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【ランドクルーザー75周年】世界中のお客様の相棒を目指して

2026.10.23

豊田章男会長がランドクルーザーの開発に際して求めた「原点回帰」。それは、ランクルの存在意義をもう一度問い直すこと。その問いに現場はどう向き合ったのか。

2023年に行われたランドクルーザー250のワールドプレミア。そこからさかのぼること2年、開発陣は豊田章男会長から1つの任務を受け取っていた。

「原点回帰」

これは、結果的にランドクルーザー(ランクル)を群として見直すこととなり、ランクルの転換点となった。

現行の“300”、“250”、“70”、“FJ”の役割については、前編「【ランドクルーザー75周年】伝統と継承が育てた“信頼”」で紹介した。

後編では、開発陣のインタビューをお届けする。豊田会長の任務にどう応え、ランクルらしさをどう後世に継承しようとしているのか。

原点回帰―トヨタのクルマづくりとは

「原点回帰」という命題について、前編でも触れたように、サイモン・ハンフリーズChief Branding Officer(CBO)は「開発陣にリセットボタンを押すチャンスを与えていたのです」と語っている。

なぜ「リセット」だったのか? “250”の開発が始まった2021年、豊田会長(当時社長)がランクルについて言及した場面がある。

豊田社長(当時)
公聴会前のトヨタはその順番が逆だったんじゃないでしょうか。一に収益、二に量。量を伸ばせば収益が上がる。トヨタは、たくさん売れるクルマ、たくさん儲かるクルマからつくっていくという優先順位になっていたのではないかと思います。

そして、たくさん売れる、たくさん儲かるとは言えない世の中に必要とされているクルマ、例えば、商用車、コースター、命を運ぶランドクルーザーなどは、モデルチェンジのサイクルが長くなっていました。

よく売れるクルマだけが4年に1回モデルチェンジをする。(当時は)誰も疑問を挟まずにやっていたんじゃないでしょうか。
(中略)
商品をつくっていく中で必要なのがその順番です。その中で、思想として重要なのがTPS。モノを安くつくるだけでなく、つくるには思想があり、思想があるからそこに準じた技能ができるんだと思います。
(2021年12月23日トヨタイムズ「トヨタが結んだ3つの約束 品質の豊田章男塾【後編】」より)

つまり“リセット”とは「たくさん儲かるクルマ」ではなく「必要とされるクルマ」をつくるという優先順位を取り戻すことにある。ただ「なぜそのクルマが必要とされたのか」を探るのは、シンプルなようで簡単ではない。特にランクルのような、トヨタの歴史とともにあるクルマでは、なおさらだ。

ランクル群全体の開発を統括する内山征也チーフエンジニア(CE)は、当時の様子をこう振り返る。

内山CE

当時、会長からいただいた「原点回帰」という宿題には悩みました。「原点回帰」は「レトロ」や「懐古主義」ではないはずということで、まず「原点」とは何かというところから頭を悩ませました。

ランクルシリーズそれぞれの役割とは何か、その中で”250”の担う役割とは何か、と考えて出てきたのが、生活に寄り添う姿でした。40系が世界に広がりながらワークホースという役割に加えて生活に寄り添う姿を得てきたのですが、その姿が”250”の原点だということに気づきました。

“250”の原点回帰という言葉に対してチーム全員で悩んだ時間は、ランクルシリーズの歴史を紐解き、それぞれのモデルの位置付けを理解し、そして将来を考えたときにどうなっていくべきかを考える大切な時間だったと思っています。

想いを受け継ぐのは先人からだけではない―お客様に育てられ鍛えられてきたクルマ

ランクルを一言で表すなら「頼れる相棒」。内山CEはそう語る。相棒になるために、世界中のお客様から継承するものも多いという。

内山CE
先人から引き継ぐものはもちろんあります。ただ、お客様が持っている“ランクルとはこういうクルマだ”というイメージから引き継ぐものもある。社内で引き継ぐものと、お客様から引き継ぐもの、その両方があると思っています。

世界でランクルがどのように使われ、何を求められているのか。開発者たちは現地へ足を運び、お客様の声を聞く。そこで聞くのは、称賛ばかりではない。壊れた場所や改善してほしい点など、厳しい指摘も多い。

上野和幸グランドエキスパート(GX)は、開発者としてランクルに約30年携わり、自らも“40”、“70”、“80”を所有してきた。上野GXもまたランクルの「継承」とは、過去の設計や構造を受け継ぐことだけではないという。

上野GX

海外の出張時には、ディーラーを訪問することも多く、『いいクルマだけれど、ここは直してほしい』『ここはもっと改善できるんじゃないか』といった声をたくさんいただきます。私たちはその声を持ち帰り、評価や開発に反映する。その繰り返しが、ランドクルーザーを育ててきました。

お客様の使い方が開発者の想定を超え、その経験が次の開発の前提になっていく。

オフロード車両の性能評価を担う山田太郎チーフ・エキスパート(CX)は、ランクルへの期待値の高さに驚きを隠せなかった。

山田CX

過去には、中東で鷹狩りをしていたお客様が、上空の鷹を追ってランクルを走らせ、そのままジャンプ。車体前部が壊れてしまったこともありました。その際に『ランクルなのになぜ壊れるんだ!』というご指摘を受けたときは『ランクルに対する期待はここまでなのか』と思いましたね。「本当に?」と思われるかもしれませんが、そのために新しい試験方法(ジャンプ試験)が確立されました(笑)。

オマーンでは、“70”が荷台に氷と魚、塩を積み、漁村から街まで運んでいた。舗装されていない道を走り続ける中で生じた課題に向き合い、フレームや車軸の強度、溶接の仕方を改良してきたという。

オマーン以外の土地でも、コスタリカの農場(左)、UAEの漁村(右)で活躍するランクル。世界中の人々の「相棒」となっている

砂漠の真ん中や、オーストラリアの僻地では、クルマが止まることは人の命や生活に直結する。「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」という言葉は、日本で聞けば力強いキャッチフレーズにも聞こえる。しかし、その現場に立つと、言葉の重みはまったく異なる。

オーストラリアで河川を走行するランクル

上野GX
特に僻地と呼ばれるような地域では、ランドクルーザーは人々の生活を支える、なくてはならない存在です。だからこそ、壊れにくくすることはもちろんですが、もし壊れたとしても、どう壊れるのか、どうすれば直して走り続けられるのかまで考える。そうした考え方を受け継ぎながらクルマづくりを続けてきたことが、ランドクルーザーの伝統だと思います。

内山CE
『必ず生きて帰ってこられる』というフレーズも海外の現場で聞くと、すごくシリアスに響きます。そこでは、どこへでも行けることも、帰ってこられることも、当たり前ではありません。先輩からは「どう壊すんだ」とよく言われました。ランドクルーザーは、壊れたときにどうするのかまで考えるクルマです。

トヨタでは、そんなランクルを開発するにあたり、「壊し切り」と呼んでいるさまざまなテストを実施している。

モーグルの極限状態を走行し、サスペンションストローク(タイヤが上下に動ける幅)、タイヤ性能、駆動力、車体へのダメージなどを確認

モデルチェンジを重ねるたび、お客様が求める悪路での耐久性能は高まり、それに伴って開発の目標値も上がっていく。しかし、その期待に応えるだけでは終わらない。目標とする距離のさらに「倍」を走らせ、「ここまでやると壊れる」というクルマの限界まで確かめる。そこまでやり切って初めて、世に送り出せる。それが、ランクルの開発に受け継がれてきた考え方だ。

泥濘路での評価の様子(左)。エンジンアンダーカバーを引きずりながら走行することでアンダーカバーへのダメージの入り方、壊れ方を確認し強度や構造を検討する

それは「ある基準をテストでクリアしたからOK」というものではない。「ここまでやると壊れる」という限界を確認するからこそ、世に送り出せるという開発思想である。

“300”の性能評価を担当する原田尚貴チームリーダー(TL)は、こう語る。

原田TL

以前は『そこまでの性能が必要なのか』と思っていたこともありました。しかし、海外での使われ方やお客様の声を知る中で、その性能を必要としている人が世界中にいることを実感しました。日本のお客様にとっても、ランドクルーザーの価値は『どんな場所でも走っていける』という安心感にあると思います。

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