「『もっといいクルマ』ってなんだろう」変わってきたモノづくり

2024.06.28

株主が抱える不安に、各現場のトップが示した決意。それは豊田章男会長から受け継いだ「もっといいクルマづくり」への想いでもあった。

2024年の株主総会特集は今回が最終回。最後はトヨタのクルマづくりの観点から新郷和晃 執行役員、山形光正プレジデントの回答を振り返りたい。

「どのような気概で、これからもクルマ好きがワクワクするような開発をしていくのか」。認証問題などで不安を抱く株主。生産トップ(Chief Production Officer)を務める新郷執行役員が、過去にプリウスの開発主査だった経験も踏まえて応えた。

もっといいクルマづくりに終わりなし

新郷 執行役員

私のクルマ開発に対する想いを少しお話ししたいと思います。

私は、この会社に入って長らくクルマを開発してきましたが、ここ15年ぐらいで(トヨタのクルマづくりが)大きく変わってきたんじゃないかなと思っています。

会長の豊田(章男)が「もっといいクルマをつくろうよ」、「その地域いちばんのクルマをつくろうよ」そんな想いを投げかけたところが大きな変化点だったとつくづく感じております。

それまでは機能ごとの組織でした。

工場は「つくりやすいクルマをつくろうよ」、経理は「儲かるクルマをつくろうよ」。そんな機能別の組織だったような気がします。

しかし、「もっといいクルマをつくろうよ」という投げかけをもらったときに「『もっといいクルマ』ってなんだろう」と全員で考えました。

お客様の気持ちになって「もっといいクルマ」をつくっていくためには、何が必要なんだろう。

そう考えていく中で、同時にカンパニー制がスタートして、先ほどの機能軸から全員が商品を考えるようになって「自分は商用車だけを考えていく」、「自分はレクサスだけを考えていく」、「自分はコンパクトカーだけを考えていく」――。そんな商品に集中して考えた結果、今のもっといいクルマづくり、地域の皆さんに喜んでいただけるようなクルマが少しずつできてきたんじゃないかなと思います。

現号のプリウスを開発したときのエピソードを少しご紹介させていただきます。今のプリウスは会長からは「ハイブリッドはもう一般的になってきたし、もうコモディティになってきたし、タクシー専用車でいいんじゃないの?」そんな意見をいただきました。

一方、私たち開発陣は、「ハイブリッドが熟成してきたからこそプリウスにしかできない『もっといいクルマづくり』があるんじゃないか、それにチャレンジしたい」(と思っていました)。

喧嘩じゃないですが、議論のなかで仕上がったクルマを、最後に会長に見ていただいて、「それをみんながつくりたいんだったらつくっていこうよ」と(応えていただいた)。

そんな会話を、トップと実務のメンバーができる会社に、もっといいクルマづくりを通じて変わってきたなと思っております。

トップと現場が本音の会話を通じて進める「もっといいクルマづくり」。プリウスと同じく2022年に世界初公開されたクラウンもまた、そうして生まれたクルマだ。

同年末に放送された第1回のトヨタイムズニュースでは、豊田会長とMid-size Vehicle Companyプレジデントの中嶋裕樹 取締役副社長、富川悠太キャスターがプリウス・クラウンの開発を振り返っている。そこでは、当初クロスオーバーだけだった「新しいクラウン」が、豊田会長の試乗を経て、セダンを“追加オーダー”されたこと、対して、中嶋プレジデントと開発陣も、スポーツとエステートも上乗せして提案したことが明かされている。

豊田会長は、これを「悪ノリ」、「正直驚いた」としているが、中嶋副社長は「(開発陣の)エネルギーが爆発した瞬間だったと思う。こういう会話をさせていただける関係になったからこそ」と語り、「ずっと社長が言ってきた、『もっといいクルマをつくろうよ』ということがやっと理解できた」と続けている。

こうした経緯を経て誕生したプリウスとクラウン。こちらは2023年のラリー北海道を生放送したトヨタイムズスポーツでの一幕。豊田会長が、この2車種を引き合いに「もっといいクルマづくり」に言及している。

豊田会長

クラウンは私が勝ったけど、プリウスは私と一緒は嫌だという人たちが勝った。もっといいクルマづくりでそういう話し合いができる、商品を軸にした会社になれたことは、僕はいいことだと思っているんです。

もっといいクルマをつくるぞと言ったときに、「モリゾウさんにとって、いいクルマって何なんですか?」とよく聞かれました。「そんなの自分で考えなさいよ」としか答えていませんでした。

でも、そのおかげで、自分が考えるもっといいクルマというものがいっぱい出る会社に、14年はかかりましたけど、できたような気がします。商品軸で経営をしていく、現場が大事というところは、絶えず継承しなきゃいけないと思っていますから。

豊田会長がブレない軸として定め、現執行メンバーに受け継がれる「もっといいクルマづくり」。株主総会では、新郷執行役員が次のように回答を締めくくった。

「もっといいクルマづくりに終わりはないと思っています。皆様にもっと喜んでいただける、待っていて良かったと言っていただけるクルマを、全社一丸となって引き続きつくっていきたいと思っています。」

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