写真家、三橋仁明氏が、ルーキーレーシングの戦いを写真で伝える連載。2021スーパー耐久シリーズ開幕戦ツインリンクもてぎ編。
ルーキーレーシングがどう進化するのか、それを写真に収めるのが開幕戦のテーマ
3月18~21日に行われた2021年スーパー耐久のシーズン開幕戦もてぎ。ルーキーレーシングはチームとして3年目、GRスープラとGRヤリスの2台体制で2年目のシーズンを迎えた。
チームに帯同する写真家の三橋仁明氏は、初戦の撮影テーマを次のように述べる。
「昨シーズンまでとの違いは、新たに2人のプロドライバーが加わり、同じトヨタのマシンを使う他のプライベーターが多数(GRスープラが4台、GRヤリスが1台)出走すること。そこにルーキーレーシングが新たにどう取り組みチームとして進化するか、写真に収めることでした」
ルーキーレーシングのGRスープラは昨年までと違い、ST-Qという開発車両クラスで参戦する。先行開発を兼ねる以上、必要に応じてパーツを変えるなどレギュレーションに対して弾力的な立場、つまり初めから賞典外の枠を選んだのだ。
土曜朝、今シーズン最初の朝礼で、モリゾウの「家族的でプロフェッショナルなチームを目指す」という言葉に、ルーキーレーシングの新たなチャレンジが集約されていた。「モータースポーツ起点のもっといいクルマづくり」という軸は不変だが、他のチームがレースで使えるようにする、つまりカスタマーレーシング車両としてパフォーマンスや信頼性に磨きをかけるのもルーキーレーシングの役割というわけだ。スーパー耐久は年6戦だからこそ、年に1度のニュルブルクリンク24時間耐久レースよりもフィードバックと対応を重ねられるメリットがある。
しかし2年目、レギュレーションでパワーが抑えられたGRヤリスには試練が待ち受けていた。マシンの違うドライバー間でも情報交換を強化した結果、土曜の予選でGRヤリスはポールポジションを獲得、モリゾウも2分8秒台という、プロドライバーのレースラップに並ぶ好タイムを叩き出した。ところが予選終盤にGRヤリスはエンジントラブルに見舞われ、すぐさま走行データを解析、ファクトリーでの事前準備では見られなかった現象が確認されたのだ。
「夕方から雨の降る中、エンジン載せ替えをせざるをえなくなったんです。違うエンジンになるため、ポールポジションも失いました」と、三橋氏は振り返る。
それでも齋藤尚彦チーフエンジニアを中心にメカニックが立ち働き、オンラインでつながった本社エンジニアからのバックアップもあり、22時近く、再びエンジンに火が入った。夜遅くまで刻一刻の作業を続けるメカニックらを気づかい、いったんはホテルに戻っていたドライバーたちが、夜食を差し入れに姿を現したところに、ルーキーレーシングの一体感を見たと、三橋氏は言う。最終的にヤリスが再び走れる状態になった時は、0時を大きく回っていた。
日曜の決勝は雨天のレースとなり、今季の指定となったハンコック製レインタイヤも初とあって不確定要素を多々抱えた、難しいスタートとなった。強くなる雨足の下、エアクリーナーの濡れやABSシステムの異常など、前年の富士や菅生の雨のレースではなかったトラブルが、GRヤリスを立て続けに襲う。強まる雨のせいで15時25分に赤旗レース中断となった。
それでも「もっといいクルマづくり」のために、周回数を少しでも稼ごうと最後まで奮戦したルーキーレーシング。ドライバーとエンジニア、メカニックやスタッフらが、不具合をも糧に動き続ける姿を、時に熱く、時に冷静に切り取った、三橋氏の作品は以下より。
三橋仁明氏が切り取った、2021年スーパー耐久シリーズ第1戦ツインリンクもてぎ
ルーキーレーシングの2021シーズンが始まった。モリゾウの「もっといいクルマづくり」をテーマに、GRスープラはメーカー開発車両の参戦が認められる「ST-Q」クラスから、GRヤリスは昨年に引き続き「ST-2」クラスからのエントリーとなる
今シーズンから2人の新しいドライバーが加入することになった。1人目はGRヤリスのDドライバーを務める松井孝允
もう1人はGRスープラのDドライバーを務める山下健太
金曜日のスポーツ走行終了後、モリゾウ自身の手で、感謝の想いを込めて、スポンサーのステッカーをマシンに貼っていく
土曜日の朝、ルーキーレーシングのメンバー全員で朝礼が行われた。モリゾウの口から「家族的でプロフェッショナルなチームを目指す」との想いが伝えられた
心ひとつに、ルーキーレーシングの2021シーズンが始まった
午後の予選では、GRヤリスのAドライバーの井口卓人、 Bドライバーの佐々木雅弘がスーパーラップをマーク、ピットに戻りチームメイトと笑顔でハイタッチを交わす
続くGRヤリスのCドライバーはモリゾウ。タイムアタック直前、カメラに見せたサムアップが意気込みを物語る
監督の片岡龍也。マシンセッティング、路面状況、タイミング、必要な情報のすべてを、正確にモリゾウに伝える
モリゾウ、2分8秒台のラップタイムをマーク。これはプロドライバーが決勝で刻むタイムと同じペース。ピットに戻って来たモリゾウをチームメイトが心から祝福する
順調に進むと思われた開幕戦の予選、事件は予選Dドライバーの松井孝允の走行中に起こった。予兆なきエンジンブロー。モリゾウは最前線に立ち、この問題の解決にあたった
ピットに戻ってきたGRヤリスは、すぐさまエンジン交換の作業に取り掛かった
隣の小さく薄暗いテントの中では、エンジニアがデータの解析作業を進める
21時過ぎ、一度はホテルに戻ったルーキーレーシングのドライバーが、夜遅くまで作業を行うメカニックの状況を聞き、メカニック全員分のお弁当を持って駆けつけてくれた
佐々木、井口、山下らが、ドライバー自らの手で、お弁当を電子レンジで温める。他のドライバーたちは、少しでもメカニックのみんなが、ゆっくりとご飯を食べられるよう、片付けられていた机を広げ、椅子を並べた
メカニックを想う、ルーキーレーシングの温もり。この時間、この人数分の食事を確保するために、どれほどのコンビニエンスストアを走りまわったことだろう
データの解析作業が進められていたテントにも、ドライバーが感謝の想いを伝えに行った。テントの中はエンジニア4人だけだったが、つながれたスマートフォンのteamsには、たくさんの本社のメンバーがいた。深夜の突然のドライバーの訪問、みんな驚き、喜んでいた
メカニックは、確実に、丁寧に、自らの仕事を進めていった。必要なバイパスはすべてつないだ。エンジン始動の瞬間。チーフエンジニアの齋藤が、祈る
エンジンの載せ替え作業開始から4時間、GRヤリスはようやく息を吹き返した
時間は21時52分にもなっていた
エンジンがかかっても、まだいくつもの作業が残っている。走行できる状態に戻したころには、すでに0時を超えていた。誰もいない真っ暗なもてぎで、ルーキーレーシングのピットだけが煌々と輝いていた
迎えた日曜日の決勝。天候は雨。予選で井口と佐々木がスーパーラップを刻んだGRヤリスは、ST-2クラスのポールポジションを獲得していたが、エンジン交換のペナルティが課され、最後尾からのピットスタートを余儀なくされた
12時にスタートした決勝、GRスープラは他クラスの上位車両とバトルをしながら、周回数を重ねていく
決勝スタートから降り続く雨も、どんどんその雨脚を強める
37周目、スタートドライバーの佐々木はマシンの挙動に異変を感じ、ピットイン。このタイミングでセカンドドライバーの井口に交代する
メカニックは、すぐさま不調の原因を突き止めた
不調の原因はエアフィルターとそれにつながるダクトだった
何度も何度もピットインを繰り返すGRヤリス。その様子を誰よりも近くでモリゾウは見守っていた
「絶対に諦めない」。その思いが、GRヤリスをレースの舞台に戻す
GRスープラは蒲生→大輔→山下→小倉の順でバトンをつないだ
15時24分、GRヤリスに新たなトラブル。ステアリングを託されていた松井は66周目にマシンを降りた
今度はABSシステムの異常だった。すぐさまその原因を解析診断し、車輪速センサーの異常を突き止めた。スペアパーツとして用意ができていなかった車輪速センサーは、関係者駐車場に停めてあったルーキーレーシングメンバー所有のGRヤリスから取り外し、対策にあたった
雨脚はどんどん強まり、15時25分、ついにレースは赤旗中断となった。その後も、天候回復が見込めないと主催者は判断、そのままレースは終了となった
GRスープラ4人目のバトンを受け継いだ小倉はわずか4周の周回数で決勝を終えた。それでもこの悪天候の中、GRスープラは76周もの周回数を重ね、総合17位で開幕戦を終えた
ルーキーレーシングの目的は「もっといいクルマづくり」。とにかくたくさんの周回数を重ね、問題を見つけ、改善していく。突きつけられたたくさんの課題と現実。第2戦をすぐそこまで迎える今も、ルーキーレーシングの「カイゼン」は止まることはない