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「選ぶのはお客様」 脱炭素を目指す 電動化戦略 トヨタ中間決算 質疑応答#2

2020.11.17

豊田社長による決算会見の質疑応答を3回にわたって掲載。第2回はトヨタの電動化戦略について。

11月6日に実施された決算説明会では、決算の数字や、社長の豊田章男がスピーチで語った「トヨタフィロソフィー」のほかにも、トヨタの事業戦略に関して、記者の関心が高い質問がいくつか投げかけられた。

そのうちの一つがトヨタの“電動化戦略”だった。

電動車とは、車両の動力に電気を使うクルマのことで、HV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、EV(電気自動車)、FCV(水素燃料電池車)など、さまざまな種類がある。

しかし、世間では「電動車=EV」という理解で語られたり、「どの電動車が次世代の本命になるか」という議論がなされるケースが少なくない。

いずれにせよ、自動車メーカーや業界の未来を占ううえで、電動化は非常に注目度の高いテーマである。

そんな中、このコロナ禍をものともしない米・テスラの躍進は記者の関心事の一つになっており、会見では次のような質問が出た。

――テスラの業績が堅調。足元で車載電池の内製化を打ち出すなど、コスト競争力を高める動きが加速しているが、テスラをどう見ているのか? それを踏まえ、トヨタの電動化戦略を教えていただきたい。

まず、テスラについて、豊田が語り始めた。

豊田社長

まず、株式市場において、テスラの時価総額は約40兆円。

日系(自動車メーカー)社の全社の時価総額を合わせて33兆円なので、テスラ1社で日本勢の合計よりも大きな企業価値を生んでいるということであります。

テスラという会社はEVで利益を出す。また、ソフトウェアのアップデートでも収益を上げているビジネスモデルです。

再生エネルギーを含むLCALife Cycle Assessment)などCO2低減も進めるなど、彼らがやっていることは、我々にとっても非常に学べる点が多々あるのではないかと考えています。

豊田は、テスラを将来性への期待が反映された株価だけで見るのではなく、足元で取り組んでいる環境対応やビジネスモデルに言及し、「学べる点が多々ある」と認めた。

多くの自動車メーカーは、新車というハードウェアを販売することで、利益の大半を稼いでいる。そして、自動車のバリューはお客様の手元に渡った後、少しずつ低下していくというのが常識だ。

しかし、テスラはクルマを販売し、お客様がクルマを保有している間も、車載ソフトウェアを更新するなど、新しいバリューを提供し続けることで、収益を上げるビジネスモデルをとっていると言えそうだ。

そのうえで、豊田はトヨタの取り組みについて説明を続けた。

豊田社長

ただ、我々トヨタもCASE対応に関しては、この3年間で相当、先行投資を続けております。

2019年の株式市場の動きを見ると顕著に表れてきたと思いますが、トヨタは他の自動車セグメントとちょっと違う動きをし始めています。

CASEがらみのプレスリリースや決定が突出していた点が、株式市場でも認められているのではないかと思っております。

豊田はトヨタの株価が自動車産業全体と異なる動きをしている理由を「CASE対応への評価」と説明した

それに加え、私どもはTRI-ADToyota Research Institute Advanced Development)という会社を設立し、そこで、Areneというソフトウェアの取り組みを軸にした車両開発のやり方、ソフトウェア・ファーストの考え方を既に進めてきております。

確かに、ここ数年のトヨタのプレスリリースをさかのぼってみると、CASEに対応する取り組みを着実に積み重ねてきたことが見えてくる(末尾に詳細を掲載)。

ここまで、テスラとトヨタについて、それぞれを分析してきた豊田だったが、ここからは少し踏み込んで、両社の違いを“レストラン”に例えて言及し始めた。

豊田社長

テスラにないのは、1億台を超える保有であり、リアルの世界だと思います。

保有とリアル・ビジネスのことをキッチンとシェフに例えると、テスラのビジネスはキッチンもシェフもまだできていない中で、レシピをトレードして、「将来はうちのレシピが世界の料理のスタンダードになるよ」というもので評価されていると思います。

ただ、私どもはキッチンもあれば、シェフもいる。そしてリアルな料理をつくり、目の前で食べていただける口うるさいお客様もおられると思います。

そういう方々とともに、世界各地でエネルギー事情が異なりますので、いろいろな電動化のメニューを持っている我々が選ばれるのではないかと思っております。

現在の株式市場での評価は(テスラに)完全に負けておりますが、我々もそれを横で見ているだけではなく、確実に手を打っています。

リアルの世界での電動化フルラインナップメーカーであるという点では、一歩先を行っているのではないかと思います。

豊田から引き継ぐ形で、トヨタの電動化戦略を指揮するChief Competitive Officer(CCO)の寺師茂樹が電動化のコアとなる考え方を解説し始めた。

寺師CCO

先日、菅総理が2050年にカーボン・ニュートラルを目指すと宣言されました。これは2050年、モビリティの世界はゼロ・エミッションのクルマでないと実現できないと思います。

こういう状況の中、世の中は環境規制が厳しくなってきております。これから2050年に向けて実現をしていくためにも、いろいろな技術が必要になります。

例えば、水素が余っている地域では水素を使えばいいし、再生エネルギーなど、いろいろ電気が余っているところは電気を使えばいいし、それをまた水素にすればいい。いろんな選択肢があると考えています。

どちらか一つだけが進めばいいというものではないと思っています。ですから、その地域、お客様、規制のレベル、環境がそれぞれのモビリティを選択する。

そのときにトヨタは、どのお客様でも選択できるクルマを提供できるよう、日々活動していくということではないかと思います。

それと、社長の豊田が申しましたように、結局モビリティを選ぶのはお客様。規制がどうであれ、お客様が選択したもので、最終的にカーボン・ニュートラルを目指す。

この2つの要因を同時に実現させることによって、技術を高めていく必要があると考えています。

我々がフルラインナップメーカーとして、FCVEV、当面の間、一番実効性のあるのはHVだと思っていますが、その次にはPHVがくるでしょう。

そういった複数のものが、年とともに徐々に分布が変わって、最終的にはゼロ・エミッションの世界が実現できるという形で、その都度、環境変化に対応できるように我々は考えていきたいと思います。

豊田が次世代の電動車の本命を聞かれるとき、必ず使うのが「決めるのは“市場”と“お客様”」という言葉である。

EVだけが電動車ではない。お客様のクルマの使い方をはじめ、インフラ、資源、政府のエネルギー・環境政策によって、最適な解は異なってくる。

そのすべての電動車を全方位で取りそろえたフルラインナップメーカーであるということは、より多くのお客様の声に対応できるということである。

自動車メーカーが「これが次世代電動車の本命だ」と決めて引っ張っていけるほど、“市場”と“お客様”は甘くない。そんな考え方が、トヨタの電動化戦略には表れているのかもしれない――。

最終回となる次回は、今年年初に発表された未来の実証都市、Woven Cityについて。来年着工を予定しているこの街について、現在の進捗を取り上げる。

トヨタのCASE対応関連リリースのタイトル一覧(過去3年間)
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