"クルマをハッキングする大会"をトヨタが開いている? 参加した学生が夢中になるのはなぜ? 取材すると、ある重要な狙いが見えてきた...
ハッキングは本来、守るための技能
実は、Hack Festaのようなハッキングの腕を競う大会は、サイバーセキュリティの領域では盛んに行われている。
その目的は、ハッキングに精通し、セキュリティの脆弱性を客観的に評価・対策できる“倫理的なハッカー(エシカル・ハッカー)”を育てるためだ。
情報通信企画部の遠山主幹は、トヨタがそのようなイベントを開く意義について、こう語る。
情報通信企画部 InfoTech-IS 遠山毅 主幹/プリンシパル・リサーチャー
本来、「ハッキング」はネガティブな言葉ではありません。ライフハックという言葉に通じるように「なにかをやり遂げる、極める」という意味もあります。
サイバーセキュリティの領域では、悪質な被害をもたらす行為を「クラッキング」、技術的な探求心によるセキュリティ改善のための検証を「ハッキング」と呼び分けています。
一部の悪例が偏ったイメージをつくっていますが、ハッキングは一つの技能です。手と頭を動かし、研鑽に費やしてきた時間があるからこそ得られるもの。
その技能を自動車業界で活かしたいという人を、増やしていかなくてはならない。
IT系の学生にとって、スキルを育てる場所として自動車業界が思い浮かばない。敬遠されているのではなく、そもそも知られていないのが実情。
だからこそ、クルマのサイバーセキュリティにはこんな楽しさがある、自動車業界という選択肢があると示したい。Hack Festaはそんな思いから出発しています。
人は、楽しめる場所で育つ
興味の一歩目には“楽しい”という感情が必要。遠山主幹はそう語り、Hack Festaが単なる技術系のイベントではなく、学生たちが夢中になれる競技にしているという。
難しい課題には協力して立ち向かえるようチーム制を採用。制限時間内に多く得点すれば勝ちというゲーム性も取り入れた。
困った際にアシストするメンターも配置し、競技に熱中できる環境を用意。現場では、課題を解き終えた学生たちのハイタッチが響いていた。
「ただ待っているだけで人は来ないし、育たない。共感と興味をもって学生たちに歩み寄り、自動車業界にはこんな楽しさがある、こんな風に成長できる環境があると示したい」と遠山主幹は語る。
参加した学生に話を聞くと「クルマと関係のない研究をしているが、トヨタがこんな大会を開くと聞き、楽しそうで参加してみた」「自動運転のセキュリティに関する課題が特に面白かった。関連職種への就職も考えたい」などの声が。
過去にHack Festaに参加した学生が、自動車業界に就職した実績は多いという。
「トヨタに入社してほしいのではなく、自分が活躍できる場所を自動車業界に見つけてほしい」。遠山主幹はそう付け加えた。
また、Hack Festaにはもう一つ、注目すべき点がある。以下をご覧いただきたい。
このアタッシュケースのような装置は、学生たちがハッキングに使っていたシミュレーターだ。
実はこれ、トヨタが開発した“クルマの機能を持ち運びできる”デバイスらしい。
“パスタ”という名前だが、ある秘密が隠されているらしく・・・