幻のレーシングカーの復元プロジェクトを追う。ついに最終回では、組み立て、試走、完成、ミュージアムへの展示までの経緯と苦労について。
改良を積み重ねて、ついに本格試走が実現!
そして2021年11月5日、トヨペット・レーサー復元プロジェクトのメンバーにとって、最高の、そして事実上最後の晴れ舞台がやってきた。
最高時速100キロへの挑戦と、プロジェクトメンバーによるトヨペット・レーサーの試走会を富士スピードウェイにある交通安全講習施設「トヨタ交通安全センター モビリタ」で行った。
手叩き板金でつくられた美しい外装ボデーをまとい、ほぼ完成した姿で登場したトヨペット・レーサーを、プロジェクトメンバーたちはこの約1年間の、自分たちの普段の仕事とはまったく異なる、困難な挑戦を振り返りながら見つめていた。
ボデーがまだ未塗装で、スピードメーターなどの計器がない、シフトレバーのリンクが完成しておらず足元にあるなど、まだ未完成の部分はあったものの、テストドライバーを務める杉本のドライブで、トヨペット・レーサーは時速81キロを記録した。
さらにプロジェクトチームのメンバーが交代で、自分たちの手で復元したトヨペット・レーサーでモビリタのコースを周回走行し、総走行距離も100キロに達した。
その後、トヨペット・レーサーはボデーの塗装、シフトレバーの位置や車高の調整など改良を経てさらに美しく仕上げられ、テストベンチでのエンジン出力試験や役員試乗が行われた。
そして、本社テストコースの走行試験でトヨペット・レーサーはついに目標としていた時速100キロの最高速を達成した。
現在は、富士スピードウェイホテルに併設された「富士モータースポーツミュージアム」で、創業者・豊田喜一郎に始まる「モータースポーツを起点とするもっといいクルマづくり」の原点として展示されている。
約1年間、日常の業務の合間を縫って、70年以上も前の1951年に先輩たちが試行錯誤しながらつくった、トヨタ自動車工業が初めて関わり世に送り出したレーシングカーを、写真とわずかな資料だけで、できるだけ当時と同じつくり方で復元するという壮大な挑戦はついに幕を下ろした。