日本の自動車産業が生き残っていくために、トヨタと仕入先が本気、本音で向き合える関係へ。佐藤恒治社長、近健太次期社長が仕入先トップに語ったメッセージを紹介する。
「危機感」を全員の共通認識に
ここで、佐藤社長は表情をグッと引き締めた。伝えたのは、日本の自動車産業が置かれている現状についての危機感だった。
通商環境は不透明さを増し、地政学リスクも上昇。新興メーカーは、圧倒的な開発スピードとコスト競争力でお客様の支持を伸ばしている。
「気を抜けば、私たち日本の自動車メーカーは、すぐに足をすくわれてしまう」
佐藤社長は、こう話し、日本が勝ち残っていくための強みと課題について説明した。
佐藤社長
日本のモノづくりの強みは1社1社の専門性を活かした強固なサプライチェーンです。この強みは、何があっても守り続けるべきです。
課題はスピードだと思います。
新興メーカーとのこうしたスピードの違いは、コスト競争力や新技術の導入タイミングの速さ、すなわち、クルマの商品力に直結していきます。
何もしなければ、この差は広がっていく一方だと思っています。
今のままでは、生き残れない。
まずは、この「危機感」を全員の共通認識にしたいと思います。
この先、厳しい戦いが待ち受けています。だからこそ、私たちは一体となって勝ち抜く力を高めていかなければなりません。
そのためには、徹底的に生産性を向上させていくこと、そして新しい価値を生み出す挑戦にしっかりとリソースを振り向けることが必要です。
まずやるべきことは「当たり前ができていない」そんな足元の課題を少しでも早くゼロにすることです。
「当たり前ができていない」。佐藤社長は、工場の稼働停止によってお客様をお待たせしていることへ悔しさをにじませた。
佐藤社長
依然として、多くのお客様をお待たせしています。稼働停止の要因の多くが、トヨタ・仕入先様双方での設備トラブルや品質の不具合によるものです。
この2年間、サプライチェーン一体となって「人への総合投資」、現場力がしっかり発揮される環境づくりを進めてまいりました。
ここからは、結果につなげていくことが必要です。
1台でも多くクルマをつくるために、もう一段ギアを上げて、徹底的な品質のつくりこみなど、踏み込んだ努力をみんなでしていきたいと思います。
そのうえで、今までにないレベルの生産性を実現するためには「仕事の前提条件」を変える、すなわち「やめる」決断が必要だと考えています。
どの現場にも長年続けてきて「変えられない」と思い込んでしまっていることがたくさんあると思います。
トヨタでも、新しい仕事がどんどん増えている中で「念のため」「変えるのが不安なんだ…」、そんな意識が壁となり「やるべきこと」が積み重なっています。それにより、付加価値の高い仕事に時間を割けていない現場がたくさんあります。
例えば、一部の技術開発においては、過去の知見を活用して開発を効率化するそのツールであるはずの「トヨタスタンダード」が、いつの間にか「ルール」となり、膨大な「作業リスト」になっている。そんな現実があります。
この状況を変えていくために、項目一つひとつを精査して、技術の進化を踏まえた開発プロセスの合理化を徹底的に進めていきます。
さらに開発の上流から前提条件を変えて、ソフトウェアの種類やパワートレーンの組み合わせの数を大きく減らしてまいります。
現場に余力を生み出して、自分たちの技術力を徹底的に磨くことに、もっともっと時間を使っていきます。
これまでトヨタ側の現場、現物の理解不足ゆえ、仕入先の皆様に多くのご負担をおかけしてきたことがあると思います。
そのことを真摯に反省して、サプライチェーン全体で仕事の正味、生産性を上げるために、自分たちの行動を変えていきたいと思います。
クルマづくりのプロセス全体で、仕入先の皆様と一緒になって「変えるべき」前提条件がたくさんあると思います。
SSA*1やAREA35*2の取り組みでも、仕入先様の現場の声が品質の最適化や種類削減につながった事例がたくさんあります。
*1:Smart Standard Activity。トヨタが仕入先の困りごとに向きあって行う品質・性能基準適正化 特別活動。
*2:お客様のニーズを正しく把握して、仕様や部品の種類を適正化する活動。部品種類と部品を保管するスペースの35%減を目指す。
私たちは、チームでクルマをつくっています。今一度、その意味を考えたいと思います。
現場で聞かれるこんな声。「トヨタさんのおっしゃる通りに…」
その言葉はもうやめましょう。
それぞれがプロ意識を持って、知恵を出し合って、お互いの仕事のやり方を見直していきましょう。
そのヒントは、必ず現場にあるはずです。
皆様と一緒に、現場の声にしっかり向き合って、行動につなげていきたいと思います。
提案力
佐藤社長
この先の戦いを勝ち抜くためには、専門性を活かした皆様の「提案力」が必要です。
その力をしっかり発揮いただくために、まず生産性を徹底的に高める。そして、新しい価値を生み出す挑戦を加速して、それぞれがもっと強くなる。
そんな好循環を皆様と一緒につくっていきたいと思っています。
そのうえで、世界のライバルと戦っていくためには、産業規模でも、この好循環を生み出していかなければなりません。
サプライチェーン全体の競争力向上のためには、自動車メーカー同士、仕入先様同士での踏み込んだ連携も必要になってまいります。
さらに、新たなモビリティの社会実装を加速するためには、エネルギーやインフラなど、産業を超えた仲間との連携が欠かせません。
それぞれの会社で、そして産業全体で、生き残りをかけて戦い方を変えていく。
こうした取り組みを、スピードを上げて実行に移していくために、私たちトヨタは経営チームのフォーメーションチェンジを行います。
4月から社長を務める近は、トヨタに軸足を置き、私自身は産業に軸足を置いて、皆様とともに、トヨタと自動車産業の競争力向上に力を尽くしてまいります。
これまでも、これからも、私たちのブレない軸は、会長の豊田のもと皆様と一緒に取り組んできた「もっといいクルマづくり」です。
トヨタは、クルマ屋として技術力を磨き、仕入先の皆様は、それぞれの専門性を磨く。
モノが言い合える関係を大切にして、ともに新たな価値を追求する。
この両輪の関係をしっかり守り育てていきたいと思っています。
「未来はみんなでつくるもの」
この想いを1つでも多く実践に移して、もっといいクルマをつくり、クルマの未来を変える挑戦を加速していきましょう。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
ここまで語り終え、佐藤社長は「新たに経営チームのキャプテンを務める近より、今後の取り組みにかける想いをお話し申しあげます」と近次期社長をステージへ呼び寄せた。