営業利益3兆円の見通しも示した2023年3月期決算。クルマの電動化が進む中、記者との質疑から見えてきた新経営チームの戦略とは。
5月10日に発表されたトヨタの2023年3月期決算は、増収減益だった。しかしながら、半導体不足の解消に兆しが見えてきたこともあり、2024年3月期の見通しでは営業利益3兆円をはじめ増収増益の数字が並んだ。
トヨタイムズでは決算内容の解説を速報。佐藤恒治社長は、「モビリティ産業への転換を図るために、足元3兆円規模の研究開発費と設備投資をさらに増やしつつ、未来投資の比率を高め、持続的成長につなげてまいります」と今回の成果を受けたメッセージを語った。
また決算報告の冒頭では、4月に発表したダイハツ工業による認証不正問題について、豊田章男会長がタイでも会見を行ったことなどが、佐藤社長から説明された。
佐藤社長によるメッセージ・説明全文はこちら。
今回は、2024年3月期1,010万台の生産見通しや、電動化時代に拡大する中国市場、仕入先との向き合い方などの質問が寄せられた、記者とのセッションを5テーマに分けて紹介する。Ⅰ:2023年3月期決算の受け止め
――社長として今回の決算をどう総括するか?
佐藤社長
最終的に2兆7,000億の営業利益をあげることができた。先期に対しても上回る実力を示せたのではないかと思います。
(営業利益の)変動を見ていただいた際に、お気づきの通り、為替の影響あるいは、資材高騰の影響などを含んで、それをさまざまな努力によって改善して、最終的な収益を確保できた。
一言で申し上げると、本当にクルマをつくり、お客様にお届けするのが大変難しい1年だったかと思います。
しかしながら決算の内容には、その過程でさまざまな、困難な時だからこそ生まれた工夫や努力があり、最終的に企業体質を強くしてくれるような要素が含まれていると感じています。
特に変動が大きかった生産計画に対して柔軟な対応をいただけた仕入先様の努力、あるいは弊社の中のモノづくりに携わるメンバーの努力。それからお客様の希望に合わせ、笑顔をお届けする努力をして下さった販売店の皆さま。そういったさまざまな努力が一つにつながって今回の決算になっていると思います。
一方で長期的に見ますと、長くデフレの傾向だったかと思います。その中で、クルマを中心に、「商品を軸とした経営」をやってきて、この10年、20年のスパンで見ていけば、国内のみならず対米でも、商品力を高めることができている実感があります。
最終的にはクルマをコモディティにせず、しっかりとした付加価値に正当な評価をいただいて、強いビジネスに持っていく。そのための努力に長年取り組んでいて、結果として、こういう厳しい経済環境の中でも、あるいは供給が難しい中でも、収益につなげられる企業体質をつくってくれたと思っています。
短期長期ともに、会社の体質が強化されてきていると感じる決算かと思います。
――売上高が上がっている理由として、クルマが売れたところが大きいと思うが、長納期化する中で、どうやってクルマを売ることができたのか?
長田准CCO(Chief Communication Officer)
長納期化する中での販売店のコミュニケーションですが、本当に地域によって、いろいろと工夫をしています。
日本の販売店であれば、基本的に納期がかなり長いということもありましたので、まず納期を一度きちんと分かるものをお返しする。分からないものは、いつになるかを示す。
「納期のステップが分からないことが、お客様にとって一番のストレスになってくる」ということがありましたので、こまめに我々の方から情報を提供する。それから販売店の方もきちんと回答していくことが、一番のコミュニケーションのベースかと思います。
それから日本については、半導体の種類の関係で納期をお待たせしていることもありました。だんだんと状況も改善しているので、徐々に納期のコミュニケーションが今までよりは改善していくと思っております。
長納期問題について、Chief Financial Officerを務める宮崎洋一副社長は、「(日本国内で)いわゆる受注残としてオーダーをいただいている台数は、4月末ぐらいまで80万台強」と報告。そのうち希望の納期までに届け切れていないのは「10%ぐらい」と続けた。
Ⅱ:仕入先との関係
――トヨタが直接支援できるのは1次仕入先まで。2次、3次には、どこまで(支援が)浸透しているのか、どのように把握しているのか?
山本正裕 経理本部長
原材料については、仕入先様と綿密に話をさせていただいています。まず我々が直接お話をさせていただいている、1次仕入先様。
そこから先の2次仕入先、3次仕入先の方は、いろいろなご意見があると思いますし、正直まだ道半ばの部分はあると思っています。引き続きサプライチェーンを、しっかり守っていきたいと(思います)。
それからもう一点、全体的な資材の高騰は落ち着いてきている、または中にはプライスが少し落ちてきているものがあると思います。
特に、日本の電力費が去年1年間かけて上がってきたところは、まだそのままの状態にあると思います。そこは引き続き仕入先様としっかり話をしながら、注視していかなければならないと思っています。
こういったことを当社と仕入先様の会話だけではなくて、自工会全体、産業全体の話として取り組んでいけるような働きかけを進めている状況です。
――国内生産をどのように受け止めているか? また電動化比率が高まってくると、つくる部品も変わってくるので、協力会社とのコミュニケーションをどうしていくのか?
佐藤社長
トヨタ自動車にとって国内の生産は、日本のモノづくりを守っていく原点であると思っています。
まずその位置づけを我々の中でブレない軸として持って、日本のモノづくりをどのように守っていくかを考えた取り組みをしていきたいと思っています。
電動化は、当然(クルマの)構成要素の部品自体は変わってまいります。
一方でいわゆるサプライチェーンを単なるビジネスとして捉えるのではなく、お互いの強みをリスペクトしたうえで、パートナーとして、共にクルマづくりに取り組むものとして、お付き合いをさせていただいています。
(仕入先)一つひとつに、それぞれ強みがございます。技術の要素一つひとつで見れば、構成する要素が変わっても、特定の領域に強い技術を持った仕入先様が大変多くいらっしゃいます。
そういったところで連携しながら、「我々がつくりたいクルマはこういう形ですよ」ということを今まで以上に早く示して、共に考えながら強みである技術を生かすビジネスに段階的にシフトしていくことが、大切だと思っています。