トヨタイムズ

水素の疑問に答えます

特集 2021.06.30 UPDATE

INDEX

その発表からわずか1カ月。5月に富士スピードウェイで開催された「スーパー耐久シリーズ2021」の24時間レースに、水素エンジンを搭載した車両で出場し完走を果たしたことは、それが世界初の試みであり、水素の可能性を水素エンジンでも証明してみせた事例として世界中で報道された。

一方、すでに市場投入された2世代目となるMIRAIは、燃料電池自動車(FCEV)、つまり水素による電気エネルギー駆動車の高いパフォーマンスを実用域で証明してみせている。

そうしたことを踏まえて、水素やMIRAIについての自社アンケート調査(MIRAI発売以降から水素エンジン車の発表以前に実施)を見ると、ポジティブな声が増加している一方で、「水素は爆発するのでは?」「高価なのでは?」などのイメージがあることがわかった。

そこで、トヨタイムズでは、引き続きカーボンニュートラルの取り組みを取材する中で、今回は“水素”をテーマに、さまざまな疑問を解説していく。

水素は安全ということを証明する意味で、先の耐久レースに豊田社長が自らドライバーとして参戦した。水素の特徴を知れば、安全に使う方法が見えてくる。

FACT 1.水素は発火温度が高い

水素は危険というイメージをもつ方は現在も多いが、結論から言うと、水素はガソリンや石油などと同様に、正しく扱えば安全である。

物質の性質の一つに発火温度があり、水素の自然発火する温度は527℃と、発火点300℃のガソリンよりも高く、自然には火がつきにくい物質である。

FACT 2.水素は軽いので火がつきにくい

なぜ軽いことが理由で火がつきにくいのか。

水素は可燃性ガスなので、ある一定の条件下では火がつく。

しかし一方で、水素はすべての物質の中で最も軽いという性質も持っている。空気と比べると約14分の1という軽さである。

万が一漏れても空気中で拡散しやすく、すぐに薄まってしまうので、空気中の水素に火がつく条件にはなりにくいと言える。

水素は正しく管理することで安全に利用できる

水素を安全に扱うために、さまざまな研究・試験が実施されてきた。それを基に、水素の取り扱いには「漏らさない」、「万一漏れても直ちに漏れを検知して止める」、「漏れても溜めない」という水素取り扱いの3つの基本的な考え方がある。

トヨタのMIRAIについても、通常のクルマと同様に厳密な安全基準に基づいた安全対策を実施している。

さらに、乗員および燃料電池・高圧水素タンクを守る衝突安全ボディの追求と、FC(燃料電池)スタックの保護構造を採用。3つの基本的な考えに基づき、開発やメンテナンスサービスに織り込み、万全の対策を実施している。

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月の24時間レースでもこの基本的な考え方に基づいて、レース中のトラブル対応や給水素の方法が検討されていた。

例えば、車内に水素漏れセンサーを設置したり(走行中に一度反応があったためピットインの上で確認対応した)、ピットイン中、もしタンクから水素が漏れていたら停車中は空気が抜けていかないので、掃除機で「水素が万一漏れているかもしれない空気」を吸って抜くという対応をしていた。

カーボンニュートラルに向けた取り組みで水素が注目されている理由の一つに「エネルギーを貯めて運べること」がある。水素をどのように運んでいるのか、見てみたい。

FACT 3.水素は極低温で液体にして運搬できる

水素の運搬方法はいくつかあるが、その一つとして水素を液状化させて運ぶ方法がある。水素は−253℃という極低温にすることで液体となり、体積は気体の1/800となるので、より多くの水素を運ぶことができるというメリットが生まれる。

運搬方法は目的とコストに応じて最適なものを選べる

水素の運搬方法は使い方やコストに応じて他にも3つほど運搬方法がある。

まず一つ目は、高圧で圧縮して運ぶ方法。この方法は、高圧の水素タンクを積んだ専用のトレーラーで輸送するというもの。気体をタンクに圧縮して運搬する方法は既に家庭用プロパンガスなどその他の気体でも研究されてきた技術。ただし、大量輸送となるとその容量に課題がある。

二つ目はパイプラインで運ぶ方法。都市ガスのような水素専用のパイプラインで運ぶ方法は、設置に費用がかかるので、現在は近距離で利用されている。

三つ目は水素を他の物質に変換して運ぶ方法で、水素を利用するときに再び水素に戻すという仕組み。例えば水素を含むアンモニアなどで運ぶ場合、温度も圧力も変えずに一般的なタンクローリー車などで運べるのがメリット。コストが最大の課題とされる。

これら運搬方法は、目的、コスト、インフラなどによって選ぶことができるが、カーボンニュートラルを目指す際には、運搬時のCO2排出量をゼロにしなくてはならないという課題もある。

FCEVでの移動に不可欠なのが燃料となる水素。アンケート調査でも「水素はどこで充填できるのか」「充填の方法がわからない」と回答される方が多かったのも事実。現在、整備拡大中の水素ステーションの解説を行う。

FACT 4.水素ステーションは現在、全国147箇所。2030年には1000基を目標

水素ステーションは現在、国内に計147箇所あり(20216月現在)、2030年には1000箇所を目標としている。自宅の近くに水素ステーションがあれば、MIRAIは使いやすく、身近な存在になる。水素ステーションの整備拡大に合わせて、FCEVの保有台数を増やしていくことも大きな課題だ。

FACT 5.水素タンクは満タンまで約3分程度

MIRAIなどFCEVの燃料充填は水素ステーションで行う。水素ステーションは、ガソリンスタンドのような形態となっており、水素を適切な圧力に上げる圧縮機、水素を貯めておくタンク(蓄圧器)、水素を冷やすプレクーラー、水素を充填するためのディスペンサーで構成されている。

水素ステーションでの充填は資格を持った専門のスタッフが行うので、車内で少し待つ間に完了する。時間にして3-5分ほど。水素タンクの空き容量にもよるが、充填時間はガソリン車と比べてもほとんど変わらない短さである。

また、専用スタッフだけではなく、一部地域ではセルフ充填のトライアルを行っているので、今後ガソリンスタンド同様に使いやすくなっていく可能性がある。

水素をエネルギー媒介としてそこから電気を取り出すというMIRAIだが、既出の調査によると、気になるはそのランニングコスト。

ガソリンと比べて水素は安いのか? 高いのか?イメージがつきにくい方も多いというのが現実の様子。果たして水素の価格は?そして燃費は?

FACT 6.水素ステーションでの販売価格はおよそ1100円/kg(税別)

水素の価格は現在のハイオクガソリンと同じくらいの価格となる。都内で営業している水素ステーションでは1100/kg(税別)〔2021年6月現在〕程度で充填が可能。国の水素基本戦略のシナリオでは2030年には水素のコストを3分の1程度まで下げる方針で進められている。

ちなみにMIRAIの水素タンク総容積は141ℓ、約5.6㎏分の水素を貯蔵可能。日常的にはおよそ4〜5㎏の水素充填で約5000円(税別)前後で満タンのイメージだろう。

FACT 7.新型MIRAIの航続距離は約850㎞

新型MIRAIが一度の充填で走行できる距離は約850km※と初代より30%ほど伸びている。つい最近では、フランスで1回の充填で1000km走行したというニュースもあった。

また、本記事の掲載1日前には、日本の自動車ジャーナリストが無充填走行にチャレンジして、さらに記録を更新したというニュースも届いている。2007年に当時のクルーガーベースのFCEVで東京大阪500kmを走破。この14年をへて、航続距離が倍近く伸びている。

なお、頻繁に映像でも流れ、記憶にも新しいのが24時間レース時に水素エンジン車が何度も水素充填作業を繰り返していたこと。当然「水素エンジン車は燃費が悪いのか?」と疑問を持たれた方も多いだろうが、実は水素充填に使用されていた給水素車とその充填マシン、車両側のタンクにまだまだ改良の余地が残っていることがわかっている。

現段階での航続距離ではFCEVに軍配が上がるが、今後の技術の進化や、水素戦略もさらに進歩していくだろう。

※G “Executive Package”、G “A Package”、Gの場合。JEVS Z 902-2018に基づいた燃料電池自動車の水素有効搭載量[kg]と、WLTCモード走行パターンによる燃料消費率[km/kg]とを乗算した距離であり、水素ステーションの充填能力によっては、高圧水素タンク内に充填される水素搭載量が異なり、お客様の使用環境(気象、渋滞等)や運転方法(急発進、エアコン使用等)に応じて燃料消費率は異なるため、実際の距離も異なります。

従来のガソリン車はCO2を出すため、水素をエネルギー由来とするMIRAIに関しても環境やエコに関しての声が多く寄せられた。

そんな疑問に対しては自動車業界だけではなく、政府や仲間の相互協力のもと解決していかなくてはならないもう一つの課題であり、希望を含めてまとめた。

FACT 8.MIRAIは走行中の二酸化炭素の排出がゼロ

従来のクルマはエンジンにガソリンと空気を入れて爆発を起こして動かすので、CO2を出すが、MIRAIは水素と酸素を取り込んで、電気を作って走るので、走行時にCO2を出すことはない。出すのは酸素と結びついた水のみ。

また、先の24時間レースに参戦した水素エンジンもガソリンとミックスしない純度100%の水素を燃焼させて走行するので、MIRAI同様に走行時にCO2はほとんど出さない設計となっている。

つまり水素そのものの活用時の視点に立てば、CO2の排出量はゼロと言って過言ではない。

ただし、走行時はCO2ゼロでも、水素を作る過程や、輸送、さらには車両の製造や輸送、廃棄までのライフサイクルアセスメント(LCA)でみるとCO2を排出してしまっているのが事実。そうしたLCAの観点からだと、まだまだ解決しなければならない課題がある。

HOPE 1.使われるのはグリーン水素が望ましい

現在、日本を含めて世界でもっとも使われている水素は、グレー水素と呼ばれるもの。水素は製造過程のCO2発生有無や、発生した場合の処理方法によって、グリーン水素、ブルー水素、グレー水素と呼び名が分けられる。

グリーン水素とは、温室効果ガスを出さずに作られた水素。主に太陽光や風力などの再生可能エネルギーから作られる。

ブルー水素とは、大気中にCO2を出さない水素。作る際に出るCO2を集めて貯蔵し、地中深くに埋める方法で回収したCO2を有効に使用するものもブルー水素と呼ばれている。

グレー水素とは、天然ガスや石油などから作られる電気を使って作られる水素で、大気中にCO2を放出するもの。世界で作られる水素の約95%がグレー水素と言われている。

こうしたことから、水素の中でも今後はグリーン水素を主軸として使うことが望ましい。LCAで見たときにCO2排出が少なくなるよう、再生エネルギーの比率を上げること、その際に水素を活用していくことが解決の一つになる。

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