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第7回 頼りは写真のみ 「図面がないなら、ゼロからつくってしまえ」

2022.12.22

幻のレーシングカーの復元プロジェクトを追う。第7回では、シートをゼロからつくり上げたメンバーの奮闘を紹介。

曲面でもシワなく美しい、こだわりのシートに 

須藤氏は設計面からそのこだわりを語る。

須藤氏

当時の写真を見ると、シートカバーにつなぎ目がない、「天板一枚張り」と呼ぶタイプでした。天板一枚でシワのない美しい外観を実現するためには、造形の最適化が重要です。

背中部分の凹面と凸面の長さを合わせることが重要になります。凹面と凸面が一緒でないとサイドとの縫い合わせの長さにズレが生じてしまい、シートの肩部分にシワができてしまいます。

また見た目に加えて、乗り心地も大切です。こうした点にも考慮して、表皮の張り感にもこだわって、シートの型紙を設計しました。

須藤氏が設計した型紙(右)

シンプルなデザインだけに、細部の縫製にわずかな問題があるだけでも、それが見た目に現れてしまう。そこで、製作作業にも徹底的にこだわって仕上がりの美しさを追求。

縫い目の間隔を通常の5mmから3mmへ変更し、縫い代を3mm残したうえで、座面側に統一して寄せることにより、なめらかで美しいエッジのラインを実現した。

写真左は通常の縫い目間隔5mm、縫い代の長さ8mmで製作したもの。右は縫い目間隔と縫い代の長さを3mmにし、縫い代を座面側に統一して寄せたもの。格段に美しく仕上げられた。
縫製作業にも徹底的にこだわり、仕上がりの美しさを追求した。

こうした技術やノウハウはレクサスなど高級車のシートの設計や製造に使われている。今回は1点モノなので、ここまでこだわることができたという。

最新の技術と職人技が、トヨタのモータースポーツの原点ともいえるレーシングカー(の復元モデル)に使われているというのは興味深い。このプロジェクトはトヨタ紡織の若手にとって大きな刺激になった。

シートの木製フレームの製作を担当した山口氏が語る。

山口氏

最初の博物館の見学のところからいろいろ見せてもらって、昔のシートの素材や構造など、これまで知らなかった面白い知識や経験が得られました。また、チームやさまざまな部署の人々と議論を重ねることで、改めてこの仕事の面白さ、可能性を実感しました。

箕浦氏

今回のプロジェクトで、リーダーの私自身、皆で様々なことを議論することで、これまでの常識にとらわれない考え方や知識、知見を得ることができました。それが何よりも楽しかったです。今後の仕事にとっても大きな刺激になりました。

トヨタ紡織におけるこのプロジェクトの最大の目標「若手育成」は、期待以上の成果を上げたようだ。

シートの最終仕様が固まったのは20216月。さらに2カ月後の9月はじめにシートが完成した。トヨタ紡織チームが結成されてから約半年後のことだった。

装着された最終仕様のシート

今回のシートづくりやパッケージングの作業で、渡部は一つのことに多くの人が関わることで生まれる「現場の力」のすごさを経験したと語る。さまざまな技術、技能、ノウハウを持った人々が結集することで、期待を超えた素晴らしい結果が生まれる。

渡部

シートの仕上がりには心から満足しています。当初期待していたものよりはるかに素晴らしいものになりました。

この復元プロジェクトでは、全員で同じ想いを持ち、一人ひとりこだわりを持って行動すれば、期待以上の成果が得られることを経験できました。

そして、それがいかに大切なことか気づくことができました。これは私にとって、復元プロジェクトに参加して得たいちばんの成果です。

次回第8回では、鋳造によりトランスミッションのケースとクラッチ&ブレーキペダルを製作したメンバーの奮闘をお伝えする。

(文・渋谷康人)

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