阪神甲子園球場でカーデザイナーが"アレ"について語った。リーグ優勝が決まった日の朝、球場で明かされた裏話とは・・
阪神タイガースの18年ぶりのリーグ優勝に沸く甲子園。そこで活躍するトヨタのモビリティがある。
投手交代時に、練習場のブルペンから、投手が投げるマウンドまでを送迎するリリーフカーだ。日本のプロ野球でもリリーフカーを使っているのは4球団のみ。世界的にも珍しいモビリティである。
まずは、マウンドに向かうシーンを疑似体験できる貴重な動画を公開する。プロ野球選手になったつもりでご覧いただきたい。
記事後半では、阪神タイガースの岩崎優投手からのコメントも紹介する。
タイガースが、なぜトヨタに依頼を?
息詰まる試合終盤、ピンチを切り抜けるため、抑えのエースが颯爽と登場・・
そんなシーンを演出するリリーフカー。阪神甲子園球場では2022年の春から新しいモデルを導入した。そこには2つの理由がある。
まずはリリーフカーが通る“通路の幅”だ。
通路が狭く小型車両しか使えない。せっかくウォーミングアップを終えた投手が、試合に出る前に窮屈な姿勢を強いられることは避けたかった。
2つ目が環境配慮だ。甲子園球場では2021年12月に環境保全プロジェクト「KOSHIEN “eco” Challenge」を宣言。その一環でリリーフカーをBEV(電気自動車)にするというアイデアが出た。2021年秋にトヨタに相談があり、プロジェクトはスタートした。
ところがいくつもの難題が待ち受けていた・・。ビジョンデザイン部の永津直樹プロフェッショナル・パートナーがその経緯を明かす。
永津
納車まで約3カ月しか開発期間がなかったので(短距離・低速型BEVである)APMを使おうかと考えました。東京2020オリンピック・パラリンピックで、トヨタがラストワンマイルのモビリティとして提供したものです。
しかし実際に球場を見てみると、通路はとても狭く、一目でAPMは通れないとわかりました。もちろん新しいクルマを開発する時間もありません。そこでC⁺podを使う方針を固めました。
オープンカーの設定がなかった超小型BEVのC⁺pod。しかし幸運にも、構造上、オープンカーにしても強度を保つことができた。
また軽量化を目指した樹脂製ボディのためカスタマイズも容易だった。
ラスボスが出てくるときの神輿
次にデザインを決めていくのだが、永津はまず阪神甲子園球場の歴史を研究。さらにグッズショップに足を運び、タイガースファンが普段どのようなものを好んでいるかも探り続けた。
そしてコンセプトが固まった。
永津
デザインのイメージは、“ラスボスが出てくるときの神輿”です。
試合終盤に出てくるピッチャーは、圧倒的な力で敵を抑えこむ救世主の登場です。テレビ映りまで考慮してディテールを詰めていきました。
体が大きなプロ野球選手の専用車だからこそ、他にもクリアすべき条件が多かった。当時、開発責任者だったMid-size Vehicle Company 井戸大介主査はこう語る。
井戸
みなさん身長が高いので、とにかく足元を広くして欲しいという要望がありました。しかしC⁺podのサイズ的に、座面をいちばん後ろに下げてもまだ足元は狭かった。
そこで、座面を“高くする”ことを考えました。選手が降りるときの怪我のリスクに配慮しつつ、3段階で高さをご提案しました。
その中で阪神タイガースが選んだのは、いちばん高いタイプ。
永津
雪の降る年末に、阪神甲子園球場の方と、阪神タイガースの方に豊田市まで来ていただき、実際の高さを体験していただきました。身長185cmの方がスパイクを履き、乗り降りして安全面を確認。最終的には現地現物で決めました。
一見、通常のオープンカーにも見えるこのリリーフカー。しかし使いやすさや、球場を盛り上げるための演出、さらには安全への深いこだわりがいくつも詰め込まれている。
次のページでは、テレビでは見えない細部までをご覧いただきたい。