クルマ好きを惹き付けてやまないエンジンの音。レースや開発の場で常にエンジンサウンドと接しているレーシングドライバーにはどう聞こえているのか?
レースで響き渡るエンジンサウンドの意味
この連載の取材を進めていくなかで疑問に思ったのは、レース中にエンジン音はどれくらいレーシングドライバーに聞こえているのか?ということ。
なにしろレース中のドライバーは、ヘルメットはもちろん、チームとの交信を支えるイヤホンを兼ねたイヤープラグ(耳栓)も装着する。
レーシングカーは爆音とはいえ、はたしてどれだけ聞こえているものなのだろうか。
佐々木選手
もちろんヘルメットなどで遮断されることはありますが、聞こえていますし、聴いています。
レース中に何のためにエンジン音を聴いているかというと、一番はシフトのタイミングです。
エンジンの回転の上がり具合、つまり高回転になったときの周波数を聴いていれば、タコメーターで回転数を見ることなくシフトチェンジができます。自分のクルマの調子がいいか悪いかも音で判断できます。
GRヤリスでスーパー耐久に参戦していたときのことですが、エンジン音と体感が合っていない感じがして、データをチェックしてもらったことがあります。
するとやはりパワーが出ていないとわかり、オーバーシュート(設定値を超えた過給圧)を使ってパワーを足してもらうという対応をしてもらいました。
ライバル車の調子もわかります。特にスーパー耐久ではトラブルが出ることも多いので、ライバル車の排気音で「あ、エンジン回ってないな」ということを知ることもできます。
新しいクルマと古いクルマの音の違い
メカニックのキャリアも持つ佐々木選手は古いクルマやバイクも好きで若い頃から、さまざまなエンジンを触ってきた。
佐々木選手
ECUで制御された現代のクルマは本当に調子が悪くなったときにしか音の変化がないので、微妙な調子まで音だけで判断するというのは難しいですが、古いクルマは本当に耳が頼りです。
僕は本当にクルマが好きで、スポーツカーやレーシングカー以外にも、電子制御を持たないキャブレターのクルマやバイクもいじりますが、そういった原動機の調子は完全に音で判断します。
エンジン音というと排気音がフィーチャーされがちですが、吸気音も非常に大切です。
多連スロットルなのかシングルスロットルなのかで音はまったく違いますから。
そんな整備中、レース中、そして車両開発のためのテストドライブ中も聴覚をはじめ五感を研ぎ澄ませ、クルマと対話する佐々木選手。
「机上の数値より前に、マシンを操るドライバーの感覚を大切にするべきだ」とドライバーファーストを唱える。
これは、モータースポーツにおいて、マスタードライバーである豊田章男が繰り返し言う「ドライバーが乗りやすいクルマづくり」を目指すというものであり、トヨタが技術力を詰め込んだ「エンジニアファーストなクルマ」をつくってもダメ、ドライバーの意見にエンジニアがいかに耳を傾けて乗りやすいクルマをつくっていけるかということである。
佐々木選手
だって、マシンを操るのは僕ら人間なんです。機械と人間がきちんと対話できるクルマであることが大事だと思います。
もちろん僕らもデータを見て「これだったらこうしよう」と対策を考えますしデータは当然必要です。
でもやはり優先すべきは人間の感覚なんだと思います。
どんなにデータ上速く走れるクルマでも、どんなにデータ上安全なクルマでも、ドライバーの身体感覚に沿っていなければ、その走りを現実の道で再現することはできない。