"クルマをハッキングする大会"をトヨタが開いている? 参加した学生が夢中になるのはなぜ? 取材すると、ある重要な狙いが見えてきた...
「ハッキング」という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか?
一般的な意味では「システムやネットワークに不正侵入し、悪質な被害をもたらす行為」とされている。
映画や漫画などで「ハッカー」は犯罪者のように描かれることが多い。
パソコンの画面に数字や記号が並び、キーボードを叩いてデータを盗む、機械の操作を乗っ取る。そんな場面を見たことがあるかもしれない。
では、トヨタが“クルマをハッキングする大会”を開催していると聞いたら、どう感じるだろうか?
日本だけじゃなく、海外でも開催!?
会議室に集まった学生たち。パソコンに向き合い、ある“競技”に熱中している。
イベントの名前は「Hack Festa*(ハック・フェスタ)」。IT系の学生が参加し、ハッキングの腕を競い合っている。
*トヨタ、Toyota Motor North America, Inc.、Toyota Tsusho Systems US, Inc.の共同開催
学生たちは4人ほどのグループを結成し、与えられた課題にチームで取り組む。内容は「スピードの調整機能を制御しよう」「エンジンの回転数を書き換えよう」など、すべてクルマに関するもの。
それらをシミュレーター上で実践し、課題を一つクリアするごとにポイントを獲得。最終的な得点数が多いチームが優勝というルールだ。
また、開催地は日本だけではない。アメリカとアイルランドでも行われている。
なぜ、そんな大会を開くのか?ハッキングなんて大丈夫なの?
開催メンバーである情報通信企画部の小熊主査に話を聞くと、まずは自動車業界の課題を知る必要があるという。
便利になるクルマ。新たな脅威
情報通信企画部 InfoTech-IS 小熊寿 主査/プリンシパル・リサーチャー
今、クルマはインターネットと接続することで、かつてない進化を遂げようとしています。自動運転やコネクティッドカーなどが、分かりやすい例です。
また、最近ではSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)という概念も登場しました。端的に言えば、クルマの購入後も搭載ソフトウェア(OS)を更新することで、スマートフォンのように機能を拡張し続けられるようにする考えです。
インターネットと密接につながることで、利便性が向上する。一方で、悪意ある第三者がハッキングしやすくなってしまう。
その被害からお客様を守る「サイバーセキュリティ」が、トヨタだけでなく自動車業界全体の課題として、今まで以上に重要になっています。
クルマがハッキングされた場合の深刻な被害としては、走る、曲がる、止まる機能の制御を失う可能性もあるという。
一例として、以下の映像をご覧いただきたい。走行中にハンドル操作を奪われた場合のシミュレーションだ。
これが現実に起きたとき、冷静に対処できるだろうか?
小熊主査の所属する情報通信企画部は、このような被害を防ぐための研究を行っており、脅威に対抗するイベントとしてHack Festaを開いているという。
サイバーセキュリティを強化するために、ハッキングの大会を開催する。矛盾して聞こえるが、どういう意味なのか?