第13回 アルミニウムの溶接技術も独自に確立「溶接の匠」三木 昭(後編)

2023.04.05

自動車業界を匠の技で支える「職人」特集。第13回は5000度の超高温を操り独自の技術で金属やアルミを接合する「溶接の匠」に話を聞く

世界中で活躍する溶接の弟子たち

そんな三木のところには、国内はもちろん、世界中の工場から最高峰の溶接技術を学びたいというさまざまなスタッフたちが指導を仰ぎにやって来る。

前編でお伝えした、三木が得意とするプレス金型の肉盛り溶接。これはプレス加工によるボデーパネルの製造に不可欠な技能だ。

そしてトヨタは世界各国の工場でこのプレス加工によるボデーパネルの製造ラインを稼働させている。つまり世界各国の工場に、この高度な溶接技能を身に付けた溶接技能者が必要だ。

モノづくり人材育成センターの壁には世界地図と、三木をはじめとする同センターの匠から指導を受けて世界中で活躍する教え子たちの写真が何十枚も飾られている。

さらに三木は、これまで海外工場に長期出張して技能の支援や指導も行ってきた。

2010年にはアルゼンチンにあるアルゼンチントヨタで、2012年にはタイのタイトヨタで出張指導を行った。

つまり三木には日本ばかりでなく世界中に何百人もの「溶接の弟子たち」がいる。

世の中でいちばん面白い仕事……

三木は現在もトレーナーとして、社内のさまざまな部門の後輩たちに、さまざまな溶接の技能を教える講座を開催。実技指導などを通じて、自らが会得した溶接技能の伝授と継承に取り組んでいる。

その一方で、社内のさまざまな職場から「このような溶接はどのように行えばいいのか」などの相談に乗って技術指導なども行っている。ただまもなく65歳の定年を迎える。

三木

これまでいちばん記憶に残っている仕事は、厚さ3.2㎜の鉄板を溶接して、長さ6m、幅2.5mくらいの巨大なプールをつくったことです。

プレス金型は最後に焼入れ加工をして表面を硬く仕上げるのですが、硬くするのはその一部でいい。そこで金型をプールの中に沈めて、液体に浸かっていない部分だけ焼き入れするのですが、そのためのプールです。

当時は焼入れの仕事にも関わっていましたし、上手く仕上がったこともあって良い思い出のひとつです。

18歳で入社したときから溶接ひと筋の三木は、そのキャリアを振り返って、溶接ほど面白い仕事はないと語る。

三木

何しろ、溶接は金属同士を完全にくっつけるんですよ。縁の下の力持ちの目立たない仕事だけれど、これほど面白い技能はない。

個人的には「世の中でいちばん面白い仕事」だと思っています。もっといろんな人たちにこの技能の面白さを知ってほしいし、身に付けてほしいですね。

人の手による溶接で基幹構造部品がつくられた東京スカイツリーや、やはり溶接技能を駆使して製作される鉄道車両、焼入れ技術を駆使して仕上げられる日本刀など、溶接や焼入れの技能が注ぎ込まれた金属製品が気になるという三木。

三木

溶接という仕事をやりきったとは思わない。けれど、定年を控えていいところまでできたと自分で思います。趣味でギターを弾くのが大好き、フォークミュージックが好きなので、次なる挑戦はピアノを弾くこと。すでにピアノを購入しました。

三木が職人としてのすべてのキャリアを掛けて培ってきた高度な溶接技能は、今後、世界中で活躍している教え子たちが、さらに進化させていくことだろう。

(文・渋谷康人 写真・高柳健)

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