2019.03.06

「異例の展開」~埋まらぬ溝~ トヨタ春交渉 2019

第3回目の労使交渉が行われた。

今回は「仕入先を含めたオールトヨタの競争力強化」、「各職場の組合員がまだ腹落ちできていないこと」、「賃金・賞与」について、労使で議論を重ねた。

労使でのやり取りが続く中、組合が職場の声を紹介する映像を見せた時、社長の豊田の顔が曇った。この映像の中では「プロの具体像が見えない」という組合員の声があった。裏を返せば、職場の上司は目指すべきプロではないということである。

この後も話し合いは続くが、豊田の表情は変わらない。
表情の真意を確かめるため、組合から豊田にコメントが求められた。

トヨタの労使交渉において、社長は組合と会社のどちらにも属さず、話し合いの行方を見守る「行司役」である。行司役である社長に対して、組合からコメントを求めるということはこれまでにない異例の展開である。

組合からの求めに応じる形で、豊田は自分の感じたことを率直に表現した。
豊田の発言後、場の空気が一変することになる。
それは、組合員だけではなく、会社(マネジメント)にも向けられたものであった。

オールトヨタでの競争力強化

「オールトヨタでの競争力強化」というテーマは、今回の労使交渉のポイントになっている。これまでには、「開発・生産部門のホーム&アウェイ」、「仕入先との関係」といった観点から話し合いが続けられてきた。この日は、国内営業部門での事業移管について、組合から不安の声があがったものの、副社長の小林は、むしろ外に出ることは強みになると語った。

==組合==

「私の所属する国内営業の法人事業部は、2019年4月にトヨタモビリティサービスという会社に事業移管を行い、組合員も出向する。社外に行くことで、トヨタ社内から協力を得ることが難しくなってしまうのではないか、それによってお客様に私たちが提案できる嬉しさ(商品・サービスとしての魅力)も弱くなってしまうのではないか、という声もある」

==小林副社長==

「不安もあります。でも、これは夢だと思ってほしい。勝負はやっぱり外。広く、深くアンテナを張って頑張ってほしい。トヨタ自動車にへばりついていることが正解とは、私は思っていない。どんどんチャレンジしていこうと、社長も昔から言っている。へこたれる時があるかもしれないが、困ったら何でも言ってほしい。もっともっと外に向かってほしい。情報は(外に)いっぱいあるはず。そこに気付かないと、会社を作った意味がない。頑張ってほしい」

労使のギャップ

この後、プロ人材を目指す上での具体的な取り組みである「能力マップ」と、「技能系ベテラン従業員のモチベーション」について提言があった。この2つは前回も議論になったことだが、組合の発言に対し、会社からは厳しいコメントが続いた。

==組合==

「技術分野のように、求められる能力が変わっていく職場においては、『能力マップが日々変化してしまわないか?』といった、運用に対する疑問や不安の声が挙がっている。能力マップを導入する時に、どのようなイメージを持っているか」

==友山副社長==

「基本的には、まずやってみる。それが、そもそものトヨタの文化じゃないのか。やってみないうちに、『メンテナンスが面倒だ』ということ自体、少しおかしいと思う。能力マップは、現場はみんなやっている。なぜなら、量と種類の変動に対応し、工程編成が常にある中で、『その工程に必要な技能』を明確にしていないと、とてもじゃないがクルマづくりはできない。おそらく事技系(事務・技術系職場)においても同じだと思う。その職場にどういう能力が必要で、各人が『Aなのか、B・C・Dなのか」というのは、ある程度、精密に把握していないといけない」

==組合==

「第2回の交渉で、長期間『EX級(班長級)』として働いている組合員に対して、希望者には技能向上の教育の機会が与えられ、身に着けた能力を職場で発揮できるようにすると回答をいただいた。感謝している。各職場で、働き方、求められる役割、能力は様々である。それぞれの職場でミドルマネジメントの方々に、ベテランのEXがモチベーション高く働けるように、激励やサポートをしていただきたい」

==寺師副社長==

「モチベーションの話は前回までも出ており、業務職(一般職)の方の話もあった。サポートは一生懸命するけれども、本当に『生きるか死ぬか』の時に、『モチベーションが上がらないので激励してほしい』という次元の話ではない。もっと先の議論をしていなかければいけないのに、議論を重ねていくと、いつもこうなってしまうのは、なぜだろうと思っている」

「『モチベーション上がりませんけど』と議題になること自体、まだ僕たちは緊迫感が持てていないのではないか。(これは労使交渉の)1回目も、2回目でも言い、今日もまた同じことを言っている。入口はそれらしい議論になっているのに、なぜ少し議論が進むと、いつもこんなことに陥るのだろうか。これが我々の中での一番のリスクではないか」

賃金・賞与

前回、交渉の最後に西野委員長から「もう少し理解を深めたい」と発言があった、「賃金・賞与」についても、改めて組合から確認があった。

==組合==

「前回、プロを目指して成長し続ける人に報いたいという説明があった。現在の人事制度と、(新たな)仕組みとの関係について聞きたい。また、見直しは2~3年かけて考えるということだが、今回(の回答)に向けて考えていることとの区分けを教えてほしい」

「『一律ではなく』という発言が賃金、一時金についてあった。賃金について、改善分の配分が無い人、ゼロの人、そういう職層があるということであれば、我々はみんなで頑張っていきたいと思っており、一人も欠けることなくやっていきたいというのが組合の姿勢」

==桑田副本部長(総務・人事本部)==

「これまで議論している通り、『もっと頑張りたい、もっと成長したい』というメンバーのやる気を引き出せる、報いるということが、全体の処遇の枠組み。賃金について、そもそも相当高いレベルにある中で、競争力の観点を踏まえ、賃金制度改善分を全員一律に引き上げるという必要性は、これから良く考えていかなければいけない。やはり改善分に関しては、プロを目指す人、これまで頑張ってきたが、しっかりと報えなかった人、そういった方々にまずは使っていくということではないか」

「期間従業員からの登用者やチームリーダーの頑張りをどう引き出すか。65歳まで頑張っていただく方、業務職、高卒・高専卒の方々(も含めて)ということ。これは一律に上げよう、ということではない。こういった方々に対しても、やる気がより出る、頑張る方が、より頑張ろうと思えるような制度を作っていきたい。一番大事なのは運用だと思っており、一人ひとりをしっかりと見ていく。きちんと評価し、フィードバックをしていくことで、さらに頑張ろうと思える形にしたい」

「賞与についても、基本的には(賃金と)同じ考え方。オールトヨタの中でも特に高い水準と認識しており、全員一律の配分という考え方だけではなく、全ての職種において、頑張った人、成果を出された人に配分していくような形を考えていきたい」

==上田執行役員==

「今まではどちらかというと、人事考課は会社の専権事項として決めていた。今後の見直しにあたっては、評価もどうしていくか、そこが腹に落ちないといけない。工長や組長には(部下に)フィードバックしていただかないといけないので、ぜひ一緒になってやりたい。組合員の皆さんともう一回、今の制度がどうなっているかを棚卸し、変えるべきところを変える、守るべきところを守っていきたい」

==組合==

「制度を変える時は、制度の納得感、どういう狙いで変えるのか、ということを職場とキャッチボールすることが大事だと思うので、そういうことも含めてやっていきたい。やはり組合としては、賃上げを考える時に、『あなたは関係ない』とはしたくはない。頑張っていない人、頑張れていない人、頑張りが認められない人も、『一緒に頑張ろうよ』ということで声を掛けてやっていきたい」

埋まらぬ溝

記事の冒頭でも触れた通り、話し合いの中で顔を曇らせる行司役の豊田に対して、組合がコメントを求めるという異例の展開となった。そして、豊田は率直に「今回ほど距離感を感じたことは無い」と伝えた。ただし、これは「組合と会社」との関係だけを意味したのではなく、会社の中でも「トップとマネジメント」の間に「溝」があることを伝えたのであった。

==組合==

「社長は『行司役』なので、このタイミングで伺うのが良いのか(わからない)。社長の反応が『違うんじゃないのか』、『あれはおかしいんじゃないのか』と首を傾げたりするリアクションを見て、やはりモヤモヤを持ったまま、この会場を出ることはできないと思っている。少し感じているようなことで、このタイミングで『話してやろう』ということがあれば、お話いただけるとありがたい」

==豊田社長==

「今の段階で素直な感想を言うと、私は今までずっとこの労使協に出ているが、本音の話し合いは進んだと思う。でも、今回ほど、ものすごく距離感を感じたことはない。こんなに噛み合ってないのかと。赤字の時も、大変な時も、従業員に自分は向き合ってきた。自分は一体何だったのだろう。これは、背中(会社)にも言っており、こっち(組合)にも言っている。私が(労使交渉の)最初に言ったように、『トヨタとやはり一緒に仕事をしたい』という会社になっているか。やる気のある人もいる、この会社には。やる気がある、ただ、やり方が分からない人がいる。その人たちには、セーフティネットを与えたい」

==西野委員長==

「第1回の労使協において、社長から『トヨタで働く人は常に変わり成長し続けてほしい。その上で取り組む上での壁だとか困りごとに対して、率直に会社にぶつけてほしい』と言われた。我々も今回の労使協では、そうしたことを含めて本音の議論をしていきたいと、これまでとは違うスタイルで進めてきた。各職場でも競争力強化に向けて様々な議論を重ねてきた。社長が言う『本音の議論はできているけどまだまだ』といった所にギャップはあるが、決してトヨタの置かれた状況を軽く見ている人はいないと思っている。こうした議論はしっかり職場に持ち帰り、展開する。今日も再三言われた『生きるか死ぬか』の状況で、会社からは大変強い危機意識を伺った。しっかり組合員と共有してまいりたい」

次回の労使交渉は3月13日(水)を予定している。