プロのラリードライバーが、地元の高齢ドライバーらに安全な運転のコツをレクチャー。その取り組みに込めた想いを取材した。
広がる仲間づくり
2022年にはTOYOTA GAZOO Racing(TGR)との連携事業として、ラリーチャレンジに合わせて実施。開催地は全国9地域へと広がった。ちなみに当時TGRのプレジデントだったのが、佐藤恒治社長。
その佐藤社長は2023年8月、長野県で開催したタテシナ会議でこのように語っている。
ラリードライバーは、その⼟地にある環境を理解し、そこを⼀番速く⼀番安全に運転して帰ってくる⼈が勝つ競技です。
ですから、地⽅で⾃治体と連携して取り組まれるラリーは、裏側から⾒ますと、交通安全に向けて⼤変⼤きな気付きを与えてくれる場かもしれません。
現実に、警察や地域の皆さんとの連携や、その地域に求められている交通安全の形を具体的に⽰してくれます。
ここに、個別に向き合っていこうと、⾃動⾞メーカーのみならず、保険会社の持っておられるいろいろなデータを共有することが、さまざまな⼈間に多⾯的にアプローチして交通安全を⽬指す⼀つの形になっているのかなと思ったりします。
2023年には、トヨタ・モビリティ基金(TMF)も活動のサポートに入り、ラリーチャレンジ以外の地域でも開催されている。
また内容面についても、現在では活動に賛同した三井住友海上火災保険が、各地域の事故多発地点を示す「事故多発マップ」を活用した安全運転アドバイスや、視野機能・認知機能のチェック、運転シミュレータレッスンを実施。
ブリヂストンは、空気圧や溝といったタイヤの点検ポイントの解説を行っている。
ラリーコースに緊張…
昨年に続いて2回目となる豊田市開催では、75人がそれぞれの愛車で参加。
赤と青の風船をブレーキペダル、アクセルペダルに見立て、信号機の映像に合わせて踏み換えるストレッチレッスンから始まった。続くドライビングレッスンでは、奴田原選手と地元警察が、運転時の適切なシートポジションを解説。
運転前の準備も整ったところで、参加者たちはクルマに乗り込み、豊田スタジアムの特設コースを時速20キロで走行。狙った位置で止まる「ブレーキチャレンジ」や、路肩寄せ、目視による後方確認などに挑戦。
普段は決して走ることのない競技用のコースだけあってか、参加者はちょっと緊張した面持ちだ。
講師のプロドライバーは、特設コース内の各地点でアドバイス。
車内から道路標識に見立てた動物看板を確認するポイントでは、曽根選手が指摘するまで気づかない人も。硬さを解きほぐすように笑顔で声をかけていた。
曽根選手
「緊張しているな」ということが表情で分かるので、まずはリラックスしてもらうようにしました。「左右確認しましょうね」とお伝えするんですが、慌てているのか、(コース内に設置した看板が)見えているはずなのに見えていないことがあったので、「もう一度やってみましょう」と落ち着いてもらうように声をかけました。
路肩寄せと、後方確認のポイントに立ったのは、炭山選手。乗り慣れている“愛車”だからこその落とし穴に注意を促す。
炭山選手
後方確認の際にルームミラーや、ちょっと振り返るぐらいで済ませてしまうんですけれど、死角が必ずあります。「ここまで振り向かないと見えないのか」と気付いた方も、けっこういらっしゃいました。
一般道でもあることだと思いますので、再認識してもらえたのは良かったと思います。
当たり前のことが当たり前じゃなくなっていた、ということを再認識できる場になったんではないでしょうか。
山本選手は、約3センチの段差を越えて、前方1メートルの範囲内にクルマを止める「ステップチャレンジ」を担当。素早く正確なペダル操作が求められる。
山本選手
こういった運転(素早いアクセルとブレーキの切り替え)は、普段はないかもしれません。だからこそ経験してもらって、できるのかできないのか、気付いてもらうということは、とても大事だと思います。