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2021.02.24
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トヨタ春交渉2021 #1 分かったつもりになっていたトヨタ

2021.02.24

「自分たちが良ければいい」それはトヨタではない。仲間から「ありがとう」と言っていただける存在へ。

2月24日、トヨタの2021年の労使交渉が幕を開けた。昨年同様、三角形に配置された机で、マネジメント層も加わった全員参加の“話し合い”である。

コロナ禍ということもあり、リモート会議でも多くのメンバーが参加。会社・組合を合わせた約380名による本音の話し合いが行われた。

自動車産業を支える550万人の仲間への感謝。そして論点は、トヨタにとって、従業員一人ひとりにとって、「本当に大切なことは何なのか」。

冒頭に、ある動画が流された。過去2年間の労使交渉を振り返る内容だ。

「自分たちが良ければいい」それはトヨタではない

動画終了後、なぜ冒頭に動画を流したのか、社長の豊田章男が想いを話した。

豊田社長

(冒頭に映像を見ていただきましたが)労使協議会に入る前に、思い起こしてほしいことがあります。

それは、豊田喜一郎をはじめとする創業メンバーの挑戦とは「未来のために、日本に自動車産業をおこす」ことであり、「強いトヨタ」、「居心地のいいトヨタ」をつくることではないということです。

「自分たちが良ければいい」。そう思う人もいるかもしれませんが、それは「トヨタ」ではありません。

今年の話し合いのテーマは明確です。トヨタは、どうすれば自動車産業で働く550万人の仲間から、「ありがとう」と言ってもらえるか。

まずは「自分たちが恵まれている」という事実に気づくことが、最初の一歩になるはずです。

今日(224日)は、偶然にも「トヨタ再出発の日」です。(2010年の)米国公聴会以降のトヨタは、隠したり、ごまかしたりせず、本当のことを正直に話して、生き抜いてきたと思っております。

本年も、正直な、素直な「家族の会話」をしてまいりましょう。

本音で話し合いたい“2つの職場課題”

議論に先立ち、組合の西野執行委員長から、会社と話し合いたい課題が示された。

西野執行委員長

コロナ禍において、改めて自分たちが置かれている環境が当たり前ではないという感謝とともに、今後の変革につながる多くの気づきがありました。こうした気づきも踏まえ、2つの議論をさせていただきたいと思います。

①仕入先や販売店など、関係先と一緒に競争力をさらに高めていくため、それぞれの職場が何をすべきか、どう変わるべきか

②多様な組合員一人ひとりが成長し、最大限能力を発揮することを阻んでいる課題を解決し、一人ひとりが「誰かの役に立つ」ことを実現していく

これらの職場課題に取り組むことが、オールトヨタ、ひいては550万人の仲間と一緒に、前に向かって進むことにつながると信じています。

話し合いのスタートにあたり、労使双方で認識を合わせるため、人事担当の桑田執行役員からトヨタの状況についての説明があった。

・豊田社長の「石にかじりついてでも国内生産300万台を守る」との決定で、他社が国内生産台数を引き下げる中、トヨタは(台数を)維持・向上し、国内雇用も増やしている。

・この10年間、2%以上の組合員昇給率を維持し、従業員全体の平均年収も、高水準かつ安定的に上昇している。

説明を終え、桑田は「550万人の方々から応援されるために、私たちは何をすべきか、真摯に話し合い、行動に移していきたい」と話した。

トヨタは、仕入先に寄り添えているか

トヨタは、仕入先や販売店に出向し、一緒に働かせてもらう中で役に立ち、結果的に自らの成長にもつなげていく研修制度を始めている。

出向先での業務を経験したメンバーから「トヨタは本当に現場を分かっているのか」について、話し合いが始まった。

まず、仕入れ先に出向しているメンバーからのリアルな声が紹介された。

「(仕入れ先の現場では)人員不足で作業者自らが保全対応(設備の保守点検や修理)まで行う」「新たな仕事を始める際、社内にいろんな担当部署がある訳ではない。協力してもらえる業者を自らネットで探し、手あたり次第電話をかける」など、トヨタでの当たり前が、当り前ではなかったとの声である。

また、「仕入れ先にとってトヨタはお客様。“トヨタにモノを言うと、仕事を失うかもしれない”という恐怖心で、言葉に出せない困りごとがたくさんあることにも気づかされた」という声も。

さらに「経験が浅い若手でも、失敗を学びに変えて一人で仕事を進めている。トヨタでは影響が大規模になることを恐れてできない。もっと失敗することを前提に若手に任せる機会を増やすべき」という改善点も見えてきたという。

このような声を聞き、議長の河合はこう話した。

河合議長

去年(2020年)は、140名の人に70社(の仕入先)に行っていただきました。

実は24年前、私が課長になる前に、1年間、派遣研修があり、私もある会社に行くことになりました。現地に送り込まれて「一人でやってこい」と言われました。

作業着を渡され、朝からやるように言われたので、朝6時に行って、現場の人たちに挨拶をして、溶け込んで、教えてもらえるようになるまで頭を下げながらやりました。

そのおかげで、本当にいい勉強になった。

どんな苦労をしているかよく分かったし、仕入先の人たちの温かさ、家庭的な雰囲気など、言い尽くせないくらいの学びを得ました。

レポートを書いているよりよっぽどいい勉強になりました。

それを思い返すと「協力会社、仕入先さんは頑張っている。よく分かっている」とみんな口では言うけど、行ってみないと実際のことは分からない。

そういうこともあって、去年(出向による人材育成制度を)やるぞと言って始めました。

しかし、コロナ禍で受け入れる側も大変で、頭を下げてやってきましたが、何社かには断られました。

「トヨタの人には、いろいろ言われるから来てくれないほうがいい」とずいぶん言われました。それでも「いいよ」と言ってもらえたところで進めました。

途中で私も何社か行きましたが、そこの社長からは「こういう人だったら欲しい。もっと入れてくれ」とありがたい言葉ももらいました。

(研修先からトヨタに)帰ってきてから学びを広げることも大事ですが、やっぱり自分で経験した人をたくさんつくる。聞くよりも体験させる。

今後、特別研修の教育は外でやる。事務(総合職)も含めてやる。技能職などの人たちの(人材の)バンクをつくり、これまで培った能力や知識で、仕入先やいろいろなところで活躍してもらう制度も始めました。そういうことを一緒にやりましょう。

技術を担当する前田執行役員も続く。

前田執行役員

職場を一緒にもっと良くしていくという観点で話したい。

外に学びに行く機会をもらった人について、こういう場で話をすると、みんな「なるほど」と思う。

しかし、せっかくいろいろと学び、聞き、経験をしてきても、元の職場に戻ると、そうではない価値観や雰囲気に飲み込まれてしまっているという現実があると認識しています。

いろいろと経験した人の声を職場でどのように共有するのか、雰囲気づくりを一緒になってやっていく必要があると思います。

多くの方がトヨタにキャリア採用として入ってきています。そういう人から他社の学びも聞けるはずなのに、そのような機会もあまりつくられていない。

トヨタにソフト開発のエンジニアとして入って、あまりにも遅れている開発環境にがく然として辞めた人もいると聞いています。

いかに我々が声を拾い上げきれていなかったか反省をしているところです。

せっかくの外での学びも、上司の一人が聞かなかったら、次の発言をやめてしまう可能性があります。

一緒になってあらゆる層の人が学ぶ。全員が外に学びに行けるわけではないので、「行った人から学ぶ」意識と雰囲気づくりを一緒にやらせて欲しい。

外の視点に立つことで、トヨタを支えてくれる相手にしっかりと寄り添えていなかったことを、労使ともに痛感することになった。

そして仕入先の実情を現地現物で理解し、出向先からトヨタに戻ってからも、学んだ気づきをしっかりと取り入れることの重要性が改めて労使双方で認識された。

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