写真家 三橋仁明氏が、ルーキーレーシングの戦いを写真で伝える新連載。スーパー耐久シリーズ第5戦オートポリス編。
GRヤリスとGRスープラがいかに鍛えられていったかを伝えるのが今シーズンのテーマ
「ルーキーレーシングの2020年の歩みを象徴するような1枚が、今年最後のレースでどうしても撮りたかった。その瞬間が撮れて、フォトグラファーとして満足しています」
写真家の三橋仁明氏はそう語る。
2020年スーパー耐久シリーズ第5戦オートポリスで、GRヤリスとGRスープラ、それぞれのステアリングを握るモリゾウ選手と豊田大輔選手が並んで、チームスタッフとともに、チェッカーを受けるシーンだ。
今回の勝利で、32号車のGRヤリスと井口卓人選手/佐々木雅弘選手/モリゾウ選手組は、来年1月の最終戦・鈴鹿を残してST-2クラス(3,500cc以下の4WD車)のクラスチャンピオンを手にした。
だがチームの一員として、シーズンを通じてルーキーレーシングを撮り続けてきた三橋氏は、ドライバーだけでなく、チームスタッフやメカニック、開発エンジニアたちの姿をもファインダー越しに捉えてきた。
ルーキーレーシング全員が一丸となってクルマのあらゆる箇所を限界まで追い込み、スーパー耐久の現場に通い詰め、改善を探り続ける。
いわばGRヤリスやGRスープラが進化した過程だけでなく、そこに込められた熱量そのものが今シーズンの撮影のテーマだった。
だからチェッカーのシーンに至るまでの思い、チャンピオン獲得だけでない重みが、この1枚に表れている。
「実はこの瞬間をどうしても撮影したくて、片岡龍也監督にお願いをして、無線を通じてモリゾウ選手にペースコントロールをしてもらいました」
レース残り15分、2台はコース上の一番離れた間隔で走行していた。
この撮影を可能にするには、モリゾウ選手にペースコントロールをしてもらうしかない。
ただ、ペースを落とすということは、必然的に他車に抜かれる回数も多くなり、接触のリスクも増える。
ましてやレース終盤の路面が荒れている状況であればなおさらのこと。
それでもモリゾウ選手は、ライバル勢に対し綺麗にレーシングラインを譲り、ペースコントロールをして見せ、ちょうど最終ラップに入るタイミングで2台が並んだ。
モリゾウ選手のマスタードライバーとしての技術と、それまでに築いたリードがあったからこそできたこの撮影ミッション。
かくして、2020年最後のレースとなるスーパー耐久シリーズ第5戦オートポリスを、GRヤリスとGRスープラが並んでチェッカーを受けるという最高のシーンで締めくくることができたルーキーレーシング。
以下に、専属フォトグラファーとしてその戦いを目の当たりにしてきた三橋氏による写真とコメントをお送りする。
三橋仁明氏が切り取った、2020年スーパー耐久シリーズ第5戦オートポリス
ルーキーレーシングの2020年の最後のレースとなるスーパー耐久シリーズ第5戦はオートポリスで開催された
GRスープラは金曜日午後の走行直後にリアからの異変を感じ、走行を一時中断、メカニックが原因究明に走る
原因はハブベアリング(駆動力を伝えるドライブシャフトとホイールをつなぐパーツ)の摩耗と判明
土曜日の朝、ルーキーレーシングのメンバー全員で朝礼が行われた
モリゾウさんは、今シーズンのみんなの労をねぎらい、ルーキーレーシングがチームであるとともに家族のような存在であることを再確認。互いを想う、声を掛け合う──当たり前のようなことだが、一分一秒を争うサーキットの現場ではそれぞれの作業に追われ、自身の健康管理が疎かになりがち。12月の極寒のオートポリスで、ルーキーレーシングはモリゾウさんの想いという「暖」をとることができた。一瞬、みんなの表情が和らいだ
オートポリスでの週末に、誕生日を迎えるルーキーレーシングのスタッフがいた。それをサプライズで祝おうと、モリゾウさんが自らの手でケーキを運び、メンバー全員でハッピーバースデーを歌う
一人ひとりを大切にする。肩書だけで仕事をしない。それがルーキーレーシング
ルーキーレーシングにとって2020年の最後のレース。ドライバー全員がGRヤリスのグリッドに集まる
12月のオートポリスは、路面温度が低く、タイヤが温まりにくいため、3周のフォーメーションラップの後、午前10時40分、決勝レースがスタート。GRヤリスが佐々木選手、GRスープラは豊田大輔選手
昨年のドライバーズミーティング時、立ち上がりのエスケープゾーンのガードレールが危険だという声が上がり、モリゾウさんの働きかけでオートポリスを管理する川崎重工業や横浜タイヤの協力によって、衝撃吸収タイヤバリアが設置された。その100Rを、アクセル全開でモリゾウ本人が駆け抜けていく
GRスープラは、1スティント・1時間のペースで、豊田大輔選手>蒲生尚弥選手>小倉康宏選手>河野駿佑選手>再び豊田大輔選手。5時間の耐久レースをノントラブルで、142周を走り切った
GRヤリスも5時間をノントラブルで走り切った。確実に走り切る強さを証明し、140周を刻んだ
GRヤリスは佐々木選手>モリゾウ選手>井口選手と繋いだ。最後の20分、もう一度モリゾウ選手が駆る。それをグータッチで見送る北川親分(チームみんなの親父)。多くは語らずとも、拳というセンサーで互いの想いを感じる
午後3時51分、GRヤリス、GRスープラの2台が揃ってチェッカー。西陽に照らされながら、天高く突き上げられたモリゾウ選手のガッツポーズが、本人の嬉しさを物語る
パルクフェルメ(車両保管所)からチェッカードライバーを努めた2人が並んで歩いてくる。モリゾウ選手と豊田大輔選手。チームメイトであり親子。サーキットではなかなか作ることのできない、2人だけの時間
2人の歩いてくる姿を見て、佐々木選手と井口選手が声をかけた。それを見つけたモリゾウ選手は、笑顔で、全力でこちらに向かって走ってきた
佐々木選手、井口選手と喜びのハイタッチ。モリゾウ選手は、ここでクラスチャンピオンを獲得したことを知る
ポディウムからメンバーに笑顔を送る、佐々木選手、井口選手、モリゾウ選手
ルーキーレーシングの2020年のレースは全て終了した。2019年のシーズンが終わったとき、モリゾウさんは「5戦中3戦、大事故、大変な一年でした」と回願した。それでも、諦めず、ルーキーレーシングは前を向いて、強くなっていった。結果、モリゾウ選手が駆るGRヤリスは今年クラスチャンピオンを獲得した。モリゾウは、ルーキーレーシングは、決して後ろを振り向かない