事故ゼロの鍵は"アイ" 企業の枠超え安全への想い共有

2023.08.10

4年ぶりの開催となったタテシナ会議。事故撲滅はいつの時代も共通の願い。過去に学び、未来へつなげるため、企業の枠を超えて議論が交わされた。

クルマと人と交通環境は三位一体

岡崎氏は、2021年の世界での交通事故死者数が130万人だったことを示し、さらに次のように続ける。

「これを半分にし、10分の1にし、ゼロにしていく不断の努力というものが、今我々に求められている」。

その“不断の努力”として、日本では、クルマの安全性を進化させてきたことに加え、交通安全教育やゾーン30など、人やインフラに対しても安全対策を施してきた背景を解説。

結果として、交通事故死者数は「第一次交通戦争」と呼ばれた1970年の16,765人から2021年の2,636人まで下がっていることを示した。

「三位一体となった安全対策というものが、交通安全には絶対に必要、どれか一つでも欠ければ、効果的な安全対策にはならない」と岡崎氏。

岡崎氏はまた、交通事故死者数は減ってきているものの、近年では死者数の減少幅が小さくなり、頭打ちになってきている事実も提示。

そして高齢者の歩行中、自転車乗車中の死亡事故の割合が増えている現状を示し、「これまでとは違う新しい取り組みが、今求められている」と締めくくった。

岡崎氏のプレゼン後、豊田会長は、技術者としてトヨタのクルマの進化を見てきた内山田竹志EFExecutive Fellow)にマイクを向けた。

内山田EFは、新幹線には踏切がないこと、区間を分けて常に安全な距離を確保していること、夜間の線路のメンテナンスをしていることといったシンプルな方法で50年以上に渡って事故死がゼロであることを引き合いに、「我々もやろうと思って本気でやればできる」と発言。環境面についても以下のように語った。

岡崎さんが最後に言われました三位一体。人と環境とクルマ。

クルマは近年、先進安全、ADASAdvanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)の技術が交通事故の低減に役立っていると思います。

けれども今亡くなっている方(歩行中や自転車乗車中の高齢者)は、車外の方なので、クルマ側としては、この人たちをいかに早く発見し、ブレーキなりハンドルなりで対処するかということがあります。

もう一つ近年思っていることは、環境というところで、これだけ明確に高齢者が、あるいは歩行者、自転車が事故に遭うのに、日本の道路環境を、2番目のピークからどれだけ変えてこられたのか、ということ。

高齢化社会になっているにも関わらず、道路環境はそのままに、「自転車は車道を走りなさい。キックボードも車道を走りなさい」といって、一般のクルマの交通流とマージ(融合)していく格好になっていて、こういうことも、我々はもちろんクルマの開発はやらなければなりませんが、環境の面でも、もっともっとやることがあるのではないかなと思います。

安全技術の進化にドライバーも一役

二人目の登壇者は、ウーブン・バイ・トヨタの虫上広志Senior Vice President。岡崎氏が課題としてあげた新しい取り組みについて、走行中のクルマから得られるリアルデータを活用した、クルマの「知能化」について説明がなされた。

虫上氏によると、クルマの知能化にはデータが不可欠だとし、急制動や急ハンドルといったヒヤリとする場面を多く収集、探索、機械学習させることで、安全性が高まっていくという。

かつてはこのサイクルを回すのに約20カ月を要していたが、現在はお客様のクルマからデータを集め、機械学習させることで「20倍の速さで認識性能を高めることができるようになってきた」と技術の進化を解説した。

さらに、認識性能の向上により、危険の早期発見や回避につながっている実証結果を示した虫上氏。

一方で課題も。

「知能化」の進化は、造り手だけではなかなか実現が難しい。やはり多様性のある使い手、お客様のデータが不可欠です。一方、お客様のプライバシーの確保など、非常に難しい側面もあります。そのため、「一緒により安全・安心な社会をつくりましょう」という考えに共感、信頼、参画していただけるかが鍵を握ると考えています。

もう一つの課題は「コスト」です。車両側にはデータの送信機、コンピューティングパワー、メモリの容量。さらには画像を送信するための通信費、それを処理するクラウド側の費用など、クルマのコストは年々大きくなっています。

この課題について、豊田中央研究所の古賀伸彦CEOから、お客様の参画についての具体的なハードルを尋ねられると、「最近はデータプライバシーの話もセンシティブになっているため、『ちょっと(データを提供するのは)嫌だな』という傾向が増えてくるかもしれない」と懸念を示した。

古賀CEOも「550万人のいろいろなステークホルダーが、社会をあげて知能化というサイクルを回し、『より安全な社会を実現する』ということを発信していく。これが不可欠」と応じた。

また、三井住友海上火災保険の舩曵真一郎社長は、保険会社に期待される役割について質問。お客様の積極的な参画を促すために、「安全運転を実践するドライバーには、何らかのインセンティブが出せるのではないか」という点で虫上氏と意見をそろえた。

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