豊田社長による決算会見の質疑応答を3回にわたって掲載。第1回は社外で初めて語った「トヨタフィロソフィー」について。
これまでトヨタイムズでも報じてきた通り、2021年3月期 第2四半期決算説明会には、社長の豊田章男が出席し、スピーチを行った。
スピーチは大きく2つのパートに分かれていた。一つは、「決して成り行きではない」という上半期実績の受け止め、もう一つは、トヨタのぶれない軸を明文化した「トヨタフィロソフィー」に基づく企業活動の宣言だった。
その後行われたQ&Aセッションでは、この決算で初めて語られた「トヨタフィロソフィー」について、いくつか質問があがった。実はこの「トヨタフィロソフィー」は、60年以上前、創業者の豊田喜一郎が亡くなった後に、たすきを受けた経営陣によってまとめられた「円錐形」がベースになっている。
自動車産業は今、「100年に一度」の大変革の時代にある。そのような環境下で、グローバル37万人の従業員とその家族のために、そして、これからのトヨタを支えていく次世代のために、先の円錐形をまとめなおしたのがトヨタフィロソフィーである。
トヨタフィロソフィーでは、トヨタのミッションを「幸せの量産」と定義し、ビジョンには「可動性(モビリティ)を社会の可能性に変える」を掲げている。
なぜ今、トヨタは新しい理念を立ち上げたのか? どんな想いをこのトヨタフィロソフィーに込めたのか? 何が豊田を突き動かしているのか? 豊田の回答を通じて、ミッションに掲げられた「幸せの量産」を掘り下げていく。
大切なことは「トヨタらしさ」を議論していくこと
――なぜ今、トヨタフィロソフィーをつくり、「幸せの量産」を定義したのか?
豊田社長
私が社内でいろいろな従業員と語るときに、「戦う」という言葉をよく使っていたようです。一方で「対立軸をつくるな」とも言っているので、「誰と戦っているんですか」と従業員から質問されたことがあります。私自身も「誰と戦っているんだろう」と思ったことがありました。
そして、それは「トヨタらしさを取り戻す戦い」だと思ったわけでございます。「トヨタらしさ」とは何だろうと考えていたとき、私がコロナ禍で引きこもっていたトヨタグループの研修所で従業員の1人が先ほどお見せした円錐形を探し出してきました。
それをベースに新しいゴール、ミッション、ビジョンを書き加えたものが、今回示したものであります。
ところが先ほど、ある監査役から「トヨタは相変わらず、必要なものだけつくっていればいいと思っておられますね。ネアンデルタール人ではなく、なぜホモサピエンスが生き残ったかご存知ですか」という質問を投げかけられました。
その監査役によると、「ネアンデルタール人は、必要なものをしっかりつくっていたが、ホモサピエンスはそこに美しさとか、楽しさとかいうものを加味した。必要なものだけビジョンで語っていても生き残れませんよ」とおっしゃいました。
トヨタ生産方式の話に戻りますが、「トヨタは決して効率化を求めているものではない。仕事を楽にさせてあげること」と私は今まで申し上げてきました。その監査役のアドバイスを受けて、これからは「楽」にするだけでなく、「楽しく」しなければならないのだろうなと(感じました)。
「楽」と「楽しい」は同じ字を書きますが、楽しさ、うれしさ、そして好きという感情があるから、人びとは我々を支持し、生き残らせてくれるのだと思います。
フィロソフィーをつくったことで、いろいろなアドバイスも集まります。大事なことは、あの円錐形をベースに「トヨタらしさ」を議論していくこと。そして、環境変化に向け、自分たちを見直していくための道具として使うべきではないかと思っております。
SDGsも「トヨタらしさ」と照らし合わせながら、世の中から評価を受け、いろいろなパートナーから選ばれる会社を目指し、全社一丸となって今後も努力を続けてまいります。ぜひとも応援いただきたいと思います。
「幸せの量産」を継続できるのか?
――トヨタフィロソフィーは、持続できるかが問題。過去の日本企業で、創業の精神にいいことが書かれていても、利益だけを求め、自社のことしか考えない会社があったのも事実。今後、変わらないためには、今のままでいいのか、それとも今後何か必要なのか聞きたい。
豊田社長
フィロソフィーは決してゴールではありません。スタートポイントだと思っております。今後、状況が変わり、次のトップが悩んだときに、羅針盤として活用してもらえればいいと思っております。
私は利益を追求することは悪いことではないと思います。企業である以上、利益を出して、しっかりと税金を納める。これはトヨタが一番良しと考えている社会貢献だと思っております。なので、利益ばかり求める会社が悪いのではなくて、出した利益を何に使うのか、誰のために使うのか。そういったことを理解した人間をつくっておくということが大事なのではないかと思っております。
とかく、利益を出したことが悪いとされる場合がありますが、利益を出さない会社は、やはり未来への投資はできないと思います。私が社長になった当初は、赤字の会社でした。そんな時は、全部ブレーキせざるを得ないんです。
今は未来への投資も、従業員も確保でき、より楽しめる仕事にシフトすることもできます。ところが利益が出ないと、それはできず、ただブレーキを踏むだけになってしまうので、ぜひとも、ステークホルダーの方々には、トヨタが利益を出すことに対してのブレーキは踏まないようにしていただきたい。
ただし、その利益をどう使うんだ、何のために使っているんだ、どういう意志でやっているんだというところは、厳しく批判を含め、やっていただきたいと思います。
私どもは、そういうご批判やアドバイスに耳を傾けながら、長い目で「あの決断はよかったね」「あの動きは、みんなが反対してたけど、今になればターニングポイントだったね」と言われるような決断を今後も日々、やっていきたいと思います。ぜひとも今後も叱咤激励、よろしくお願いをしたいと思います。
豊田章男を突き動かすもの
決算会見の参加者はメディアが中心だったが、一部の大株主も出席していた。記者からの質問が数問続いた後、日本生命保険の清水博社長から手が挙がった。指名を受け、清水社長は「トヨタの株を長期にわたって持つ機関投資家として質問させていただきたい」と切り出した。
日本生命保険 清水博社長
まず、豊田社長をはじめとする経営陣、従業員の方々の大変な努力、達成された成果に、敬意を表したいと思います。
従来から豊田社長の言葉に大変注目をしております。「意志ある踊り場」「モノづくりは人づくり」「過去に時間を使うのは自分で終わりにしたい」などが印象に強く残っています。本日も力強い信念とフィロソフィーを伺いました。簡潔で力強く、豊田社長の決意を示していると感じております。
豊田社長は、国、または、世界レベルでの大きな責任を自らが背負うことをいつも考えているのではないでしょうか。
国内生産300万台体制の維持を掲げることについては、日本のものづくり、雇用、技術、人材を守り抜くという決意の表れ。モビリティ・カンパニーへのフルモデルチェンジするのは、Woven Cityに代表されるように、まだ誰も想像したことのないモビリティ社会の未来を、トヨタを中心に実現することに真の狙いがあるのではと感じています。
そして、その実現には他社とのアライアンスによる企業連合づくりが欠かせないと理解しております。
このように、トヨタの枠にとどまらず、トヨタを中心にした未来の社会づくり、「幸せの量産」のために先頭に立って疾走している豊田社長を熱く突き動かしているものは何か、ぜひ教えていただきたいと思います。
豊田は「くすぐったいご評価をいただき、本当にありがとうございました」と少し照れくさそうに、回答を続けた。
豊田社長
多分、一つは「悔しさ」なんだと思います。社長になった時から「あなたにはできないでしょ」「あなたは苦労も知らない」「現場も知らない」と言われ続けてきました。
「お手並み拝見」と失敗するのを待たれ、「そら見たことか。失敗したね」という状況の中で、なんとかやってこれたのは、数々の危機に遭遇したからだと思います。
私にとって「危機」とは、「危機」と「機会」。いわば「ピンチ」と「チャンス」の両方だと理解しております。
数ある「ピンチ」を「チャンス」に変えていくことで、「あなたにはできないでしょ」というところを「できましたね」と言っていただけるように、ずっと「負け嫌い」の気持ちで頑張ってきました。
もう一つは、「創業メンバーの無念を晴らしたい」。80数年の歴史を持つ会社の現役をつかさどっているのが、私をはじめとする経営陣だと思っております。(しかし、)創業グループは本当に良いところを何も見ていない。
私も、「自動車会社をモビリティ・カンパニーに変えよう」と言ったときに、創業メンバーが「織機から自動車に変えていこう」といったことが大変辛く、チャレンジングな第一歩だったろうなと思っておりました。
我々現役はその恩恵をずいぶん被っているわけですが、未来の世代に対して、本当に恩恵を与えられるのだろうか。
トヨタが中心ではなく、トヨタがともに未来をつくりたい方から選ばれる存在になるべきなのではないか、という想いが私自身を動かす原動力だと思います。
それに、あえて付け加えるのであれば「ジャパンラブ」だと思います。トヨタはグローバル企業ですので、その町いちばんの会社を目指し、進出する国から選ばれるように努力しております。
それができるのも、創業メンバーがこの日本で自動車会社の産声を上げてくれたからだと思うので、日本に自動車会社で貢献したい。トヨタの仕事で貢献したいということが、大きなポイントになるのでは思っております。
最初のうちは確かに一人ぼっち感がありました。笛を吹けど、後ろを振り向けば誰も踊っていない状態から、今は全員とは言いませんが、一緒に踊ってくれてる人が増えております。
次の世代のトップは未来を向いて走っていけるようなバトンタッチができるよう頑張っていきたいと思いますので、引き続き、応援をよろしくお願いしたいと思います。
次回はトヨタの電動化戦略について、投げかけられた質問への回答を取り上げる。