事故ゼロの鍵は"アイ" 企業の枠超え安全への想い共有

2023.08.10

4年ぶりの開催となったタテシナ会議。事故撲滅はいつの時代も共通の願い。過去に学び、未来へつなげるため、企業の枠を超えて議論が交わされた。

立場は違えども想いは同じ

TMFの理事であり、自動車評論家でもある池田直渡氏は、ジャーナリストの立場から発言。ニュートラルな立ち位置でありながらも、自動車産業の一員としてさらなる発展へ想いを伝えた。

今日のギルさんの話でとても面白かったのは、「技術というのは善にも悪にもなる」というお話だったと思います。

クルマってそうですよね。人々の生活を良くするし、命も救う。一方でこれだけ数字に上がっているように、人がたくさん亡くなっている。

技術を開発する人たちが最先端でいろいろな技術を使って、技術の可能性を広げていくということをやっていらっしゃる。けれども、「ここにいる産業のサイドの人たちは、それを本当に善性をもって使っていくのか?」ということですね。

我々は産業サイドとして、エンジニアの方、科学者の方から信じられる世の中をつくっていかないといけないし、僕ら評論家も「こんなことをしたら、こんなリスクがあるじゃないか。危ないではないか」と言うだけではなく、どのようにしたらそれが善になるのか、人のためになるのか、愛がある技術として使っていけるのか、ということを考えないといけないなと思いました。

元経済産業省事務次官で、2018年からトヨタ取締役を務める菅原郁郎氏は、クルマの知能化が進むことによって、交通ルールのつくり方も変わってくるのではないかと予想する。

今までのすべての人に一律に適用するルールではなくて、「そのクルマにどのような知能化を入れているかどうか」、もっと言うと「運転する人の運転技術にどの程度クルマが寄り添って、制御の補助をしてあげるか」によって全然ルールが違ってくると思っています。

これからはおそらく、すべての人に一斉・一律ではなく、すべての個人個人とそのクルマとのマッチングにおいて、どのような人がどのようなクルマに乗っているかによってルールが変わる前提で、ルールもつくるというように変わっていくのではないかと思います。

DUNLOPやFALKENブランドのタイヤメーカーとして、タイヤが路面から得られる情報を活用した安全技術について語ったのは、住友ゴム工業の池田育嗣取締役・特別顧問(協豊会会長)。より安全技術を必要とする高齢者や初心者ドライバーのために、汎用車や軽自動車へスピード感のある導入を要望した。

販売店からは、トヨタ自動車販売店協会の金子直幹理事長が、約50年にわたり幼稚園や保育園に交通安全の絵本、紙芝居を贈っている取り組みを説明。一方で岡崎氏の講演を通じて高齢者の死亡事故の多さを「衝撃的なお話」とし、「よりお客様にクルマを理解してもらって、利用してもらえることを販売の現場で提供していけるように感じました」と受け止めた。

金子理事長の言葉にプラットCEOは「ディーラーの役割は大きくなる」と反応。メンテナンスだけではなく、交通安全の啓発活動などを通じて築かれる、お客様との信頼関係は、特にアメリカでも「学べることはたくさんある」と太鼓判を押した。

あいおいニッセイ同和損害保険の新納啓介社長は、三位一体の取り組みの中で、人と社会インフラについての活動に触れた。

保険会社として、高齢ドライバーの運転技術の維持向上に自動車保険に脳トレーニングアプリを付与したり、ヒヤリハット地点の特定にリアルな運転データを活用していることを紹介。

「地域を『ユーザーの皆様が良くするんだ』ということに気付いていただいて、そこには地域愛ですとか、その先にある、お互いが一緒になって『この街を良くしようよ。安全安心な街にしようよ』という愛が一つキーワードだなということを学ばせていただきました」と、プラットCEOの講演と安全への取り組みを結びつけていた。

TMFの交通安全活動のアドバイザーを務める東京工業大学・小竹元基(しの・もとき)教授は、研究分野でもある高齢ドライバーのヒューマンエラーについて見解を述べた。

(高齢ドライバーは)日常の生活から得た経験を活用し運転しています。また、加齢に伴い様々な心身機能が低下します。しかしながら、その日常の運転の中で不安全な行動を行ってしまっても、ヒヤリハット(危なさ)を感じなければ、「この運転は良い運転」、「上手い運転」として、各自の経験に刷り込まれてしまいます。

その不安全な行動に対する負の行動連鎖を日常の生活で行った結果、高齢ドライバーは、自分の運転に対する自己評価と実際の運転行動の間にギャップが生まれます。このギャップをどう埋めていくかが、次の対応技術としてとても大事になるだろうと考えられます。

すなわち交通社会の中で運転をする経験において、人間性をクルマ側が育てる。そういった協調的なサポートをしていくことが必要になってくるだろうと考えております。

そういった活動の中で、やはり三位一体がとても大事です。人、道、クルマの役割が何であり、そこで得られた生きたデータをどのように活用していくのか? そのデータを活用した協調型のエコシステムをつくっていかないと、なかなか(交通事故死者数は)ゼロにはならない。

2,600人余りの交通事故死者数、どうしますか?人に思いやりを持って対応する。交通社会の中で、生きたデータをどのように活用し、どう伝えるかといった対応がとても大事だろうと、分科会の活動を含めてアドバイザーとして行わせていただいています。

このほか、TRIの研究者、Avinash BalachandranAdrien GaidonCharlene Wu3氏もそれぞれの研究分野から知見を述べた。

Iではなく愛を

20人以上が、交通事故死傷者ゼロへ想いを語り、見識を深めた会議。最後に佐藤恒治社長が総括した。

このタテシナ会議の意味合いを考えた時に、今⽇プレゼンをいただいたお三方、そして、多くのコメントをいただいた皆様からのご意⾒を頂戴して、⾃分なりにいろいろ考えて今思いますのは、実は、オープニングリマークス(開会あいさつ)で豊⽥会⻑が蓼科⼭の話からタテシナ会議を始めたことに、実は⼤変深い意味があるのではと思っています。

この後、⼤祭がありますけども、これは祈りを捧げるということです。祈りを捧げる⾏為そのものは、利他の⼼あるいは、⾃分以外の誰かのために幸せを願うことだと思います。

今⽇のテーマのなかに「愛」という⾔葉がありました。

ギルさんから愛をもって考えていくことが⼤事だといただきました。しかしながら、⽇本語の「愛」は「私」という意味の「I」もあり、交通安全を考えるときにその中⼼が同じ「愛」でも「私」という「I」になってしまうと、向かっていく先が変わってしまいます。

⼤祭あるいは祈りを捧げることを原点に置いたときに、我々が⽬指すべきゴールは、やはり「ゼロ」だと。交通死亡事故ゼロを共通の⽬標として、それぞれが⾏動していくことが⼤切だと。

「私」という視点に立ちますと、どうしても産業振興の視点になったり、あるいは、それぞれが「できるベストをやっているんだ。我々は頑張れるだけ頑張っているため仕⽅がない」と思ってしまうかもしれません。

そこを、祈りを捧げることを原点に置くことで、改めて交通死亡事故ゼロを⽬指して頑張っていくという共通の⽬標を持ち、「皆で⾏動していこう」と、タテシナ会議と⼤祭が一つの⼤きな考え⽅でつながっていると感じました。

そして、ゼロを⽬標に進んでいくときに、⼀番⼤切なことは、それぞれが独⾃で頑張るのではなく、皆で交通安全を実現していく⼤きな連携を⽣み出すことだと感じました。

モビリティ社会の形成に向けて、我々は⽴場が違えども、皆同じ⽬標を持って動いているわけです。その仲間が連携して取り組むことで解決できる問題がまだまだあるはずだと、そこに向かって⾏動することが⼤切だということを今⽇改めて認識をさせていただきました。

このタテシナ会議を通して、気持ちが新たになりました。

この部屋を出たらまた違う(元の)⾃分が帰ってきました、とならないように、皆様で⾏動を誓い合い、来年はぜひ「⾃分は去年この場で、蓼科⼭の話から始まったタテシナ会議で、こんな思いをもったので、こんな⾏動をした」と皆様と共有できるよう、⾏動の結果を共有しあえるような会議に育てていければと思っております。

この日はタテシナ会議で確かめられた交通安全への取り組みを、さらに実効性のあるものにしていく「分科会」が発足。35の企業・組織が、「データ活用・危険地点見える化」「高齢者安全運転支援」「新しい児童への啓発」「自転車・二輪」「海外」の5テーマについて、具体的な行動に移していくため、組織の枠を超えた連携を誓った。

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