イノベーションを起こす、謎の「A-1コンテスト」に迫った。Aの意外な意味も明らかに!
役員がサポートする意義
毎年100人ほどのトヨタグループ社員がA-1に参加し、クルマに限らない自由な事業アイデアを競わせている。
初めに参加者同士によるチームメンバーを決めた後、各チームは約4カ月の課題調査と事業モデルの改善を重ねる。そしてトヨタの役員を前にした最終プレゼンに臨む。
最終プレゼンでは「どの事業モデルが顧客に真摯に寄り添っているか」を基準に、最優秀賞が決まる。
過去に優勝したアイデアはスポーツ医療や教育支援など多岐にわたり、実際に社外での起業やトヨタ内のイベントなどで実現している。
2017年に初開催されてから5年間続くA-1だが、参加者の年齢も幅広い。
A-1は時間外の有志活動だが、トヨタの役員もメンターとして関わっている。
最終プレゼンまでの間、参加者たちは事業モデルについて役員たちに何度でも相談でき、長年の経験を踏まえたアドバイスを得られるのだ。
「A-1で自分の枠を飛び越えてほしい」―。
大塚友美チーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSO)、そして未来創生センターの古賀伸彦センター長はメンターとしての期待を語る。
大塚CSO
「自分が何をしたいか」を突き詰めて考え、行動を起こすプラットフォームがあることはとてもいいことだと思い、応援しています。
ただし社外の起業家たちは、マグマのようなモチベーションを持っています。そこに負けないような志を大切にしてほしい。
トヨタの社員は現地現物で考えることを叩き込まれているので、その強みが生かせると思います。
古賀センター長
事業は世に出てからが本当のスタート。自分たちの企画を認めてもらいたい、わかってもらいたいという気持ちはいったん捨てられる、前に進み続けたい、阿呆な参加者へのアドバイスは惜しみません。
自分たちに与えられた仕事という枠を飛び越えるためにも、A-1やメンターを使い倒してほしい。
怪しい秘密結社
A-1の発起人である土井は2015年に入社後、販売店の業務改善をする部署に配属されたが、事業創出への意欲は消えなかった。
始業前、秘密裏に仲間と事業アイデアの議論を行うようになり、A-1開催のきっかけが生まれた。
しかし、当時は怪しい集団と見られていたようだ・・
土井主任
秘密結社みたいなことをやっているね、と言われたこともあります。
それでも企画書に綴った想いに共感してくれる人たちが増えていき、A-1を実現できました。
当時の先輩を含め「トヨタをもっとおもしろくしたい」という想いをもつ運営メンバーが集まり、2017年にA-1が初開催された。
土井はその際に先輩からかけられた言葉を、コンテストの原則として大切に守り続けている。
土井主任
「社外活動としてA-1をやるのはいい。ただ、お前には本業がある。そこで120%の結果を出さなければこの活動をやらせない」と言われました。本当にその通りです。
A-1は逃避の場所ではなく、願いを実現する一歩目です。だからこそ参加者は全員、まずは本業に全力で取り組む。
そのうえで時間をつくり出し、仲間と共に想いを形にしていく。そうしてこそ本気の価値創出ができます。
初開催から5年、コンテストの理念に共感し、運営に携わるメンバーも増えた。
秘密結社のような存在から多くの人を巻き込むコンテストに成長したA-1。
しかし、コンテスト自体は時間外の有志活動のため、優勝しても事業化の予算は与えられず、人員が割り当てられることもない。
A-1のゴールは、どこにあるのか。