負だ」と思っております。

年が明ければ、春の労使協議が始まってまいりますが、自動車産業には「経済・社会の好循環」に貢献するという重要な役割もございます。

そして、(来年)5月のG7広島サミットは、日本らしいカーボンニュートラルの道筋を、世界のリーダーにご理解いただく貴重な場になってまいります。私たちといたしましては、モビリティ委員会を通じて「社会実装」の場をつくり、「選択肢を広げる」活動を加速してまいります。

秋には、4年ぶりのモーターショーもございます。先ほどの理事会で、「JAPAN モビリティショー」という正式名称を決定いたしました。スタートアップも含めた「オールインダストリー」で、「モビリティの未来」と「オールジャパンの力」を示してまいりたいと思います。

来年は、多くの仲間と一緒に、そして官民で心ひとつになって「日本らしい山の登り方」、「日本の底力」を世界に示す年だと思っております。自動車産業はペースメーカーとして必死に働いてまいりますので、今後ともご支援いただけますと幸いです。

自動車産業を軸に、働く機会を確保し、外貨を稼ぐ

この後、永塚副会長から、理事会で決定した来年度の活動方針が語られた。4つの重点テーマがあり、「競争力強化・税制」「GX(カーボンニュートラル)」「DXMaaS」「ファンづくり」というものである。

記者からの質疑応答では、先日の政府と経団連のモビリティに関する懇談会の受け止めについて投げかけられ、豊田会長が回答した。

豊田会長

懇談会で申し上げたのは、日本はこの30年間まったく成長していないということ。日本の成長を支えてきた中間層が衰退していることが、このグラフからもご覧いただけると思います。

日本の本来の姿は、一生懸命働き、輸出して外貨を稼ぐことだと思います。(そのために)なんとか中間層に「働く場を確保していただきたい」ということを懇談会で話しました。

自動車産業の経済波及効果は、他の産業よりも高い2.5倍。そして働く人は550万人ですが、鉄道、航空、エネルギー、情報通信、旅行、金融・決済サービスまで含めたモビリティ関連産業でみますと850万人ぐらいになります。

ここを軸にさらに競争力を磨き、GX(グリーン・トランスフォーメーション)・DX(デジタル・トランスフォーメーション)投資によって社会課題を解決し、新しい価値を創造していくと1000万人に(まで将来的に拡大する可能性あり)。

ただ、現在、いろいろな変化が大変なマグニチュードで起こっています。こうした中で「自動車産業を軸に成長発展していきましょう」と言葉では言えますが、現実は厳しいものだと思います。

ただ、こうした自動車産業の危機感が、岸田首相の「聞く力」によって取り上げられ、スタートポイントに立てたと思います。改めて、経団連、官邸、関係省庁、自動車業界の皆様に感謝を申し上げます。

後は、いかにして日本の働く現場の人に「ありがたい」と思われる施策にしていくかということだと思います。ぜひとも皆様からも応援いただきたいと思っております。

続いて、同じく懇談会に参加した日髙副会長が話す。

日髙副会長

競争力の根幹は、現場を支えている人たちだと思います。日本には、そういった強い現場がまだ残っています。その現場が機能し続けるかぎり、必ず日本の競争力は復活できると信じています。

官民一体となって、ヨーロッパの主張に対抗していける枠組みができたことが、まずは素晴らしいことだと思いますし、二輪車産業も積極的に貢献してまいりたいと思います。

RECOMMEND