トヨタイムズニュース
2023.02.03

バトンタッチは爆音の中で 豊田社長が選んだ佐藤恒治次期社長

2023.02.03

「社長やってくれない?」と内示を受けたのはサーキット。「チーム経営」を掲げるニューリーダーの生放送の7つのシーンを振り返る。

「分からないけれど、まずやってみる」

シーンⅤ:報道陣に「豊田社長から何を学び、糧にしていくか」と聞かれ

佐藤次期社長

13年、豊田社長の歩みを見てきて、自分が同じようなことができるとは、正直思っていません。

そう(社長と同じ)でなければならないと思って、自分にプレッシャーをかけていたときに「佐藤は佐藤らしくやればいいんだ」と言われました。

そして、会社の経営を継承するにあたっても「佐藤一人に継承するんじゃない。チームに継承するんだ」と言っていただきました。

「豊田章男塾」とでもいうのか、経営の哲学を13年、ずっと教え込まれて、共通する価値観を持った仲間がいます。

豊田社長がずっと経営の軸としてきた考え方はしっかりと継承して、自分が道に迷ったときに、考え方をブラさないようにしていきたい。

創業者である豊田喜一郎さんも、裾野の広さゆえ「産業報国」という考え方で自動車産業に挑戦をしました。

その創業者の想いが脈々とつながっているのがトヨタの強みだと思います。創業の理念は絶対にブラさないようにして、新しい時代に向けて挑戦をする。

私が豊田社長の下でずっとやってきたことは「分からないけれども、まずやってみる」ということです。

やってみると景色が変わります。変わった先にまた違う景色が見える。この繰り返しなんです。「考えていたり、会議をやっていても何も前に進まない。まずやってみよう」という精神でやってきました。

それから豊田社長は「失敗していいよ」と言ってくれます。エンジニアにとって、失敗は本来してはいけないことです。失敗をしないように技術開発をしていくわけです。

ただ、失敗をしない技術開発は挑戦の手が緩むんです。限界ギリギリまでの挑戦ができないんです。

限界までやる=失敗のリスクを抱える。でも、その限界までの挑戦がなければ、新しいものは生まれない。

そういう環境の中で「失敗をしていいよ」と言ってくれるトップが、13年間トヨタを守ってくれていたというのは、非常に大きなトヨタの財産だと思っています。

そういった行動の規範、考え方はしっかりと継承して挑戦を続けたいと思っています。

「『もっと』には『限りなく続く挑戦』の意味がある」

シーンⅥ:報道陣から「モビリティ・カンパニーへの変革へやらなければならないことは?」と聞かれ

佐藤次期社長

我々の原点の想いは、商品のクルマで、お客様の「幸せの量産」をしていくということです。

「幸せの量産」にゴールはありませんし、どこまでいったら完成なのか、答えはありません。「もっといいクルマづくり」の「もっと」には「限りなく続く挑戦」の意味がこめられていると思っています。

「モビリティ」を考えていくことが新体制のテーマですが、「モビリティが何か?」と考えると「MOVE」。「人」あるいは「心」を動かすものすべてを、ソフト・ハードで実現していくことだろうと思います。

商品の魅力の原点であるクルマそのものの素性を磨きながら、より多くの価値を付け加えていく。

ソフト・ハード両面で、まだまだやることがあると思いますし、クルマ自身が社会システムの一員として、これからも世の中に認められるものであり続けなければならないと思います。

エネルギーセキュリティのような、地球規模で向き合っていくべき課題もありますし、カーボンニュートラルの取り組みも、1つの事例だと思います。

社会システムの一員となる進化をクルマに付け加えていくことを、クルマの価値を忘れないようにしながら考えていくことが、これからの我々の仕事だと思っています。

「道楽とは道を極めること」

シーンⅦ:報道陣から豊田社長へ「次期社長へのアドバイスも兼ねて、攻めと守り、どういうバランスで取り組んできたのか教えてほしい」と質問され

豊田社長

やはり、正解がない時代だったと思います。見本もない。ですから、ただ情熱を持ち、努力し、行動して、失敗しながら道を選び、なんとか生き残ってきたのが、私の危機対応だった気がします。

そこで学んだものを、1つずつビジョンに残していくということで、絶えず世の中の変化、いろいろな方の言動、自動車業界の動向などに一瞬たりとも遅れをとらないよう、センサーを高くしてやってきたんです。

ですから、「創業以来のトヨタらしさってこうだったんじゃないか」とか「自然災害の優先順位はこうじゃないか」と、トヨタの社長というより、ひとりの人間としての常識で判断してきました。

それが「トヨタらしさ」「トヨタの競争力」を強くしてきたのかなと思っています。

私が社長になって言われたのは「社長なのにクルマに乗って道楽だ」ということでした。

ところが、豊田喜一郎が残した言葉の中に「この自動車が今日ここまでになるには、一技師の単なる道楽ではできません。幾多の人々の苦心研究と各方面の知識の集合と長年にわたる努力と幾多の失敗から生まれ出たものであります」というものがあります。

私自身、何度もここに立ち戻りました。

最近知ったのは、「道楽」という言葉は「仏様の厳しい修業に耐え、世の中のすべての苦しみから解き放たれた自分の境地を楽しむ」という仏教用語らしいんです。本来は悪い意味ではなく「道を極める」という意味に近いと、理解をしました。

マスタードライバー「モリゾウ」と佐藤新社長の共通点は「道を楽しめるクルマづくりを目指している」ということだと思うんですね。

先ほどの(テストコースを走っていた)ビデオでも、2人であの笑顔になっているシーンはつくったのではなく、いわば「道楽」そのものなんじゃないかと思います。

「マスタードライバーが笑顔になれるクルマをつくりたい。それが一番の原動力だ」と言ってくれる佐藤のようなリーダーがいる会社にもなったわけです。

そして、彼を支えるチームもいるので、私が会長になっても「道楽」をする仲間がたくさんいるんじゃないかと思っています。

私は今も、これからも、一人の「クルマ好き」「運転大好き人間」として、もっともっと楽しんで道を走り続けるつもりです。

今後、佐藤新社長を中心にした新チームが、どんな道に挑戦し、どんなクルマをつくってくるのか、そして、その先にある未来のモビリティとは何なのか、その実績を見ながら、是非、応援いただきたいと思っています。

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