トヨタ自動車に入社したばかりの新体操・竹中七海が、同社の先輩であり代表キャプテンの杉本早裕吏と語った。
2021年4月、新体操フェアリージャパンの竹中七海選手がトヨタ自動車所属となった。同社にはフェアリージャパンのキャプテンであり、ともに愛知県出身、みなみ新体操クラブ所属と共通点の多い、3年先輩の杉本早裕吏選手も在籍している。
今回はフレッシャーズ企画として、アスリートを続けながら社会人となることへの「不安」や「希望」を語り合ってもらった。国内や海外で年間350日ほど合宿生活を送っている二人だからこそ話せる熱い思いとは!?
「絶対に最後までやり切る気持ち」が大切
ーー竹中七海選手、トヨタ自動車入社おめでとうございます。
竹中
ありがとうございます!
ーー早速ですが、フェアリージャパンのキャプテンとしてのみならず、これからは会社の先輩にもなる杉本早裕吏選手へ、新社会人として聞いておきたいことはありますか?
竹中
そうですね。まずは、社会人になって変わったこと。そのうえで必要なことや、持っておくべき覚悟があれば教えて欲しいです。
杉本
毎日一緒に練習しているから見てくれているだろうけど、日々の生活はあまり変わらないと思うよ。でも、大会後に会社へ挨拶に行ってみんなに「おめでとう!」と祝福されると、自分は支えられてるんだなと思うし、そういう言葉が学生時代よりも重く感じて、「頑張ろう!」というパワーになる。「社会人として社会に貢献していきたい」と強く思えるようになったし、そこが変化した部分かな。
竹中
面接のときに、会社の方から「試合で頑張る姿に勇気づけられるから、練習に集中していい」と仰っていただいたんです。それは本当にすごいことだと思っていて、だからこそ自分にできることがあればしたいと思っていて。
杉本
でも、まずは新体操に専念できる環境に感謝して、会社に行けない分、競技をやり切って結果を出すのが今の仕事だと思う。どんな状況でも「絶対に最後までやり切る気持ち」が大切だと思っているから。
竹中
そうですよね。
杉本
そのうえで、イベントのときはより多くの人に新体操の「魅力」や「楽しさ」を伝えたい。競技を知ってもらったうえで、「この選手を応援したい」と思ってもらえるような選手になりたいなと。イベントもたまにしか参加できないけど、そういう気持ちで挑んでいます。
トヨタに入社して幅広い層に知ってもらえる機会が増えた
竹中
トヨタ自動車は、海外でも多くの人が知っている会社だと思うんです。所属になってから、「以前より新体操を多くの人に知ってもらえたな」という実感やエピソードはありますか?
杉本
会社主催のイベントに参加して、いろんな方に手具(新体操の用具)に触れてもらったとき、「新体操ってこんな風なんだ~」とか「うわぁ~すごい」とか、脚を上げたときに「キレイ!」なんて言ってもらえたりして。トヨタ自動車に所属してからは、大人の方も含めて幅広い層に知ってもらえる機会は増えたと思う。
竹中
それは大人向けのイベントだったんですか?
杉本
トヨタ自動車所属のアスリートたちと、トークイベントや体験イベントをするような催しだったかな。私もパラアスリートの方と接することができて、「あ、こういうルールなんだ」とか、他のスポーツのこともわかっていろいろ学べて面白かった!
かつての新体操界は20歳過ぎがピークと言われていた
竹中
でも、いまだに「私が社会人になっていいんだろうか?」という思いがあって。メールの文章とか、心配りとか、そういう面で「大丈夫かな」という不安はありますね。
杉本
うん、私もそうだった。社会人に対して自分よりずっとちゃんとした「大人」のイメージがあって不安になっちゃうよね。しかも、これまでの新体操界は20歳過ぎがピークと言われていて、社会人になっても選手として夢を追いかけているなんて私は想像もしていなかったから。だからこそ、「新体操に集中していいよ」と言ってくれる会社があるのは、すごく安心できる。
竹中
社会人選手は、杉本選手と松原選手が新体操界で初めての世代になるんですよね? 私も以前は大学卒業と同時に競技からも引退するものだろうと思い込んでいて。でも先輩たちを見て、社会人でも続けたいと思うようになったんです。だから、今は不安もあるけど楽しみなことのほうが大きいんです。
相手の性格を知ったうえで発言することが大切
ーー新体操は団体競技であり、フェアリージャパンの皆さんは年間350日ほど合宿生活をされていると伺っています。そういう中での組織づくり、チームワークにおいて大事にされていることはありますか?
杉本
思いやりをもって発言することですね。キャプテンとして、個人のためチームのために厳しく言うこともありますが、相手の性格を知ったうえで発言することは大切だなと思っています。長く一緒に過ごしてもわからない部分はあると思いますけど、できる限りその人の特徴を掴みながら、相手に届く「言葉」や「単語」を選ぶように心がけています。
竹中
取材でよく、「メンバー争いをするライバル、仲間、チーム、その区切りをどうつけていますか?」と聞かれることがあるんです。でも、それ以上にみんなが同じ目標に向けて頑張っていて。何か辛いことがあっても、自分だけじゃなく周りも同じように苦しんでいる。だからこそ、辛いときにはみんなで盛り上げて、声をかけて、話を聞く。そういう仲間がいることで、自分だけでは乗り越えらないことも乗り越えられている感覚があって。すごく幸せだなと思っています。
ーーそれは素敵な関係ですね。あえて意地悪な質問をします。距離が近いほど、相手の嫌な部分が誰しも見えてくると思います。そういうときは、どのように対応していますか?
杉本
同じ生活をして、同じ目標に向かっているので、嫌なことや気づいたことがあれば、お互いすぐに伝えるようにしています。私自身も指摘された際は「そういう風に人から見られていたんだ」と気づいて、すぐに直すようにしています。でも、そこでも言い方は大事ですよね。関係が変わってしまうので。
竹中
今日は取材なので敬語ですが、フェアリージャパンでは敬語は禁止なんです。なので、いつもは杉本さんのことを「さゆりん」と呼んでいて、先輩でも嫌なことがあれば直接伝えるようにしています。また、自分が言われて「ん?」と納得がいかないときは、相手にトゲがある状態なのかもしれないし、逆に私が素直に受け取れないメンタル状態なのかもしれない。そうやって双方向から考えるようにしています。そんなことを繰り返すうちに、最近はどちらにトゲがある状態なのかがわかるようになってきました。それで納得できることも多いです。
私の課題は、自分のことで精一杯になり過ぎるので、今後は他の人に頼ることを覚えていきたいです。
後悔なく新体操人生を終えたい
ーーやはり自分視点だけでなく、相手の視点で考えることが大事なんですね。皆さんのチーム作りは参考になりますし、そのノウハウは社会に還元できると思いました。最後に長い人生での目標を教えてください。
杉本
まずは後悔なく新体操人生を終えたいと思っています。その後は、いつの日かウェディングドレスを着たいですね(笑)。もちろんお仕事にもいろいろとチャレンジしたいです。新体操とは違う世界を経験したいという気持ちもあったりしますが、まだ具体的にやりたいことは見つかっていないです。正直なところ、まずは結果を残して、応援していただいている方々、支援していただいている方々に恩返しをしたいという気持ちしかないです。
竹中
私もまずは新体操をやり切ることが大前提。その後に、視野を広げながら自分に何ができるのかを見つけていきたいです。
杉本早裕吏|Sugimoto Sayuri
1996年愛知県生まれ。2013年の高校2年時にフェアリージャパンの団体メンバーに選出。翌年、キャプテンに就任。2015年の世界選手権(ドイツ)では40年ぶりの快挙となる銅メダル(5リボン)という快挙を果たす。2019年の世界選手権(アゼルバイジャン・バクー)では、ボール5で初の金メダル、フープ・クラブでは銀メダルを獲得。同年、日本体操協会による最優秀選手賞受賞。
竹中七海|Takenaka Nanami
1998年愛知県生まれ。2015年の高校2年時にフェアリージャパンに選出。翌年、リオ2016オリンピックにて新体操団体メンバーの補欠として選出される。2017年には愛知県スポーツ顕彰で杉本早裕吏選手と共に表彰される。2018年、日本体操協会による栄光賞を受賞。趣味はメイクやファッションの情報を見ること。