日本の自動運転社会は「事故死ゼロ」と「移動の自由」を最上位目標に。日本自動車工業会が実現に向けた方針を示した。
2026年9月17日、日本自動車工業会(自工会)は記者会見を開き、「新7つの課題」の進捗報告を行った。
今回は「⑤⾃動運転を前提とした交通システム確⽴」が主な議題となった。
自動運転は、政府が掲げる日本の成長戦略における主要な技術の一つ。だが日本は諸外国に比べて遅れていると言われる向きもある。集まった報道陣からも自工会としてどう日本の勝ち筋を描いていくかと問われ、佐藤恒治会長(トヨタ)は「技術的には負けていない」と語った。
日本の技術は遅れているのか?
佐藤会長
手段が目的化しないようにしていきたいと思っています。機能価値がどれくらい進んでいるかはもちろん大事ですが、最終的に目指す社会がどのような社会なのかを視野に入れながら、技術の進化をどんどん取り込んでいく。
日本の交通環境は他国と比べて特殊性が高いです。歩行者が乗用車や商用車と近接で交通量があり、信号や高速道路の設計、あるいはETCなどインフラとの協調性を持って安全な交通システムができています。
インフラとモビリティがハーモナイズしながら、高度で安全な交通社会をつくってきているという日本らしい形があります。
その中で、我々が将来目指す社会に向けて足元を見るに、自分たちが持っている技術が遅れているとは決して思っていません。いろいろなお声をいただくのは重々理解していますが、技術的に我々は負けていないと思っています。
ただ、その技術を社会実装していくというところに課題感がある。高市(早苗)政権の「戦略17分野」の中でも自動運転を重視していくということで、国が非常に大きな方向性を示していただいています。投資の予見性に対し、しっかりと後ろ盾を持っていただいている中で、より強いエネルギーを持って社会実装を進めていこうということです。
ゆえに、まずは足元、我々が持っている技術を社会に実装していくことを、とにかくスピードを上げてやっていく。それによって社会認知を高めていくことが第一に必要だと思います。
個社の努力はもちろんですが、(業界)全体としての自工会の役割は、基盤となる認知を社会とコミュニケーションしていくことだと思っています。
「事故死ゼロ」と「移動の自由」
自工会が目指すのは「事故死ゼロ(究極的には事故ゼロ)」と「移動の自由」を両立する日本型の⾃動運転社会の実現だ。そのために国・地方自治体・関連団体との連携を前提とした、社会全体での取り組みとして推進する。
共通課題は次の3点。
1,インフラ協調
先日のタテシナ会議でも紹介されたスマートポールなどの道路インフラ、通信ネットワーク、公共情報を連携。クルマ以外のさまざまな情報を統合した「情報管制プラットフォーム」を構築し、日本型の安全・安心な社会づくりに貢献する。
2,社会信頼基盤の整備
自動運転の社会的な受容に向けては、市場投入後も事故やインシデントを検証し、被害者の救済や調査、安全改善から社会説明までを官民のガバナンスで実施。制度と技術を継続的に更新する仕組みづくりを進める。
3,技術の市場浸透
安心して使える自動運転技術を普及していくため、独立した評価主体が検証・公表するほか、評価・購入支援制度などを充実。運転をやめた後も自由な移動を支える社会基盤づくりを進め、技術の浸透を図る。
こうした課題は業界横断で取り組む「協調領域」と定め、確立した仕組みを国際競争力につなげていく。
一方で自動運転のコアとなるAI活用やE2Eによる自律性能向上については、各メーカーが競争領域として取り組むとした。クルマだけでなく、自転車やバイクなども走り、道路環境も複雑な一般道であっても、クルマが自律性を持って、右左折や信号認識までサポートする。そのような技術開発は、各メーカーがしのぎを削ることで、早期の市場投入を促していく。
今回、理事会直下に「自動運転プロジェクトチーム」を新設。特定非営利活動法人ITS Japan*にも専門チームを置いて歩調を合わせるほか、関連省庁・組織と連携して目標達成に取り組む推進体制も発表された。
*ITS Japan:ITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)の発展・普及・実用化を推進する特定非営利活動法人。自動車、電機、通信、道路インフラなどの企業・団体や学術界が参加し、産官学連携による政策提言や標準化、国際連携に取り組んでいる。次世代モビリティ委員会の山本委員長が会長を務める。
産業全体でスピードを上げる
佐藤会長も社会実装を加速させていくと強調した。
佐藤会長
2018年ごろ、豊田章男自工会会長の時代から、日本における自動運転のあり方について、議論を続けて参りました。「事故死ゼロ」と「移動の自由」の2つの軸をぶらさずに、インフラと協調しながら調和あるモビリティ社会をつくるという観点で、ロードマップを定めました。
特筆したいのは、スピードを上げていくということです。社会実装を進めながら、いわゆる自律制御型自動運転のレベルを高めていきたいと思います。この領域は、各社が持っている技術を活かしながら、産業全体としてスピードを上げていく領域になろうかと思います。
その上で、中長期的には、自動運転で「安全安心」「移動の自由」を担保していくための社会システムをどうつくっていくかという議論になろうかと思います。インフラとの協調も含めたそのような取り組みを、今回ロードマップとして落とし込みました。
イヴァン・エスピノーサ副会長(日産)はメーカー同士の協調は可能だとする。
エスピノーサ副会長
日本の自動車業界の強みの一つは、業界全体でいろいろな取り組みを協調して進めていることだと思います。私たちは「事故死ゼロ」と「移動の自由」という共通のビジョンを、すべてのメンバーと共有しています。
さらに、大変高度な共同作業が可能であるというユニークな強みも持っています。例えば、安全技術やインフラの実装、車両同士の通信、車両と都市インフラの連携などです。
こうした強みを通じて、私たちは日本の自動車メーカー(OEM)が世界で誇れる競争優位性を持てると強く信じています。
三部敏宏副会長(ホンダ)は、通信の周波数など個社ごとの違いはあるとしつつも、そういったことを乗り越え国際標準化の場に持ち込む必要性を語った。
三部副会長
個社で違ういろいろな考え方を一つにまとめていくという作業は、非常に重要ですし、やらねばならないと思っています。各社協調しながら、できれば世界を目指してインフラを含めた自動運転のシステムをつくっていく。
これは結局社会基盤、交通基盤になるもの、今までの「自動車」というようなカテゴリーではなく、最終的には社会のインフラの一つになると認識しています。
また日本の自動運転の進み具合についても、三部副会長は次のように話している。
「アメリカや中国など自動運転が進んでいるところもありますが、本当の意味で(自動運転を)社会が受容したかと言えば、まだまだ不十分なところもあり実際の事業として成立している訳ではない」。日本での協調を進めながら「2030年断面くらいには、ぜひとも実効性のある、社会が受容できる事業にしていきたいと考えています」と続けた。
社会実装、困っている地域から
自動運転を実装していく地域については、皿田明弘 安全技術・政策委員会副委員⻑(トヨタ)が以下のように回答した。
皿田 安全技術・政策委員会副委員⻑
お客様や地域の方々が困っておられるところからまず始めようという考え方で進めています。
そのためには、多様なデータを取ることが本当に大事になります。また、地域の皆さまと一緒に参画して取り組むことで、より精度の高いデータを集め、お困りごとに応えていくことができます。
そして、一緒に交通社会をつくっていくんだという機運を高めることも、あわせて進めていきたいと思っています。
AI活用と安全確保
自動運転の開発に欠かせないAIについての質問も。
昨今アメリカで巻き起こっている、AIの暴走を受けて開発を規制または促進すべきかの議論を自工会がどう見ているのか。また、自動運転社会のロードマップへの影響はあるのかを問われた。
佐藤会長は「自動車・モビリティに特化したAIの進化の姿をもっと考えていかないといけない」と述べ、⼭本圭司 次世代モビリティ委員会委員⻑(トヨタ)が以下のように続いた。
⼭本 次世代モビリティ委員会委員⻑
自動車業界がAIとどう向き合うかには、いろいろな切り口があると思います。一つは、AIを武器として車両性能の向上に使うことです。
ただ、フロンティアAI*が出現することによって、AIによる脅威は大きく高まっています。自工会でも、そうした攻撃に対していかに防御するか、クルマがハッキングされない仕組みをどうつくるかという議論を始めています。
*現時点で最先端の性能を持つ汎用AI。社会に大きな影響を及ぼし得るとされる。
また、開発プロセスの中でソフトウェアの秘匿性をいかに上げるかも課題です。高度なAIがソフトウェアを分析することで、クルマの脆弱性が表に出てくる危険性もあります。
そうしたフロンティアAIによる被害も想定した上で、自動車業界としての構えをどうするかについて自工会の中でも議論を始めているところです。
日本らしい自動運転社会の実現をはじめとした、「新7つの課題」への取り組みは続いていく。