「会社」、「組合」双方が覚悟を見せた労使協議会が幕を閉じた。厳しさを増す自動車産業の中で、将来も生き残っていくために一人ひとりの意志と行動を成果につなげていく。
「私たちの頑張りは、自動車産業を、そして日本を、もっと元気にすることにつながっています。その使命感を持って、みんなで一生懸命働こう!」
1カ月にわたって話し合われた労使協議会(労使協)が3月18日、回答日を迎えた。
設備停止やプロジェクト遅れで、お客様の元にクルマを届けられない悔しい胸中を吐露した組合。組合の想いを受け止め、やめること、変えることの踏み込んだアクションを提案した会社。
厳しい現実を直視し、現場で技を磨き、覚悟を持って行動に移していくことを確かめ合った今年の労使協。
鬼頭圭介 委員長は「お互いの本音を率直にぶつけ合ったことで『会社』『組合』という垣根を越え、全員が一丸となって取り組むという、トヨタの強みである『チームワーク』を改めて再確認することができた」と振り返った。
組合からは、長年動かなかった業務のムダの見直しや、AIを使って創出した時間を用いて各自の技を考え、磨いていく動きが見え始めているという。
佐藤恒治 社長、近健太 執行役員、鬼頭 委員長、河合満おやじ、4者のコメントを紹介する。
AI時代に必要なことは挑戦する力
佐藤社長
回答を申し上げるにあたり、私からも、まず本年の労使協議を振り返りたいと思います。
鬼頭委員長が言われたように、今年の話し合いは、職場の現実に向き合いながら、自動車産業が置かれた厳しい事業環境、危機感を共有するところから始まりました。
かつてないレベルでの生産性向上なくして、私たちは生き残れない。会社の規模が大きいからこそ、気を抜けば、一瞬で稼ぐ力は失われてしまう。
こうした危機感だったと思います。
今、求められている生産性向上は、一部の人の頑張りだけ、今頑張っているやり方だけでは届きません。
だからこそ、一歩も二歩も踏み込んで、仕事の前提条件を変える。自分たちの「技」をもっともっと磨いていく。
その覚悟を行動に変えていくための話し合いであったと思います。
第1回の話し合いで、組合の皆さんは「クルマをしっかりつくれていない」ことの悔しさ、悩みや葛藤とともに、自分たちの意識や働き方を変えていく。その覚悟を伝えてくれました。
しかしながら、第2回の話し合いで私たちが直面したのは「労使の話がかみ合わない」という現実でした。
会社も組合も、自分たちが伝えたいことを言い合うことに終始してしまい、会話ができていなかったと思います。
何をどこまでやるのか、会社側に具体性と覚悟が足りていなかったように思います。
(しかし)あれが今の私たちの実力なんだと思っています。やることを決めるためには、何かをやめるという覚悟が必要です。そこには、いろいろな迷いがあるはずです。
マネジメントのやるべきことは、それを素直に伝えたうえで、労使で一緒に悩むことだったのではないかと思っています。
2019年の労使協議で、私たちが豊田会長から学んだことは「家族の会話」の大切さでした。
まずは、相手の悩みに耳を傾けて、現実に起きていることをしっかりと受け止める。すぐに答えが出ないものは、時間をかけて、ともに悩み、ともに現状を打開するやり方を模索する。
この「家族の会話」ができていなかったという点は、労使ともに大きな反省だと思います。
第3回の話し合いでは、その反省を胸に、労使双方の踏み込んだ意志とアクションを確認し合うことができました。
そのうえで「技がなければ生き残れない」という本質的な課題に全員で向き合うことができたと思います。
そして、この1週間。職場ごとに、さらに話し合いを実施して、労使協議で確かめ合った想いの共有をさらに図っていただきました。
ある職場では「もうスローガンはやめて、具体的な行動に移りましょう!」現場のメンバーがそんな想いを伝えてくれたと聞いています。
意志ある皆さんの想いと行動によって、全体の熱量も着実に高まってきていることが確認できました。
労使一体となって、生き残りをかけた覚悟を行動につなげていく。これまでの話し合いを通じて、この点において、何をどこまでやるのかも含めて、ようやく労使共通の理解に立てたのではないかと思います。
これら3回にわたった話し合いを踏まえて、組合の要求に対する回答を申し上げます。
本年の賃金・賞与は「組合の要求通り」といたします。
柔軟な勤務体系の導入をはじめ、話し合いの中で決めてきた「意志ある人の頑張りを後押しする施策」は、速やかに実行に移します。あわせて、現場のめんどう見やチームワークを支える場づくりの一環として、10月より食堂の価格を半額程度に見直します。製造現場をはじめ、多様化するメンバー間のコミュニケーションを増やす一助にしてほしいと思います。
なお、幹部職・基幹職については、昨年見直した評価制度のもと、行動する人の背中をもっとはっきりと押せるように、今まで以上にメリハリのある評価を徹底していきます。
今、自動車産業は、生きるか死ぬかの戦いに直面しています。そんな中で「要求通り」という回答をすることによって「トヨタは大丈夫」という慢心が生まれないか…。
正直申し上げて、心配もありました。
しかしながら、今必要なことは、全社一丸となって、厳しい見通しの未来の姿を変えていくことだと思います。
だからこそ「『もっと頑張りたい』という現場の皆さんの想いにしっかり応えたい」。そう考えました。
そして前回申し上げたとおり、日本が成長していくためには、生産性向上が必要なんです。
私たちの頑張りは、自動車産業を、そして日本を、もっと元気にすることにつながっています。
その使命感をもって、みんなで一生懸命働こう!
今回の回答には、こうした想いを込めました。皆さん一人ひとり、今一度、トヨタの労使協議の意味を考えてほしいと思います。
労使協議は、終わりではなく、スタートです。話し合いを踏まえて、本日から、みんなで行動を変えていきましょう。
すぐに解決できない問題もたくさんあると思います。マネジメントの皆さんには、もがきながら、勇気をもって一歩を踏み出す。そんな背中をもっと見せてほしいと思います。
皆さんの背中を見て「よし!自分も行動しよう!」と奮起する仲間が必ずいるはずです。
そして、全員で自分たちの「技」に真剣に向き合っていきたいと思います。AIの時代に必要なのは、人にしかできないことに挑戦する力です。
その力は、現場での実践や失敗を通じてこそ、磨かれていくものだと思います。
自らの技は何なのか、悩みながら、一緒にもがいていきましょう。
最後に、もう1つ。
我々がこれから向き合うのは戦いです。戦いに勝つ秘訣は、勝つまで努力を続けることです。その大切さを教えてくれた人がいます。
先日、悲願のWRC初優勝を果たした勝田貴元選手です。なかなか結果が出ず、苦しい時期もありました。
それでも決して諦めることなく、仲間とともに、勝つための努力をずっと続けてきました。結果を出すために、やるべきことを愚直にやり続ける。そんな貴元選手の姿勢から学ぶべきことがたくさんあります。
私たちも、もっといいクルマをつくり、これから向き合う戦いに勝つために、苦しいことがあっても、全員で努力し続けなければならないと思います。
未来を変えていくのは、皆さん一人ひとりの意志と行動です。みんなの力をひとつにできるように、全員で頑張っていきましょう。