4年ぶりの開催となったタテシナ会議。事故撲滅はいつの時代も共通の願い。過去に学び、未来へつなげるため、企業の枠を超えて議論が交わされた。
愛なくしてAIなし
最後の登壇者は、TRI(Toyota Research Institute)のギル・プラットCEO。
講演では、未来の安全技術として期待されているAIの活用法について語った。
「(生成AIは)火から始まるこれまでのすべてのテクノロジーと同じで、ポジティブな結果とネガティブな結果の両方の可能性を持っています」と語ったプラットCEO。
ネガティブな方面に使われた一例として戦争などをあげた一方、ポジティブな方面に技術を活用することで、企業はお客様へより多くの愛を込めた製品づくりに集中できるという。
「お客様は、企業が自分たちを愛しているときと、そうでないときを見分けることができます。企業がお客様を愛していることを示す製品をつくれば、お客様はその製品とそれをつくった企業を愛し、お返しをしてくださいます」。
このように語ったプラットCEO。機能的に同等で、より安価な代替品が存在するにもかかわらず、Apple製品を購入する理由はここにあるとした。
そして近い将来訪れるAI時代では、幼少期から他者を思いやり、共感性を育んでいる日本人には、愛を込めた製品づくりにおいて優位性があるとして、次のように講演を締めくくった。
日本文化のこの特性こそが、最も重要な競争力の源となるでしょう。
人が関わらないことなしに自働化がないという教えがあるように、「愛なくしてAIなし」だと信じます。
そして、この原則に従うことで、第二の奇跡的な経済成長は必ず来ると私は信じています。
講演後、デンソー・林新之助社長は、技術の進歩と共感や思いやりを重視する日本的な共同体の維持について感じていたジレンマを吐露。プラットCEOの洞察に深い共感を示した。
正直言いますと、技術の進歩とか進化が、もしかすると日本人の家族観だとか地域性を破壊していくのではないかと、自分で解を求められずジレンマをしばらく感じていました。
愛だとか、自分の心の中に解がある。それを見つめていく。例えば一つの宗教心だったり、大事にしたいもの、そういったものを私たち自身が、しっかりと一人ひとり胸に秘めて技術開発に当たる、あるいは経営に当たる、そこに解があるのだなということに気付きました。
プラットCEOは「自らを見て自らを内省する。自分の力をそこで見出すというのは難しいことです。私どもがここにいますのは、日本の社会の特徴を、皆様方にお伝えする、私どもが映し出してお目に懸けることが重要だと思います」と返した。
自動車メーカートップも思い新たに
ここから議論は、会議全体を通じた質疑となり、豊田会長が次々にマイクを向けていった。
アイシン・吉田守孝社長は、トヨタの技術者だったころの豊田章一郎名誉会長とのエピソードを披露。
(豊田章一郎名誉会長から)「日本は(事故が)減っているけれど、豊田市は減っていないではないか。君は事故現場に行ったのか?」。
それがすごく衝撃的でした。確かに実際起きている事故の現場に行っていなかったのですね。
その後、半分悔しくて、半分納得して、実際起きている事故の現場に行きました。そうすると「こんな所で起きてしまっているのか」、インフラにしても、「それほどお金をかけなくても、まだまだやれることがあるな」と、ものすごく勉強になりました。
吉田社長の言葉にプラットCEOが応える。
事故というのは運転の仕方、環境によって引き起こされたもので、日本あるいは世界の他の地域とはずいぶん違います。
ですから私もこういった開発努力を続ける中で、何らかの形でクルマの安全システムの反応の仕方を場所場所に合わせてカスタム化していくことが必要です。
いずれにしても最終的には、ドライバーに合わせたカスタム化も考えるべきでしょう。
スズキ・鈴木俊宏社長は、三位一体の取り組みの中で、人に対する安全訴求について強調。
三位一体という話がありました。クルマはAIデータなど、いろいろ使いながら性能が向上しているのですが、最後はやはり人ではないかなと。
やはりクルマがいくら良くなっても、インフラが良くなっても、最後にクルマを操るのは人。人が思いやりを持ってクルマを運転することができないと、事故はゼロにならないなと改めて感じました。
どのようにして人の思いやりを思い出させるか、クルマに対して愛を持つということも必要ですし、人に対しての愛をいかに持ってもらうか。ハンドルを握るにあたって、そういったことを訴求していく必要があると改めて思いました。
プラットCEOの講演にあった、お客様に対する愛については、初参加のSUBARU・大崎篤社長も「ハッとさせられました」とコメント。
続けて岡崎氏が示した高齢者の死亡事故に対して「医学的な見地から反応が鈍かったり、怪我がなかなか回復しなかったり、そういうことまで本当に深く深く考えて技術開発しないといけないのではないか」と思いを新たにしていた。
マツダ・毛籠勝弘社長も、今回初めて会議に臨んだ。「改めて安全に対して考えるきっかけになりました」と感想を語ったうえで、虫上氏のプレゼンにもあったお客様のクルマから得られるデータは、「お客様のVOC(Voice Of Customer、お客様の声、生の意見)だと思って向き合わないといけないのではないか」と述べた。